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第48転 『勇者』アーザーとンガイ・J・ガードナー

 異世界転生軍側観客席、VIP席。観客席の最上段にあるその場所には二人の人間がいた。


「うん。最初は心配だったけど、調子が出てきたみたいだね、ニール」


 一人は青年。新緑色の髪に快晴色の瞳をしている。年齢は十代後半。青マントを着けた白銀の甲冑で身を覆っている。一見すると優男だが、滲み出る闘気と、それに反する落ち着いた所作が、彼が只人ではない事を示している。


 彼こそが『勇者』アーザー。異世界転生軍の序列二位。西の大陸を侵略する『西方魔王』を撃破した男。魔法世界(カールフターランド)における人類の英雄だ。一方で地球人類にとっては億単位の大量殺人者でもある。

 余談だが、『盗賊』イゴロウが討ち取ったのは『南方魔王』だ。『東方魔王』であるニールとの交戦記録はない。


「まおうさま がんばれー!」


 もう一人は少女だ。その容姿はなんと、あのジャクリン・ガードナーに瓜二つだった。

 だが、細部が異なる。灰褐色の体毛は陰り、肌は青白く血が通っていない。目は幽霊のように虚ろで、表情はぎこちない。何より呼吸をしていないのが異常だった。

 それもその筈。彼女は動く死体――生ける屍(リビングデッド)という魔物なのだから。


 ンガイ・(ジャクリン)・ガードナー。

 最も無傷に近かったジャクリンの亡骸を外装にして、ンガイ村の住人全員の無念が集まってできた不死者(アンデッド)だ。ニールが村を立ち去ってしばらくした後、村人達の呪いが村の残骸を掻き集めて彼女を生んだ。自然発生型の不死者だ。


 不死者は蘇生とは違う。不死者になるというのは、言うなれば虫の変態のようなものだ。芋虫が蛹を経て蛾になる。それと同様に殆ど違う存在になるのが不死者化だ。生前の面影こそ残しているが、同一ではない。

 ましてや彼女はンガイ村の集合体。よって、ジャクリンではなくンガイと呼ぶのが正しい。


「ゆうしゃさまも まおうさまを おうえんして!」

「勿論。応援しているさ。声には出していないだけでね」

「むー」


 ンガイが不満そうに頬を膨らませるが、アーザーは眉尻を下げて笑顔で流した。


 ンガイは魔王ニールの正室だ。ニールが魔王に就任した直後に魔王城に現れた。不死者として復活した後、当てもなく彷徨い、それでも本能的にニールの魔力を追って、彼の下に辿り着いたのだ。

 ニールは彼女を迎え入れ、婚姻を結ぶ事で彼女の身柄を確保した。かつての幼馴染の成れの果て。そんな彼女が姿を現した時に彼が何を思ったのか。その胸中は余人に推し量れるものではない。

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