第66転 死に戻りスキルを手に入れたので仲間全員が生き残るハッピーエンドを目指していたらループのし過ぎで精神的に老化してジジイキャラになりました3
「タウィル、何かジジ臭くなった?」
「そうかの? ワシにそんな自覚はないんじゃが……」
「いやなっているって。一人称がワシになっているし」
【時間逆行】を繰り返す事、実に六〇〇回以上。その年月は累計にして一五〇〇年を超えていた。西暦二〇二二年時点の記録によると百十九歳が人間の史上最高齢とされている。タウィルの人生は実質的にその十二倍に匹敵する。
膨大な年月は彼の精神を老人の域にまで到達させた。実際に老人になるまで生きた世界線もあった。だが、精神的にどれだけ老いさらばえようともどれ程に枯れ果てようとも、タウィルの絶対条件を目指す意志だけは衰える事はなかった。
【時間逆行】はレベルを上げ続け、セーブポイントを十個も作れるようになった。機能は便利になったが、それは彼が六〇〇回を超える夥しい数の死を経験した証左に他ならない。
「また駄目じゃった。次。今度も駄目じゃ。次。もう一回。次。もう一回」
【時間逆行】を駆使して、タウィルは様々な世界線を試した。郊外の村まで逃亡して隠遁する世界線があった。街を裏から牛耳る犯罪組織の頭領になる世界線があった。革命軍を結成して国に反旗を翻す世界線があった。魔王軍と正面から戦い、『勇者』と讃えられた世界線があった。王族の娘と懇意になり、国王になる世界線もあった。
結局、彼が選んだのは、功績を手土産にアトウムル伯爵家の養子となり、仲間達を使用人として雇って身の安全を確保する世界線だった。他の選択肢より贅沢ができる訳でもなければ高名になれる訳でもなかったが、この選択が最も仲間達が穏やかに日々を過ごせる可能性が高かったのだ。他の世界線では仲間達が数人、最悪の場合は全員が命を落としてしまっていた。
「金など要らぬ。名誉も要らぬ。ただ仲間達が生きておればよい。その為なら死も痛みも恐れぬ」
ようやく安寧を手に入れたタウィルだったが、一人の男の来訪によりそれは終わりを告げた。『勇者』アーザーが来たのだ。
「君の力を貸して欲しい。どうか僕達を助けてくれ」
彼の真摯な態度と事情にタウィルは心を動かされた。絶対条件はクリアした。アトウムル伯爵も信頼できる人物であり、自分がいなくとも仲間達を守ってくれる。仮に今後、自分に何かあっても問題にはならないだろう。
「よかろう。仲間達がいるこの世界を守る為に、ワシが役に立てるのであれば」
差し出された『勇者』の手を握り返す『戦士』。
こうして、タウィル・アトウムルは異世界転生軍の一員となった。




