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第8転 チートスキル

 竹へと殺到する兵士達を食い止めんと逸る吉備之介。だが、彼の前に今度はクリトが割って入る。兵士達が竹に向かうのを止められない。


「そおら!」


 踏み込み、体重を乗せて打ち出される右の拳。拳撃は音速を超え、パァンッという炸裂音が拳より遅れて奏でられる。あまりの速度に吉備之介の身体が勝手に回避を選んだ。逃げ遅れた髪の毛の数本が拳撃に千切られて宙を舞う。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」

「くっ……!」


 爆ぜるように連続で繰り出される拳撃。連打故に全体重を乗せられず音速には届かないが、それでもなお(はや)い。

 先程は自ら向かっていったもののやはり吉備之介は恐怖心が勝った。怒涛の拳撃を前に吉備之介は歯を食い縛り回避に専念する。


「オラァ! 右だけではないぞ!」


 右拳ばかりを繰り出していたクリトが左拳を打つ。右拳の派手さと軽やかな足捌きに目がくらんだ吉備之介の鳩尾に拳がめり込む。


「ぐっ、おええっ!」


 込み上げる吐き気は堪えられても足元のふらつきは耐えられない。吉備之介が思わず寄り掛かったものはリムジンだった。間を置かずクリトの右拳が追撃する。吉備之介は歯を食い縛ってどうにか逃げ切る。代わりにリムジンが右拳を受ける。



 瞬間、リムジンが木端微塵に砕け散った。



「は……?」


 吉備之介が目を丸くする。自動車(リムジン)は単純に破壊されたのではなかった。抉られたのでもなければ潰されたのでもない。端から端まで丸ごとバラバラに粉砕されたのだ。運転手だけがリムジンの残骸の中に取り残される。

 震撼する吉備之介にクリトが自慢げに右拳を掲げて見せる。


「どうだ! これがおれのチート【陸の王者(ベヒーモス)】だ! カッコいいだろ!」

「チート?」

「ん? 何だ、チートスキルを知らないのか?」


 二人の傍ら、運転手が()()うの(てい)で逃げる。転生者以外に用はないクリトは彼を追う気配すら見せなかった。


「仕方ない、自慢してやろう。おれ達異世界転生者は転生の女神から特権的能力(チートスキル)が与えられているのだ。魔法なき世界から魔法ありき世界に行かなくちゃならない者への餞別としてな」


 魔法世界カールフターランドには地球にはない現象が存在する。物理法則と対を為す()()則――魔法だ。異世界人は魔力と呼ばれる不可思議なエネルギーを燃料に魔法(スキル)を使う事ができる。

 そのスキルの中でも強力で凶悪で異様で、世界の(ことわり)をも覆すものをチートスキルと呼ぶ。


「おれが与えられたチートは【陸の王者(ベヒーモス)】――身体強化スキル【鉄拳(アイアンフィスト)】系の最上級だ。堅さも柔らかさもオレの拳には関係ないぞ」


 常時発動型(パッシブ)スキル兼任意発動型(アクティブ)スキル【陸の王者(ベヒーモス)】――右拳で殴ったものを問答無用で破壊する究極の攻撃だ。五指を折り畳んで拳を作る事で自動で発動する。クリトが語った通りに対象の硬度・特性を無視する事ができる。


「人間がおれの拳が喰らったらどうなるか……分かるよな? クックックッ」

「…………!」

「フハハハハハハハハハハッ!」


 リムジン同様木端微塵になった己を想像し、戦慄(おのの)く吉備之介。そんな吉備之介をクリトは嗤いながら、その肢体を砕かんと地を駆けた。

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