10・掃除掃除また掃除
村長からの滞在許可が下りた。
ただし条件付きだ。
あの小屋に住んで隣の屋敷を掃除してほしい、そうすればパンと肉と野菜を与える。
だった。
ここサメル村は俺の家、バルノタイザン家が管理する村だ。
ただし、あくまでサメル村で育てているロバに関してだけで、それ以外は村に任せてある。
大きな問題があれば介入するが、ひいお爺さんが税の滞納で貴族ランクをシルバーに落とした以外に問題が起こったことはない。
村には管理者であるバルノタイザン家の為の屋敷がある。
屋敷の横には使用人が住む小屋もある。
今回使用人小屋に住み、屋敷を掃除すれば、最低限の食糧を提供しようというのが村長の提案だった。
「マサル、あれ、お化け屋敷か」
「ああ、似たようなもんだ」
建てられてから人が住んだのは何日もないはずだ、手入れされていない屋敷はお化け屋敷に見えなくもなかった。
まずは与えられた使用人小屋に行く。
「プッハー」
ドアを開ければ埃だらけだ。
「よし、ギャ。掃除だ」
「掃除道具どこ」
「そうだな、村長のところで借りてくるか」
「ギャも一緒に行く」
「ああ、行こう」
道具を持ってくるために荷車を引いていく。
ついでに水も汲んできたいのでロバも一緒だ。
道具を借りてくれば、掃除を始めなければならない。
まずは窓を開け、はたきで埃を叩き出していく。
一通り埃を出すと、今度は窓を閉め、埃が落ち着くの待つ。
それを箒で集め塵取り外に出していく。
使われていないので埃はあったがごみは無かった。
最後は絞った雑巾で拭けば終わりだ。
小さな炊事場やお風呂やトイレも掃除していく。
十時と三時のおやつ、そして昼飯の休憩はしっかり取ったんのだが
「ギャ、大丈夫か」
午後四時を過ぎ、ふらふらしているギャに声をかける。
掃除の仕方は奴隷商にいるとき教わってようで手際はいいのだが、いかんせん体が小さく非力だ。
「お、おー。大丈夫だ」
言う割には、大丈夫そうじゃないな。
「今日一日で終わらそうと思うな、明日もある」
「お、おー。頑張る」
「頑張るな、倒れそうだぞ」
「う、ううう、わかった。休んでやる」
「そうだな」
昼飯は埃だらけの小屋の中での調理は無理なので、異次元鞄の中のもので済ませた。
夕食は何とか小屋の炊事場で作れそうだ。
「マサル、この材料でおいしく作れるのか」
「大丈夫だ、調味料や香辛料は持っている。それに作り置きの食糧は無くなったが、肉や野菜は異次元鞄に入っているからな」
異次元鞄を手に入れてから五年、中の時間が経過しないので、使えそうなものは何でも入れてきた。
多分一年くらいの食糧は入っているだろう。
炊事場にはコンロ魔具がある。
コンロ魔具で、だいたいの料理は作れるが大きな火力が必要なときは薪かまどを使う。
多分屋敷の調理場には有るだろう。
「マサル、このコンロ魔具、燃料切れてる、付かないよ」
「そうか、じゃあ魔力を入れるぞ」
「マサル、照明魔具も付かない」
「わかった、そっちも入れておこう」
コンロ魔具と最低限必要な照明魔具、それと風呂の湯沸かし魔具に魔力を入れていく。
トイレは水洗で汚物は浄化槽で処理する、微生物が処理するので魔具ではない。
「ギャ、俺は魔力操作力:極小だからな、本当はこんなに沢山の魔具に魔力を入れられないんだ。無理をするのだから感謝しろよ」
「マサルは、嘘つき。魔力操作力:特大なの知っているよ。隣の屋敷の魔具全部に入れても余裕だよね」
「村の人には絶対言うなよ」
「おー」
俺はコンロ魔具に魔力を入れ、調理を始めた。
魔力操作力で魔力を入れて使う魔具はとても便利だ。
今使っているのはコンロ魔具と言って、魔力を蓄魔できる石板でできている。
石板には魔力を熱に変換するための魔法式が書き込まれている。
魔力をためることができる素材なら何でも魔具にできるが、石板を使うのは燃えないからだ。
照明は蓄魔出来るガラスでできている。
