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第5転 お嬢様の車といえばリムジン

 吉備之介が目を覚ましたのは竹との路上試合(ストリートファイト)より三時間後の事だった。


「ッ……! ……ここは?」

「あら、起きたかしら?」


 跳ねるように起きた吉備之介に竹が声を掛ける。

 二人がいるのは大型高級車(リムジン)の中だ。吉備之介は車内のソファに横にされていた。竹は吉備之介の近くに座り、スマホを弄っている。


「お前! ……そうか、俺はお前に眠らされて」

「さすがに車の中では暴れないでよ。事故死なんて洒落にならないから」


 吉備之介の方を見ずに竹が冷淡に言う。彼女の態度に吉備之介は頭に血が上りかけるも、確かに狭い車内で暴れるのは得策ではない。なので、舌打ち程度で苛立ちを済ませた。

 溜息を吐いて気分を切り替えると吉備之介は竹に問うた。


「どこへ向かっているんだ?」

「岡山空港よ。ああ、あの空港は『岡山桃太郎空港』なんて愛称があったわね。愛着とかあったりする?」

「……いや別に」


 吉備之介が窓の外を見ると幅広い道路が見えた。周囲に他の車の気配はない。皆、先の異世界転生者による襲撃の影響で自宅や避難所に引きこもっているのだ。


「そうだ。思い出したぜ、獣月宮。世界有数の大金持ちじゃねえか」


 資産家『獣月宮機関』――あらゆる産業に根を張る超弩級の巨大組織だ。世界各国に流通している製品の九割は機関の影響下にあると言っても過言ではない。この国において彼らに関わらず生活するのはおよそ不可能とされている。


「その機関長の娘が私よ。世界が荒廃した今となっては貨幣の保障も揺らいでいるけど、それでもジェット機を用意する程度の事は他愛ないわ」

「ジェット機? ジェット機でどこに行くんだ?」

「決まっているでしょ。異世界転生者達の本拠地――魔王城よ」

「魔王城……あの黒い城か」


 異世界カールフターランドより来たる魔法の城。魔族を統べる王の居城にして異世界人達の最終防衛拠点。異世界転生者と輪廻転生者が正面対決する場として誂えた決闘の舞台だ。


「マジで俺に決闘させようってんだな」

「そうよ。既にあんた以外の六人はもうあの城に向かったわ。あんたで最後」


 あんたが逃げ回ったせいで遅くなっちゃったわね、と竹が愚痴を零す。吉備之介は顔をしかめるが、特に何も言い返さなかった。


「なあ、もう他に輪廻転生者はいねえのか? 何も俺みたいな弱虫を連れて行かなくてもいいだろ。他の奴に任せておけって。ギリシャ神話の超英雄(ヘラクレス)とか日本最大の怪異殺し(たわらのとうた)とかいねえの?」

「ヘラクレスは神だから転生できないわよ。星座にされた英雄も同じ。俵藤太(たわらのとうた)は残念ながら当世には転生していないわ」

「キンちゃんやウラちゃんもいねえの?」

「金太郎も浦島太郎も転生はしているけど……年齢がね。どっちも戦えるような歳じゃないわ。ていうか、浦島太郎に武功の逸話なんてなかったでしょう」

「そうか? 海辺でなら敵に回すと結構厄介なんだけどな、ウラちゃん」


 ふぅ……となおも固辞する吉備之介に竹が溜息を挟む。


「あんたのどこが弱虫なのよ。走り幅跳び世界記録更新しておいて」

「お前に負けたじゃねえか」


 吉備之介が右手を軽く振って言い捨てる。だが、竹は彼の言い分を否定した。


「あれは不意打ちだった上に、あんたが超常の力に慣れていなかったからよ。場所もよかったわね。次に戦ったら私が負けるわ」

「そうかぁ?」


 到底信じられないという面持ちの吉備之介。実際、彼からすれば竹の手玉に取られた戦いだった。それが次は勝てると言われても信用し(がた)い。


「あんたの力はあんなもんじゃないのよ。そもそも刀を持っていないでしょ、あんた。刀を持っていない桃太郎なんて桃太郎じゃないわよ」

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