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第6転 異世界転生者

「いや、そうは言うけどただの高校生が刀なんて手に入れられる訳がねえだろ」


 前世に覚醒したとはいえ、それまではただの男子高校生として過ごしていた彼である。当然、武器など所持している訳がない。日常内で入手可能で武器に転用できる物といえば精々が金属バットか包丁くらいのものだ。それも逃亡の邪魔になるとして持ってきてはいない。


「刀ならここにあるわよ。ほら」


 竹が座席の近くに立て掛けてあった刀を吉備之介に投げて寄越す。鞘に入れてあるとはいえ真剣を投げられた事に吉備之介は慌てふためきながらも、どうにかキャッチした。


「あっぶねえな! 刃物投げんな!」

「あんたの動体視力なら危ないなんて事ないでしょ」

「そういう問題じゃねえだろ! ったく……うわ、マジで真剣だ。おっかねぇー」


 刀を鞘から少しだけ抜いて刃を確かめる吉備之介。今生では初めて見る本物の刀に戦々恐々としていた。


「有名な刀ってじゃないけど、それなりには名刀だから。とりあえず間に合わせね。今、あんたが生前使っていた刀を捜しているから、それまではそれ使ってて」

「いやいやいやいや。高校生に刀を振るえって何言ってんだ。いきなりできる訳ねえだろ」


 怖いからあまり触らないでおこう。そう考えた吉備之介は刀をソファの足元に立て掛けた。


「どうも覇気がないわね、あんた。前はもっと『バリバリに神の使徒!』ってタイプだったって聞いていたけど」

「あ? ああ、『桃太郎』だった頃の話か。生憎とそういうのは鬼退治の後にやめたよ」

「……ふーん」


 竹がジト目で吉備之介を見る。彼女の探るような目つきから逃れようと吉備之介は慌てて話題を変えた。


「そ、それにしても刀って結構な値段するだろ。それをポンと渡せるなんて、お前って本当に金持ちなんだな」

「ジェット機を用意するのに比べたらそんなの端金(はしたがね)よ。大した事じゃないわ」

「いや、それはそうなんだけどよ。一般市民に比べたら手が出せないってのは変わりな――うわあっ!?」


 吉備之介が言い掛けたその時、車が急ブレーキを踏んだ。反動が吉備之介と竹を襲い、二人が転倒する。


「何事なの!?」

「はっ! 前方に集団が立ち塞がっていまして!」

「ッ!」


 運転手の言葉を聞いた竹がすぐさま車外に飛び出す。吉備之介もつられて車道に出た。

 そこに立っていたのは十数人の人間だ。胴部だけでなく頭部も四肢も覆う分厚い全身甲冑(プレートアーマー)を纏った兵士が多数。異世界転生者の襲撃がなければ現代社会ではコスプレとしか思えない格好だ。

 だが、吉備之介も竹も知っている。彼らがコスプレの集団ではないと。彼らの甲冑が実際の戦争に用いられる正真正銘の武具である事を。


 彼らの中にたった一人だけ、異なる格好をした少年がいた。中国の武術家を連想させる武道着だ。ぼさぼさの黒髪を三本の短い三つ編みにしている。童顔ではあるものの目つきはやや吊り上がっており、ネコ科の肉食獣を思わせた。


「貴様らが輪廻転生者か」


 少年が一歩前に出る。途端、少年の全身から湯気のような揺らぎが立ち上った。魔力の放出だ。


「おれの名はクリト・ルリトール。異世界転生軍の八番隊長、『武闘家』の異世界転生者だ。おれ達の世界の為、おれ達の大義の為に貴様らにはここで死んで貰う」


 右の五指をゆっくりと折り畳み、拳の形を作る。両腕を軽く曲げて掲げ、腰を落とした。戦闘態勢の構えだ。


「さあ、路上試合(ストリートファイト)を始めようではないか! フッハハハハハッ!」


 少年――クリトはそう言って歯を剥き出しにして嗤った。

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