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第59転 アーザーとモモチロウ/後

「お前の葬式に出たよ。同級生を通り魔から庇って刺されて死んだと聞いた」

「そうか。有難う」

「いいや。お前らしい死に方だとは思ったがな……まさか異世界に行っても『勇者』(ひとだすけ)をしていたとは」

「人の為に生きるのが僕の性分だからね。キビも知っているだろう?」

「ああ、知っているさ。性分なんて生易しいもんじゃねえ事もな」

「そうだね。……ああ、本当に君は僕の事をよく知っている」


 アーザーが懐かしそうに笑う。それは勇者の険相ではない、思い出に浸るただの青年の微笑だった。


「そんなお前が大量殺人をしたっていうのか」

「…………。ああ、そうさ」


 その表情が吉備之介の一言で曇った。瞳を閉じて、しかし確かに首肯する。彼の静かな態度に吉備之介は忌々しげに歯軋りをした。


「なんでだ。なんでお前までそんな真似ができる!?」

「異世界の方に感情移入しているからかな。大抵の異世界転生者は地球で生まれ育った年月よりも異世界で生まれ育った年月の方が長い。その分、異世界の事を大切に想っている。僕はそれほど長くはないけど、想いは負けていないと自負しているよ」

「想いの為に殺人まですんのかよ!?」

「……そうだね。構わないとまでは割り切れている訳ではないが、決意は固めている」


 瞼を開き、アーザーが真っ直ぐに吉備之介を見る。感情の揺らぎこそあれ、それは紛れもなく覚悟は決めた者の目だった。


「何がお前にそうさせた? 地球人類を残り三割まで殺したのと、異世界を守る事にどういう繋がりがある!?」

「それは言えない。言えば、君は優しいから僕達に情けを掛けてしまうかもしれない」

「掛けちゃ悪いのかよ?」

「そうだ。僕達は数十億人を殺したんだ。許されるべきではない。君達は異世界側の大義など知らず、ただの侵略者として僕達と相対すればいい。勿論、僕達も負けるつもりは毛頭ないけどね」

「お前……!」


 昂ぶりのまま一歩踏み出す吉備之介。だが、その前にアーザーが一歩下がった。退散の意志を示したアーザーに吉備之介も二の句を継げず、立ち止まる。


「ここに来たのは君を観客席で見つけたので挨拶しようと思ったのと、試合場(アリーナ)で僕と対峙した時に君を動揺させない為だ。あらかじめ僕がいると知っているのと知らないのとでは違うだろうからね」


 吉備之介に背を向けたアーザーはそのまま歩き出した。カツカツと鉄靴による足音を鳴らして吉備之介から離れていく。


「さよならだ。試合で君と当たらない事を祈っているよ」


 去り際、アーザーはかつての親友にそう言い残した。

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