24・お店の名前が決まりました
「マサル、薬屋と食堂では面白くないぞ」
「いきなり何だ。ギャ」
「店には名前が有るだろ」
「そうだな、おふくろの店は『大衆食堂サクラ』で姉貴の薬屋は『薬屋カエデ』だな」
「おお、どういった意味だ」
「サクラはおふくろの名前でサクラは姉貴の名前だ」
「じゃあ、この店は『食堂マサル』と『薬屋マサル』だな」
「それは駄目だ、村でマサルに飯を食いに行こうとか、マサルから薬を買ってきた、とか言われるのは恥ずかしい、面倒だからサメル村もサクラとカエデに決めよう」
「そうだな、マサルよりサクラとかカエデの方が店らしいな」
「・・・・・・そ、そうだな」
俺は恥ずかしいからと言ったのだが、ギャは店の名前らしくないと言う。まあマサルってなの店は見たことないな。
さっそく看板を作り店に掲げる。
「『大衆食堂サクラ』ですか、いい名前ですね」
「お客さんが入りやすい名前ですね」
「かわいい」
食堂担当のケント メリ サイラも気にいったようだ。
「こんにちは、店に名前が付いたのですね」
昼の食事に毎日来る親父の会社の社員で、名前はムサイ、二十代後半独身男性だ。
「ええ、ケントさんやメリさんにはバイトから従業員になってもらい、いずれは店を譲りたいと考えているので、名前は必要だと思いましてね」
「そうですか」
ムサイは店に入りいつもの席に座りいつもの生姜焼き定食を頼んだ。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
何時も来る若い暇人だ。
名前はダン、暇人だが仕事はしている。
「やあ、ムサイさん、何時も会いますね」
「ああダンも毎日食べに来るんだな」
「ええ、私は、御茶しかない頃からですから、ムサイさんの大先輩ですよ」
「聞いているよ、食堂の前は村の暇人が時間つぶしに集まる場所だったそうだな」
ムサイさんとダンさん、歳が近いせいか仲良くなっており、ダンは同じテーブルに着いた。
「マサル、男同士仲が良いのは訳が有るのだろ」
「いや、変な仲じゃないだろ、ギャにはこっそり教えるが、仕事がらみだ」
「ダンは暇人だろ、何の仕事をしているんだ」
「ダンは属性:闇なんだ。魔獣とただの獣の判別をしている。サメル村は山や森で狩ってきた魔獣を王都に送っているだろ、送る素材に魔獣でないものが混じったら怒られる。だからダンの仕事は大切なんだ」
「確か素材を送るのは半年に一回だったろ、いいな年に二日働けばいいのか」
「そんなこと無いだろ、王都からは半年に魔獣猪の毛皮を最低六頭分出すことになっている、月一頭だな。だいたい二百頭に一頭が魔獣だろ、まあこの辺は魔獣率が高いが、それでも百頭に一頭だ。毎日三頭から五頭は狩っている。ダンも毎日仕事が有るんだ」
「だが、毎日飯を食っている」
「それは昼だからだ、ダンは狩りに行った人が帰って来てから仕事をしている」
そうダンの仕事は夕方に行われていた。
一緒に狩りに行かないのは、村で一人(内緒の爺を除く)の属性:闇の人が怪我をしたら困るからだ。
狩りに向いた属性:炎と闇ほどではないが、魔獣を見なれると何となく判別できる属性:水が狩りに出ていた。
「ムサイさんはいつまでこの村にいるのですか」
「一応二年だ」
「長いですね、今までは魔獣の素材の出荷の時しか来ませんでしたね」
「ああ、だがそのせいでトラブルがあったからな。社長も社員を村に常駐させることにしたんだ」
社長のおやじに頼んだのが俺なのは、ムサイさんには内緒だ。
「それで貧乏くじをムサイさんが引いたと」
「貧乏か、久しぶりに聞いたな。王都にいると貧乏貴族のバルノタイザン商事と呼ばれるからな。それでそのくじだが、俺にとってはちょっとラッキーだったんだ」
「まさかスローライフに憧れていたなんて言いませんよね」
「ちょっと近いかな、まあ王都で見合いの話が来ていてな」
「と、言うことはムサイさんは貴族だと」
「そうだが、貴族といってもブロンズなんだが、親父がランクアップしたくて俺にシルバークラスかせめてカッパークラスの貴族の娘と結婚しろって見合いの話を持ってくるんだ」
「なるほどそう言うことですか、格下の貴族でも婿に来て欲しい。訳ありですな」
「ああ、親父もそう言う女性を次々に見つけてくる。だが二年もすれば諦めるだろ」
「無理でしょうね。ムサイさん、悪いことは言わない、諦めなさい」
「・・・・・・」
ムサイはうつむいてしまった。
「マサル、貴族の世界は大変だな」
「ああ」
俺もあと数年するとマサルさんと同じ悩みを持つのだな。
この食堂、村の情報集めのために作ったのだが、入ってくる話は俺の知りたい情報では無いものばかりだった。




