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108・馬車で通勤です

「マサル。快適だな」

「ああ」


「そうでしょギャちゃん」

「はい、カエデお姉さま」


毎日ではないが、姉貴が薬師学校で教鞭をとることになった。

教えるのは薬師の経営だ。


何と言っても王都中に十二の支店を持つカエデ製薬の重役である。

もともと薬師カエデのころから知名度は高い。

教師のカスミさんは薬師の間でカリスマだが、姉貴は別の意味でカリスマだった。


貴族でありながら庶民相手の店を構え、品質の良い薬でありながら価格も良心的であり、お金の無い病人にも後払いでも薬を渡していた。

庶民にとってありがたい存在だった。


「マサルも貴族だとバレたのでしょ。馬車ので通勤しても良いのよ」

「・・・はい」


「そうだぞマサル。マサルは社長ではないか」

「・・・そうだったな」

馬車の中、姉貴とギャのとの三人だ。

何となく、あくまで何となくだが、自分が弱い立場にいるように気がする。


馬車は薬師学校の正門前に停まる。

貧乏貴族の名に恥じない質素な馬車だが、馬車にはバルノタイザン家の紋が入っている。


「えっ」

生徒が馬車に気付く。

生徒には貴族の子供もいる。

当然、紋を見ればバルノタイザン家だとわかる。


「何で貧乏貴族の馬車が有るの」

不思議に思う生徒もいる。


「バルノタイザン家。貧乏の名を借り裏で王都を仕切る貴族だと聞いた」

この生徒、誰から聞いたんだ。


「カエデ製薬ですね」

知っている生徒は知っている。


俺たちは馬車を降りて職員室に向かう。


「マサル、控室は無いのですか」

「有るわけ無いだろ、教師に貴族はいないんだぞ」


「そうですか、では用意しましょう」

「用意するって、余っている部屋は無いぞ」


「マサル、一年学校に来ていてわからなかったのですか」

「・・・何を」


「隣に入学式をやった建物が有りますね」

「ああ」


「この建物は誰の持ち物か知っていないのですか」

建物は学校とバルノタイザン商会の間に有る。


「・・・まっ、まさか」

「マサル、今頃気付いたのか。あたいはロバを預け学校に歩いているとき気づいたぞ」

ロバはバルノタイザン商会に預けている。

そしてこの建物の前を通り学校へ行っていた。


建物は入学式をできる広い部屋と、幾つかの小部屋が有る。


「では、マサル。話をつけに行ってきてください」

「・・・はい」


気付かなかった。

隣もバルノタイザン商会の建物だった。


俺はバルノタイザン商会に行き、隣の建物に有る小部屋を姉貴の控室にしたいと頼む。


「マサル様、すぐに手配します」

バルノタイザン商会の社員により、すぐに姉貴の控室が出来上がる。


「ヤヨさんも、部屋が有った方が良いですよね」

「・・・はい」

俺以外の教師四人の部屋も用意された。


「姉貴、俺は良いけど教頭の部屋もお願いできないかな」

「隣で用意できるのは此処まで見たい」

無いってことね。


こんなことをしていれば職員会議の時間など終わってしまう。

そのまま俺はメリッサと姉貴を連れて教室に向かった。


生徒に姉貴を紹介すれば、俺の今日の仕事は終わる。

なので、俺はギャのいる薬草倉庫に向かった。


「ギャ、ジャックはいるか」

「オー、部屋で寝ているぞ」

「そうか」

ギャはきちんと倉庫で仕事をしていた。

ギャに任せてジャックは部屋でサボっているんだな。


「おい、ジャックいるか」

ノックもせず扉を開けて部屋へ入る。


「なんだ。昼寝を邪魔をするな」

「良い身分だな。だがサボれっていられるのもこれまでだな」


「何を用務員風情が、貴族の俺に口答えするのか」

「ああ、今日から俺は教師になった。それと俺はバルノタイザン家三男だ。確かマクラーレン家はカッパー爵だったな」


「ちっ、おまえ貴族だったのかよ。だがバルノタイザン家と言えば貧乏で有名だろ。爵位が一つ上くらいで威張るんじゃないぞ」

「マサル、ジャックが何か言っているが、痛めていいか」


「そうだな、軽く相手してくれないか。俺は倉庫の部屋を三つに分けたいんだ」

「そうか、教頭とマサルの部屋を作るのだな。それなら二つで良いのではないか」


「いや、ジャックを用務員室に追い出すと、ロバートがかわいそうだろ」

「マサルは優しいな」

「ああ」

ジャックの相手をギャに任せ、俺は薬草倉庫に三つの部屋を作る。


久しぶりに異次元鞄の中の大工道具を使う。

サメル村の屋敷の雨漏りを直して以来だ。


まずは一番いい場所に大きめに教頭の部屋を作り、隣に俺の部屋を作る。

と言っても壁で区切るだけだが。


そして、ジャックの部屋は倉庫の一番奥に四平米を板で囲った。

これだけあれば着替えと座って弁当くらい食べられる。


「ギャ、その辺にしとけ」

「オー、残念だな、もう少し遊んでやりたかった」

さすがギャだ。ジャックに目だった傷は無い。


「ジャック、あれがお前の部屋だ」

「・・・」

新しく俺が作って部屋をジャックに教える。

荷物は俺がすでに移した。

どうか、素晴らしい部屋を堪能してくれ。


ギャをジャックと遊ばせたのは懲らしめたい為ではない、大工道具や材料を異次元鞄から出すのを見られたくなかったからだ。


女性ばかりの職員室で肩身の様い想いをしている教頭に新しい教頭室を披露する。


「教頭、机や椅子はまだありませんが、部屋だけは用意しました」

「・・・今日の授業時間だけで作ったのか」


「はい」

「さすが貧乏貴族は何でもできるのだな」

感心してくれるのは嬉しいが、教頭もバルノタイザン家が貧乏貴族と呼ばれていることは知っているのだな。


「オー、マサルは器用だぞ」

「ギャ、それは器用貧乏に掛けたギャグか」

「気付いたか」


「マサル君、その夫婦漫才みたいな掛け合いは何か意味が有るのか」

「無いです」

「無いぞ」

「そうか」

教頭も漫才に参加したいようだ。


今日一日で薬師学校は大きく変わった。

隣の敷地に有る建物が女性教員の控室になり、薬草倉庫内に教頭と俺の部屋が出来た。


そして帰りの馬車の中。

「姉貴、薬師学校がバルノタイザン商会の隣に有るのは偶然なのか」

「偶然ですよ。薬師学校の土地と建物は税金が払えない会社から国が没収したものです。ダンブロア家が薬師学校の建物を探しているとき、差し押さえた物件を借りることが出来ただけです」


「マサル、税金は大蔵省に行っているタカシお兄様の管轄だな」

「なるほど、借りられさせられたんだな」

姉貴はダンブロア家が薬師学校、薬師と薬店の組合、薬師の資格を作ろうとした時から、乗っ取りを考えいたんだ。


これで学校は支配下に置ける、王都の薬草もカエデ製薬が仕切り始めた。

だが、まだまだダンブロア家の影響力は大きく、薬草の手に入らない薬師が数多くいる。

たぶん優秀な薬草採取者がいなくなっているのが原因だな。


姉貴が教師のうちに、薬草採取者を何とかすることにしよう。

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