102・マルマ王国の薬師の状況です
薬師学校の冬休みは十二月二十五日から翌年の一月七日までだ。
そして六日の夕方、俺とギャは薬草分布の地図作りから帰ってきた。
「お帰りなさい。今日は遅いから報告は明日ね」
「ああ、わかった」
「内容が無いようなので、話は屋敷で聞きます。明日は薬屋カエデには行かないでね」
「ああ」
十日あまりで回ったのは、ゴメスの他に中規模の町が二つと田舎の村が二つだった。
地図も含めて、たいした情報が集めれらなかった。
「マサル、明日はカエデお姉さまからの説教だな」
「そうか、確かに持ち帰った情報は少ないが、やれることはやったぞ」
十日で三つの町と二つの村を回ったのだ、自分を誉めてやりたい。
帰ってきたその日は、夕食を取り風呂に入って寝てしまう。
疲れたのか、ギャもすぐに隣の部屋に行ってしまった。
「おはよう、起きろマサル」
「うーん、ギャ、勝手に入って来るなよ」
「あたいはマサルの奴隷だ。言ってみればマサルの体の一部みたいなものだ。気にするな」
「うーん、しょうがないな、今度からはノックぐらいしろ」
いきなり起こされたのはびっくりしたが、あのまま寝ていたら寝坊して姉貴の怒られるところだった。
急いで朝食を取り、姉貴の仕事部屋に行く。
狭い屋敷だが、使っていない使用人部屋を改造して、姉貴は仕事部屋を手に入れていた。
トン トン トン
「マサルです」
「入って」
俺は姉貴の仕事部屋に入る。
「そこに座っていいわよ」
姉貴に言われ木の椅子に座る。
「さっそくだけど、どうだった」
「どうとは、薬草の分布図は昨日渡しただろ」
「ええ、それは良くできてました。そうでは無くて、各地の薬師が困っていませんでしたか」
「ああ、特にダンブロア家の息がかかった薬師のいる町はひどかったな。その薬師以外は薬草が手に入りづらくなっていた」
「だと思いました。それでも確かめたくてマサルに周ってもらったのです」
「そうだったのか、それでどうするんだ」
「そうですね、まずマサルは、何故ダンブロア家系の薬師が薬草を独り占めしていると思いますか」
「うーん、・・・」
ちょっと考えていると。
「あれだ。薬師の組合を作るのに使うのだろ」
「ギャちゃん、正解なんだけど、マサルに答えさせてあげてね」
「オー、次は黙っているぞ」
ギャが答えたが、俺だってそれくらいわかる。
組合に入れば薬草を売ってやると言うことだな。
組合費も入るし薬草の販売でも儲けられる。
「それで姉貴は対策を考えているんだろ、教えてくれ」
「考えていますが、その為には一つ大きな問題を解決する必要が有るの」
「問題って」
「マサルが作った異次元小袋を普及させたいの、せめて私の知り合いの薬師だけでもね」
「異次元小袋が有れば、薬草を新鮮なまま保管できるが、それだけだろ」
「いいえ、異次元小袋に薬草を入れて流通させれば、何時何処で取れた薬草でも手に入れば使うことが出来るでしょ。幸い、バルノタイザン家はキャメル家と取引が有ります」
「トーム運送とトーム交通だな」
「そうよギャちゃん、小袋に入れてトーム運送の流通網の乗せればどこでも新鮮な薬草を手に入れることが出来るでしょ」
「うーん、それでも薬の流通販売の権利はダンブロア家が持っているんだろ。結局はお金を払うことになるが、良いのか」
「その辺はやりようですだと思うの。薬の取引先の薬師を全部、カエデ製薬の系列店で登録するとかね。それよりまずは異次元小袋を扱っても国にとがめられないようにすることが先ね」
「マサル。異次元鞄とは、馬と牛と猪の革でしか作れないことになっているのだろ」
