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第78話 冥王からの依頼

 それは『二ヶ界(にかかい)決戦武祭』開始より三日前の事。異世界転生軍による人類滅亡の七日間より少し経った頃。オルフェウスは日本の喫茶店にいた。

 人類滅亡といっても集中的に攻撃を受けたのは人口密集地、都市部が中心だ。地方であれば無傷に済んだ場所もある。オルフェウスがいるのはそんな地方の喫茶店だ。こんな時でも――否、こんな時だからこそ普段通りの生活を送り、平穏な一時を提供しようと喫茶店は営業していた。


 椅子に腰掛け、コーヒーを傍らにノートパソコンと相対しているオルフェウス。しばらくすると、一人の男が喫茶店に入ってきた。スカーフを肩に引っ掛け、黒のロングジャケットを纏った青年だ。男は店員と幾つかのやり取りをすると、テーブルを挟んでオルフェウスの正面の席に座った。


「すまん、待たせた」

「ううん、今来たところさ。久し振りだね、ハデス」


 男の正体はギリシャ冥府の王ハデスだった。


「その板はパソコンというのだったか。何をしているんだ?」

「仕事だよ。ぼくは歌ってみた系を中心とした動画配信者として活動していてね。今は新曲の編集をしていたところさ」

「そうか。時代は変わったものだな……」


 ハデスの知っている歌とは歌い手を自分の前に連れてこなくては聴けないものだった。蓄音機が発明されてからその常識が変わった。時代は進み、歌い手がその場にいなくても歌が聴けるようになった。インターネットの普及により今や世界中の人間が好きな時に好きな曲を聴けるようになった。神々ですら夢にも思わなかった人類の進歩だ。


「まあ、通信会社は先の攻撃で大体が壊滅してしまったから、動画サイトに投稿はできないんだけどね。それでも作りかけは気持ちが悪いから、こうして作っていただけさ」

「そうなのか。それは残念だったな……」

「仕方がないさ。それはともかく、きみ、人界に降りてきてよかったのかい? 神々は下界に干渉してはならないってルールだと聞いているけど」

「無論駄目だとも。だからこそ他の神々にはバレんように異国の店を選んだのだ。お忍びという奴だよ」

「へえ、いけない人だね、きみも」


 ふんわりと微笑むオルフェウス。揶揄(からか)うような口調でありながら本気で糾弾する気はまるでない笑みだ。神々が下界に関われない理由を神代の人間であるオルフェウスも知っているだろうに、実に彼らしい表情だとハデスは思った。


「それで、その異国の店にぼくを呼び出して、どういう用件なんだい?」

「うむ。異世界転生軍がいるだろう?」

「うん、ぼくも決闘に参加するよう招集命令を受けた。それが?」

「その中に一人、貴様らではどうあっても倒せん奴がいる」

「……へえ」


 オルフェウスの目が少しぎらつく。『詩人』とはいえ、タウィルとの戦闘から分かる通り、彼も強者の側の人間だ。倒せない相手以外がいると聞いて挑発を感じるくらいの矜持はある。同時に彼はハデスが自分を来訪した意図も悟った。


神々(われら)としても奴の事は懸念事項でな。我輩の権能であれば奴のスキルを封じる事ができる。しかし、我輩は下界に赴く事はできん……本来はな。そこでだ」

「成程。ぼくに代わりをして欲しいと」

「その通りだ」


 オルフェウスの想定通りハデスは頷いた。


「我が怨敵――冥府に背を向けた者。永久(とわ)なる眠りを拒絶した者よ。頼む、『時間逆行者』タウィル・アトウムルを封殺してくれ」


 冥府の番犬(ケルベロス)の招来を始めとした幾つかの魔術。冥王の秘伝。それらと引き替えに使命を一つ請け負って欲しいと冥王は依頼しに来たのだ。オルフェウスとて決闘に出場するに当たって手札は増やしたかろうと交渉材料にしてだ。


「請け負おう。きみとは紀元前からの付き合いだしね」


 果たして英傑の転生者(オルフェウス)冥王(ハデス)からの依頼を引き受けた。

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