ガラスは石英とソーダ灰と石灰から作るがすべてが蓄魔できる素材でないうまく光らないが、割とどこでも取れるので高価では無かった。
ちなみに俺の持っている魔剣や異次元鞄は蓄魔させることは無い。
使うときに魔力を流すからだ。
異次元鞄は、出し入れの時に魔力を使い、鞄の蓋を閉じた状態では魔力は必要なかった。
夕食を食べ終わるころには真っ暗になっていた。
今日掃除ができたのは、炊事場 風呂 トイレ 寝室 食堂だ。
布団も干しておいたので、風呂に入って寝ることにする。
「マサル、ベッドが二つある」
「ああ、そうだが、もしかして一緒に寝たいのか」
「そんなことない、ギャ、一人で寝れる」
「そうだろ、俺もシングルの小さいベッドに二人では寝たくないからな」
宿の2人部屋はシングル二つかダブルベッド1つだ。
シングル二つでも宿の部屋は狭いのでくっ付いて並んでいるので、ほぼ一緒に寝ているようなものだった。
「明日別の部屋も掃除終わるね、もしかしてギャは別の部屋で寝るのか」
「いずれはそうしてくれ」
「わかった、できるだけ早くひとり立ちする」
確か奴隷商でもほかの奴隷の部屋の隅っこで暮らしていたと言っていたが、寂しがりやなのかな。
ギャはベッドに入るとすぐに眠った、一日掃除していれば疲れるよな。
俺も眠ることにする。
翌朝起きたら、まずは水を運んでくる。
この屋敷と小屋は村人の集落より少し離れた小高い所に有るので、水は井戸まで汲みに行く必要がある。
井戸は集落の中心にあった。
水を汲んだ桶をロバの引く荷車に乗せ小屋に向かう。
ロバと荷車、本当に便利でありがたい。
屋敷からは村全体が見渡せる。
見渡した村は井戸を中心に家が建てられている。
家の周りには畑とロバ牧場が作られている。
ロバの餌にする草は村の周辺の草原から刈ってくるみたいだ。
俺とギャは朝食を終えると、しばらく村を眺めていた。
朝めしを終えた村人が、各々の仕事についていくのが見える。
畑に行って作業をする者、ロバの世話を始める人。村とはいえ商店もあれば職人も住んでいる。
農機具を治すには鍛冶屋が必要だし、家のを建てるのに大工もいる。
ただ、この村には宿がない、サメル村の先には他の村がないためだ。
客人は村長の家に泊まるか、最悪野営すると聞いた。
午前中の掃除を終え、昼飯も食べ終わったころ村長の娘が様子を見に来る。
「どうですか、住めそうですか」
「そうですね、多少修理は必要ですが、こちらの使用人小屋は問題ないですね。明日からは屋敷の掃除に入ります、壊れているところは後で報告書でも書いて出しますか」
「報告書より、マサル様が修理できませんか、材料はこちらで持ちますので」
「えっと、素人大工でよろしければ」
「十分です、こんなに困っていてもバルノタイザン家の人はだれも来てくれません、屋敷を使う人がいませんので、雨漏りさえしなければ良いのです」
「わかりました適当に直しておきます。それにしても、お嬢様が旅に出なければならないほど困っているとのことですが、良ければ訳を教えてくれませんか」
「ええ秘密にするようなことでは無いですから。旅に出たのは、サメル村からの魔獣の素材が偽物だと送り返されたからです、返された商品は魔獣の素材ではなくただの獣の素材でした。すぐにバルノタイザン家には報告したのですが、音沙汰なしです」
「どこかで、すり替わられたと」
「はい、その調査に回っていました、でも何もわかりませんでした」
「一緒にいた爺は」
「爺は一目で魔獣の素材を判別できます。村のほかの人では判別に時間がかかるのです」
「大変でしたね。それで屋敷の修理が終わるまではこの村にいても良いということですね」
「そうなりますね」
よし、これでかなりの間滞在できるぞ。
その間に村人の信頼を勝ち取り、一緒に魔獣狩りに参加させてもらおう。
そして俺は異次元鞄に放り込まれた大工道具を取り出すのだった。