「ああ、そうだ。昔からその三種でしか作ってこなかった。異次元鞄を作る職人がそう信じ込んでいると、魔獣のロバの革では異次元鞄にならないんだ」
「ギャちゃん、人は一度思い込むと、なかなか考えを変えられないの。そのおかげでバルノタイザン家がロバ革の異次元鞄や魔獣兎の異次元小袋を使っていると誰も知らないのね」
「でも、カエデ製薬の関係者が多くの異次元小袋を使えばみんなにバレてしまうと、そうなる前に正式に許可を取っておきたいんだな」
「ええ、一応タカシには何とかならないか相談はしてあるの」
「マサル、タカシお兄様は大蔵省だろ。異次元鞄を作っているのは魔法省の管轄だな、話しが通るのか」
「うーん、タカシ兄さんは、官僚になって八年目か。それなりに人脈が出来るころだな」
「そうなの、タカシの同級生には優秀な人が多くてね、友達も何人か官僚になっているの。魔法省にも薬師資格を管轄する厚生省にもいるのよ」
「確かに、異次元鞄の製作は魔法省だが、むやみに作ると騎士団や軍部も口出しして来るんじゃないか」
「そう、異次元鞄の軍事利用は恐ろしいものね。だから、せめて大きな物の入らない異次元小袋だけでも許可をもらうの」
「マサル。異次元小袋の権利を取れば、バルノタイザン家の儲けになるのだろ、やらない手はないぞ」
「ギャ、俺に言うな、そんなことわかっている。ここはタカシ兄さんの活躍に期待するしかないんだ」
「タカシの結果待ちね。それじゃあ、これで話は終わりにしましょ」
「カエデお姉さま、ちょっと気になることが有ったぞ」
「なあにギャちゃん」
「ゴメスの町でマサルに薬草採取者の少年が弟子入りを希望してきた」
「それで」
「薬草の手に入らない薬師の為に採取したいそうだ」
「腕のいい薬草採取者が、みんなダンブロア系の薬師に付いているわけね」
「そうだったな、マサル」
「ああ、早急に何とかしないと、薬草が無くて薬師が干上がってしまう」
「そうでしたか、薬草だけでなく、薬草採取者まで抱え込んでいるのですね。わかりました、私の師匠に相談してきます。ところで異次元小袋って量産できますか」
「まさる、喋っていいか。あれだな、ズンダダ森の水飲み場で魔獣兎が入れ食いだな」
「ギャよ、既に喋ってしまっているな」
「そうか、まあ良いではないか」
「なあに、マサル。魔獣兎が入れ食いって」
「姉貴、これは極秘情報だぞ。ズンダダ森に魔獣が多く集まる水飲み場が有るんだ。多分湧き出てくる水に魔力が多く含まれるんで魔獣が好むみたいなんだ。水飲み場に獣が集まるのはボイルさんも知っていて近くに森小屋を作っているんだけど、ほとんどが魔獣なのは、まだ気づいていないんだ」
「そうねのね、もしかして最近魔獣猪が多く取れているのは、その水飲み場のせいなの」
「ああ、水飲み場に来る群れの中に、魔獣猪が多く含まれている」
「ボイルさんには悪いけど、出来るだけ知られないようにして。とにかくこれはバルノタイザン家にとって良いことみたいね。マサル、サメル村にいるガーネ達に魔獣兎を取れるだけ取れるように指示して」
「・・・わかった。兎なら取りすぎてもすぐに増えるからな、ガーネ達も反対しないだろ」
こうして姉貴のダンブロア家に対する反逆が始まった。
「マサル、言うほどバルノタイザン家は損害を受けているのか」
「いいや、王都に限れば姉貴は勝っているな」
「そうか、カエデお姉さまは王都全部を仕切るのだな」
「・・・そうだな」
姉貴はいつ王都制覇を考えたのかな。出来るだけの能力が有るのが怖かった。




