第51転 一方その頃輪廻転生軍観客席
輪廻転生軍観客席。
「おいおいおいヤベェだろ、これ!? ドクターストップ入れた方がいいんじゃねえ!?」
吉備之介が青ざめた顔で言う。スプラッターと自軍のピンチを目の前にしての反応だ。流血沙汰など無縁だった高校生らしい感性と言える。その一方、
「いや、あのくらいの負傷はザラだったよ、古代ローマだと」
隣のネロは平然としていた。「そういえばこいつ、闘技場で剣闘士がバリバリ殺し合っていた時代の人だったわ」と吉備之介が思い直す。現世ではそうそう機会はなかろうが、前世では血生臭い事なんて日常茶飯事だった人間だ。
「さすがはローマ第五皇帝様だな。四肢の欠損くらい何でもねえか」
「そりゃあネ。ま、ボクは闘技よりも競走や演劇の方が好きだったけど~」
「ていうか、第一試合の時にしなさいよ、そういうリアクションは。死ぬ程の怪我なんて今更じゃない」
「腕が千切れるなんて事はなかっただろうが、第一試合は。そりゃあ死んじまった方がアウトだけど」
イゴロウは頸動脈を裂かれて死んだ。首が刎ね飛ばされる事こそはなかったが、確かに大量出血は目の当たりにしている。したからといって早々に慣れるものでもないが。
「そ。まあ、いずれにしても、ドクターストップなんかないわよ。この決闘はどちらかが死ぬまで闘うのがルール。どんな怪我をしたところで止まらないし止まれない。忘れたの?」
「……ああ、そうだったな。……畜生」
吉備之介が拳を強く握る。仲間を助けられない自身の不甲斐なさ、この試合の過酷さに対する憤り、それに自分も参加している事への不安が拳への力となって表れていた。
「とはいえ、波旬がヤバいっていうのは早計よ」
と竹がニールをスマホで指し示す。
「両手の指の骨折に脳震盪。あれじゃあすぐには立てないでしょうね。一方の波旬は片腕を失いこそしたものの利き腕は健在。元々利き腕だけで銃を撃っていたから、一応支障はないでしょう」
つまり、
「波旬が不利かと言われれば、そうでもないって事」
「……じゃあ波旬は勝てるのか?」
「そこまでは言えないネ。ニールは魔法が使えるから、動かなくても攻撃はできる。波旬だって片腕を失くして痛みも酷いだろうし、動きのバランスも悪くなるしね」
「そうか……。って事は要するに」
「ええ」
竹が頷く。
「まだ勝負は分からないって事」
◇
「くっ……!」
試合場の真ん中で跪いたまま立ち上がれないニール。幸運にも意識消失はしなかったが、それでも足に力が入らなかった。その場から動く事ができない。
「辛そうだな。介錯してやろうか?」
余裕そうに振舞う波旬。だが、実際は彼も限界が近い。四肢欠損の激痛は無視できるが、失血による意識低下が厳しい。しかし、それをニールに悟らせる訳にはいかない。戦闘中に弱みを晒せば、相手が調子付いてしまう事を知っているからだ。
「それとも銃殺刑の方がまだ痛くねえか――な!」




