第7転 ストリートファイト
異世界転生。
地球生まれ地球育ちの人間が死後、地球ではない世界に転生する事。転生先の世界は大抵、剣と魔法を基盤とした近世以前の文明を築いている。転生の際に神々が干渉する場合もあれば自動的に転生する類型もあり、偶発的に転生する事例もある。
似て非なるジャンルに異世界転移があるが、相違点は死んでから異世界に来るか生きたまま異世界に来るかである。
◇
「異世界転生者……!」
突然現れた彼らに吉備之介は目を丸くする。
この場で異世界転生者を名乗るという事は、地球人類を七割まで滅ぼした集団の一人だという事だ。即ち彼もまた大量殺人者の筈である。身を強張らせるのは当然の対応だ。
そんな常識人的なリアクションをする吉備之介をクリトは嘲笑う。
「何だ貴様、ビビッているのか? ……ああ、言っておくが、後ろのこいつらは転生者ではないぞ。魔法世界の現地人だ。異世界転生者はおれだけだ」
「……何の用よ、あんたら」
怯える吉備之介を背に竹が警戒を露にする。対するクリトは笑みを浮かべたまま答えた。
「無論、貴様らを殺しに来たのだ。決闘の前に選手を殺しておけば、こっちは不戦勝になるだろう? フッ、おれって頭いいー♪」
「自画自賛は頭よく聞こえないわよ。あと喋り方が素に戻っているわ」
「む、いかんいかん、気を付けよう。フハハハ」
笑って誤魔化すクリト。しかし、竹は彼の態度には取り合わない。彼が自分達を殺しに来たという発言にのみ即座に対応する。
「――【蓬莱の玉の枝】よ」
竹が枝を振るう。路面を突き破り、鉱物の樹木が横一直線に生えた。絡み合う枝がクリトと竹との間を塞ぐ壁となる。
逃げの一手だ。樹木の壁を時間稼ぎに逃走するつもりだ。
「不比等、車を反転させて。別ルートから空港に行……ッ!?」
「フハァッハァハハハアアアアアッ!」
竹が運転手に向けてそう言った直後だった。金属が砕かれる音が辺りに響き渡った。
振り返れば、鉱物の樹木が大きく粉砕されていた。破片が竹側の路面に散らばって硬質な音を立てる。樹木に空いた穴をクリトが跨いで越える。
「オラァ! 男女平等パンチだ!」
「っ――【仏の御石の鉢】、【火鼠の皮衣】!」
疾駆するクリト。竹が急いで光の壁を展開して盾にする。激突する拳と光の壁。ガラスの砕けるような音が響き、光の壁諸共石鉢が砕かれた。砕かれた際の衝撃で竹の体が弾き飛ばされる。
「ほほう? 一撃で殺すつもりだったんだが、砕けたのはその皿っぽいのだけか。余程格の高い神器だったようだな」
数メートルの浮遊を経て背中から落ちる竹。彼女に更なる追撃を喰らわせようとしてクリトが地を蹴る。寸前、吉備之介が間に割って入り、拳を振るった。
「てめぇ!」
「おおっと!」
吉備之介の拳をクリトは難なく躱す。余裕の表情を隠さないクリトに吉備之介が改めて対峙する。クリトは吉備之介と竹を見比べると甲冑の兵士達に命令を下した。
「お前達は女の方を始末しろ。こいつはおれが一対一で潰す」
「御意に」
「やらせるか!」