11・掃除は続くよいつまでも
「マサル、大工仕事の前にまず掃除だ。小屋の掃除も終わってないぞ」
「ああ、わかっている」
昼からも小屋の掃除を始める。
隣の屋敷はメイドや調理人などの使用人が十人は必要になる。
小屋と言ってもその人たちが住めるだけの二階建の建物だった。
家具があったのは俺たちが泊った部屋だけだったので二日で掃除を終わらせることができた。
「マサル、この使用人小屋、人が住んだことないだろ」
「たぶんな、うちの誰かが来てもすぐ帰ったんだろう」
親父のやっているロバの流通販売の会社、社名はバルノタイザン商会、商会の人はサメル村に来るからな。
「明日からは屋敷の掃除だ、手伝いが欲しい」
「手伝いは頼めないだろうな。まあ掃除に時間がかかるだけ此処にいることが出来るから、ギャ、わざとゆっくりやってもいいんだぞ」
「まじめなギャだ、それはできない、頑張るぞ」
「まだ体が十分じゃないんだぞ、何回も言うが頑張るな」
「わかった、ゆっくりやる」
そうして屋敷の掃除が始まった。
「屋敷にも家具がない。本当に無駄な建物だ。古さからみてゴールドクラスの時に建てたんだろうな」
「壊すのもお金かかる」
「それでほったらかしか、埃だらになる訳だ」
ギャの言う通り、壊すにも治すにもお金はかかる。
俺とギャは滞在理由のために掃除と修理を続けることにした。
屋敷と使用人小屋は村人の集落から少し離れた丘の上にある。
建物の下からでも村を見渡すことができるが、屋敷の二階に上がるともっとよく見える。
「マサル、いい景色だ」
「ああ、今日は天気も良くて、向こうの山も良く見えるな」
「あの山に魔獣がいるのか」
「そうだな、遠回りに聞いているか」
「どうやって聞く」
「薬草取りに行きたいと言ってみる。そうすれば魔獣のいない山だけ許可を出すだろ」
「許可しない山に魔獣がいることになる」
「そう言うこと」
「それじゃ、掃除早く終わらせる」
「ああ」
屋敷の掃除と取りあえずの雨漏り修理が終わったのは五日後だった。
「あら、もう終わったの」
お昼休みには必ず様子を見に来る村長の娘ロマンヌだ。
「ええ、あとは定期的に軽い掃除で大丈夫ですね、それで空いた時間ができるのですが、薬草取りに行ってよろしいでしょうか」
「薬草取りですか、まさかマサル様は薬を作ることができるのですか」
「ええ、資格は取りませんでしたが、姉と一緒に薬師の勉強をしました。姉からは『マサルはもう一人前よ』とお墨付きをもらっています」
そういって、異次元鞄からいくつかの薬を出す。
「試していいのですね」
「ええ、薬として認めてくれれば、安くお譲りします」
「ただじゃないのね」
「そうです」
「わかりました、これが薬と認められたら薬草の採取の許可を出します」
「ありがとうございます」
そうして採取の許可は二日後に出された。
「これが安全に採取できる山です。他は村の人と一緒でなければ危ない山です、入っては駄目ですよ」
「わかりました、気を付けます」
これで魔獣がいそうな山が絞られる。
「魔獣の山がわかったね、すぐ行くの」
ロマンヌが帰るとギャが効いてくる。
「いや、しばらくは屋敷の掃除と薬草採取だ、それと持ってきた地図と実際があっているかも確認したい」
「なにそれ、面倒」
「いや、親父からは村の視察を頼まれているんだ、報告書通りのロバがいるかとか、畑の面積は間違いないのか、何を育てどれくらい収穫があるのか調べないといけないんだ、そのための手始めとして地図の確認なんだ」
「だったら屋敷の二階から見て確認すればいい」
「わかっている、もうそれはやった。だが実際に歩かないとわからないことも有る」
「マサル、まだうろうろできるほど村民に信頼されていない」
「ああそうだ、だからまずは薬師としてやっていく、今までの調査書では薬草がとれるのに他から薬を買っている。薬師がいない証拠だ」
「信頼得るの、長くかかるな」
「そうだな、まあポーションという必殺技もあるから何とかなるだろう」
薬師のいる村は少ない。薬師なら村人も大事にしてくれるかもしれないと、淡い期待を抱いている。
それから一週間、屋敷と使用人小屋の掃除、俺とギャの服の洗濯、飯の準備、とても薬草採取に行けない。
「マサル嘘つき、毎日の掃除簡単言ったぞ」
「わかった、掃除は一日おきだ。そうすれば薬草採取に行ける」
「一日おきでも無理、もっとまとめる、どうせ今までやっていない、十日まとめて四日掃除するんだ」
「そうだな、そうするか」
ギャの配分は意外と正しい。
十日くらいなら、埃もたいして積もらない。
そして、この間の大掃除で一通り掃いて雑巾がけするのに四日かかることがわかっていたからだ。
窓の掃除はふた月に一度でいいだろう。
これで薬草採取と薬づくりの時間がとれる。
「ギャも一緒に薬草取りに行く、冒険者の服用意しろ」
「今の服で十分だろ」
「掃除用に村長の娘のお古貰った。フリフリが多くて森には似合わない」
「そうだな、じゃあ俺の子供の時の服でいいか」
「着てあげてもいいぞ」
「何か上から目線で言われている気がするが、まあいいほれ」
俺は異次元鞄から冒険者を始めたころの服を取り出す。
貧乏貴族は『いずれ使うかもしれない』病にかかるのだ。
「靴も欲しい。赤い靴汚したくない」
靴も村長の娘ロマンヌからお古をもらっている。
掃除や村の中を歩くには良いのだが、森や山に入るには向いていない靴だった。
「しょうがないな、ロマンヌさんに頼んで探してもらおう」
「頼んだ」
やっぱり上から目線だな。
ロマンヌに頼み子供用の冒険者シューズを探してもらった。
「はい、見つけたわよ、三万円でどうかな」
「えっ、金取るの」
「当たり前でしょ」
「それはいいが、高くねぇか」
「いいでしょー、靴だけに足元を見たの」
「わかったよ、払うよ」
三万円を払って靴をもらう。
「マサル、これも魔獣の靴だよ」
「おおそうか、三万なら安かったな」
現産地価格にしても安い、ロマンヌなりの親切だったようだ。




