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第52転 奥義と最終形態

 軽口を保ったまま波旬が引き金を引く。銃は既に【雷降銃(ライフルガン)】に変質してある。仮に【闇魔法・影鎧(シャドウアーマー)】を展開されても、この威力ならニールの眉間を貫ける。ニールに隠し球がなければ必殺となる絶好の一撃だった。

 果たして隠し球は存在した。火弾を防いだのは影鎧ではなかった。


「な、に……!?」


 波旬が目を見開く。ニールを守るようにドーム状の闇が彼を中心として現れたのだ。火弾は闇に触れるとそのまま消えた。弾いたのでも壊したのでもなく、溶かすように火弾を消したのだ。後には光も熱も残っていない。



「――【闇魔法奥義・終焉(ネバーモア)】――」



 血塗れの顔面でニールが波旬を見上げる。幽鬼のようであり、それでいて般若(はんにゃ)の如き凄まじい形相だった。

 闇のドームが広がり、ニールと波旬を包み込む。唐突に真夜中になったかのような――否、星の瞬き一つない夜闇よりもなお深い暗闇だ。無音、無明、無情の闇黒(あんこく)が試合場を塗り潰していた。


「こいつぁ……!」

「……これが本当の『闇』だ」


 警戒に目付きを鋭くする波旬にニールが語る。


「『闇の元素』の本質は塗り潰す事。光も質量も法も想いも何もかも、黒く塗り潰して無かった事にするのが闇だ。貴様の存在をこの闇で掻き消してやろう」


 波旬の指から先、毛から先が黒ずんでいく。末端から徐々に闇と同化していっているのだ。この闇に全身を覆われた時、波旬の存在はこの世から消滅する。破壊でも殺害でもなく、全くの虚無となるのだ。


「酷く集中力が要る魔法なのでな……これを使うと他の魔法が使えなくなってしまう。戦術上なるべく温存しておきたかったが、仕方あるまい。ゴリ押しのまま消えて貰う」

「ハン。元素って事は物質的に存在しているって事だろ。だったら、吹き飛ばせねえ道理はねえだろうが! ――【変生(ヘンジョウ)処徒銃(ショットガン)】!」


 ニールに向けて散弾銃を連射する。だが、届かない。火弾は銃口から離れた途端に闇に呑まれ、あっという間に消えてしまう。闇を散らす事も叶わない。そうこうしている内に波旬の身体がどんどん黒に占められていく。


「余の前から失せろッ!」


 ニールが負の感情を闇に乗せる。闇に込められた魔力が増し、侵食が一層加速する。このまま打つ手なしであれば波旬は完全に消滅してしまう。

 だが、本当に手がない程、第六天魔王は脆くはなかった。


「天魔兵装、最終形態――」


 波旬が火縄銃を手放す。銃が空中を浮遊し、大きく円を描いた。軌道に炎が奔り、輪となる。炎輪が一際強く輝いたかと思うと銃が分裂していた。炎輪に沿って三十六丁の銃が放射状に並んでいる。それが三重――合計一〇八丁の火縄銃だ。



「――【火魔々羅煩悩連環銃カママラボンノウレンカンガン】」



 炎輪が水平に浮かび、一〇八丁の銃口が一斉に火を噴く。三桁を超える火弾が黒を穿ち裂き、僅かだが確かに闇が晴れた。生じた隙間から試合場の外の景色が垣間見える。


「なっあ……!?」

「成程な。ただの銃撃じゃ無理でも、超火力であれば突破は不可能ではないか。是非もなし」


 顔をしかめるニールに対して、波旬はあくまで不敵な笑みを浮かべる。どこまでも相手に弱みを見せない為に。どこまでも勝利を諦めないが故に。波旬は虚勢を張り続ける。【火魔々羅煩悩連環銃カママラボンノウレンカンガン】――最終形態にせざるを得ない程、自身に負荷が掛かる技であったとしてもだ。

 顔中に脂汗を流しながら、それでも第六天魔王は嗤った。


「てめぇの奥義と俺の『鉄砲三十六段撃ち』、どっちが強いか試してみようじゃねえか!」

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