第67転 異世界転生軍の三人衆
異世界転生軍側観客席、VIP席にて。『勇者』アーザーが同胞の戦いを見守っていた。試合の成り行きに気を揉み、落ち着かない様子だ。
「タウィルの調子はどうだ? アーザー」
「ニール」
VIPに二人の男が現れた。一人は『魔王』ニール・L・ホテップだ。先の戦いで割られた額に包帯を何重にも巻いている。しかし、自力で歩ける程度には回復しており、VIP席にも自分の足で来た。
「ンガイは一緒じゃないのかい?」
「折れた足の治療だ。あいつは不死者だからな、治癒系魔法ではかえってダメージを受けてしまう。他の治療方法でゆっくり治すしかない」
溜息を吐くニール。治癒系魔法は光属性のスキルだ。闇属性の者には毒となる。それも不死者となれば生命維持――否、存在維持に闇を原動力にしているので致命的だ。魔族は闇に適性はあれどれっきとした生物なので、治癒系魔法を受けても命に別状はない。
「ザダホグラも来たのか」
現れたもう一人の男は『神』ザダホグラだった。白金髪に虹色の瞳。白を基調とした厳かなローブを纏っている。外見年齢は二十代後半、優美な印象を与える顔立ちだ。湛えた微笑は静穏だが、どこか異質であり、『魔王』よりも人外さを感じさせた。
「ああ。向こうの選手名簿も分かって、ようやく決闘儀式の調整が終わったからねぇ。後はワタシが何をしてもしなくても儀式は滞りなく進むよ」
「御苦労」
「いやいや。元々はワタシが持ち掛けた計画だからねぇ」
言いながら華奢な椅子に座るザダホグラ。ニールも座る。ここに勇者と神と魔王が勢揃いした。
「タウィルはどうだい?」
「順調だ。だからこそ気が重い。それだけ彼が死んだという事なのだから」
「仕方あるまいよ。それが奴の在り方だ。その恩恵に余達も与っている以上、何を言う資格もない」
「ああ……そうだね」
ニールの言葉にアーザーも首肯する。
実のところ、総合火力において地球の兵器と異世界の魔法とでは地球が勝る。最悪の発明である核兵器は勿論、大陸間弾道ミサイルや戦略爆撃機など、こと殺戮に関して地球人類の右に出る種族はいない。如何なる世界の存在だろうと真正面からでは敵わないのだ。
そんな凶悪極まる兵器群に対して異世界転生軍が無双できた最大の理由が彼だ。
朝に安全な時間帯を作り、戦争を開始。軽傷や軽微な損傷ならば続行し、誰かが重傷を負ったり魔王城が致命的な被害を受けたりした際には時間跳躍。そうやって各国兵器の種類や総数、使用してくる順番、各国軍の性質などの情報を蓄積。行動を先回りし、各国軍の戦略を封殺する。そうして一日を乗り切ったらまた翌朝にセーブポイントを作る。その繰り返しで未来予知にも匹敵する先手を打ち続け、必勝を重ねてきた。
タウィルこそが異世界転生軍の要なのだ。そうやって精緻な情報を獲得してきた分、タウィルが何度も死んでいる事になるのだが。
「いざとなれば、この決闘儀式も初日からやり直して余達が完勝する。そういった反則技も可能だ」
「そう。本来であれば彼は三敗した後に出すべきなんだ。彼を戦わせて死なせて、試合をリセットして四敗目を防ぐのが定石だ。だけど」
「僕達に世界の理を覆す力を与えたのは転生の女神だ。転生の女神は神々の一柱。輪廻転生軍に何の策も与えていないとは考えられない」
「だからタウィルが何回戦に出るかはランダムに決めた。相手に出番を読まれないように」
だが、
「果たしてその目論見は成功したのか……。オルフェウス……彼はタウィルに対する切り札を持っているのかいないのか……」
勇者がそう問うが答えられる者は誰もいない。運任せに決めた以上、勝敗が決するまで答えは分からないのだ。三人は押し黙り、試合の趨勢を見下ろした。




