29・冬のサメル村
王都より標高の高いサメル村は寒い。
雪がうっすらとしか積もらないのと、強い風の吹く日が少ないのが救いだ。
それでも畑仕事は少なくなり、村人は家の中にいることが多くなる。
なので、子供たちへの読み書き計算の勉強は、親が教えるので冬に限られていた。
「マサルさん、お願いが有るのですが」
店に来たロマンヌが聞いてくる。
「何でしょうか」
多分ろくでも無いことだと思うが。
「子供たちに読み書き計算を教えてくれませんか」
「えっと、そう言えばこの村には学校も学習塾も有りませんね」
「ええ、もう少し大きい村や町には教会が有って、そこで子供に教えているとこも有るのですが、あいにく教会も無くて、家で親が教えているのですが」
「親では、あまり上手に教えることが出来ないと。でも俺もただの冒険者ですよ、教えるのが上手とは限りません」
「そんなことありません、バイトに来ている人たちがマサルさんの教え方は上手だと言っています」
「えっと、それは」
「マサルはバイトが育ては自分が楽になるって言っていたな。ロマンヌさん、マサルは自分の為にならないと何もやらない人間なんだ。世間でいう『くず』ですよ」
「おいギャ、くずとは何だくずとは。わかりましたロマンヌさん、空いた時間で良ければ教えますよ」
「大丈夫だよロマンヌさん。冬の間は薬草採取にいかない、マサルは暇だ」
「暇なわけ無いだろ。薬作りと料理はやるんだぞ。それに兎狩りは続けるからな」
魔獣兎のメスは確保してある。取りあえずただの兎との間に子供を作らせているが出来ればオスも欲しいところだ。
「兎狩りでしたら村の若者にやらせますよ。どうせ猪狩りは続けていますから」
「・・・・・・はい。学習塾の講師、務めさせてもらいます」
「マサル、頑張れ」
こうして冬の間は学習塾の講師になることが決まった。
冬の間、畑仕事が全くないわけではない。
土を耕し、ロバの糞から作った堆肥を混ぜていく。
酸化した畑には石灰を混ぜたりと土づくりをするからだ。
だたこれらの作業は子供の手伝いはそれほどいらない。
ロバに鋤を引かせて耕すからだ。
山での狩りに子供は連れていけない。
俺も薬草採取はやらないので子供の手伝いもいらなくなっている。
「マサル、子供の仕事、屋敷の掃除だけだな」
「そうか、屋敷を学習塾にするか、あそこなら部屋が余っているからな」
俺が来てからは子供たちが交代で掃除に行っている。
大きな部屋には暖炉も有るしちょうど良さそうだ。
「マサルさん、あの屋敷はバルノタイザン家のモノです。勝手に使っては怒られます」
「それじゃあ、バルノタイザン商会のムサイさんに、学習塾をやってもいいか聞いてみます。了解が取れたら屋敷で学習塾を始めます」
「・・・そうですね、他に良い場所も思いつきませんし、私からもお願いしてみます」
「大丈夫ですよ、きっと了解してくれます。もうすぐ昼の食事にムサイさんが食堂に来ますから」
ムサイさん、食堂の休みの日曜日以外は毎日昼飯と夕飯を食堂サクラに食べに来ているからな。
食堂に来たムサイさんに屋敷の使用をお願いする。
王都のおやじに許可をもらうには、手紙のやり取りだけで二週間はかかる。
学習塾の開始はその後になるかと思ったら。
「それくらいなら使っても大丈夫ですよ。商会のほうでも使い道が無くて困っていましたからね、まあ一応報告書だけは送っておきます」
社員のムサイさんから許可が下りてしまった。
何気に『マサル様はバルノタイザン家の御子息ですから』の意味を込めてウィンクしたのは見なかったことにする。
こうして学習塾が始まった。
そして、塾には村中の子供が集まてくる。
「マサル先生、今日のおやつは何ですか」
ロマンヌさんが、塾に来てくれた子供にはお菓子を出すと宣伝してしまったからだ。
「マサル、お菓子で良かったな。昼飯を出すと言ったら大人まで来たぞ」
そうだろうな、塾の子は昼飯前に帰すが、掃除に来た子供には昼飯を出す。
塾が終った子共達は、その昼飯を名残惜しそうに見つめながら帰るくらいだ。
塾の講師を始めて三週間、もうじき今年も終わるな。
「マサル、冒険者らしく無くなったな」
「ああ、薬師に料理人、そして講師だからな。確か俺は魔獣狩りに来たはずだが、いまだ魔獣のいる山に入ることは認められす。そればかりか薬屋にはロマンヌさんから『薬師にしてくれ』とバイトが二人増やされ、料理人見習いも一人増えた。一体俺は何をしているのだろう」
「いやマサル。サメル村を管理する貴族としては真っ当なことをしているとおもうぞ」
ギャの言うことはもっともである。
子供の教育は村の発展のためには必要だ。
そして薬師も必要である。
薬師になるには薬師に弟子入りする、その為村から出ることになる。
帰って来て薬師をやってくれればいいが、都会に行ったりするとそのまま帰ってこない人もいる。
村で薬師の勉強が出来きれば、その心配がない。
まあ料理人はそれほど必要かどうかはわからないな。
身分を隠しているとはいえ、俺は此処の管理者であるバルノタイザン家の息子だ。
村の為に頑張るぞ。




