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第47転 引きこもり陰キャ根暗の僕が魔族に転生したので闇属性無双して魔王に成り上がる4

 神といっても当てなどない。魔族に崇拝する神などいない。しかし、ニールにとって祈る相手は神しか思い浮かばなかった。


(村を……ンガイ村を助けて下さい。あの村は人間を傷付けた事はおろか、人間を見た事すらない者達ばかりなんです。酪農で日々の生計を立てる平和な村なんです。僕の……ようやく見つけた僕がいていい場所なんです。だから、お願いです。助けて下さい……!)


 その祈りを最後にニールの意識は闇に落ちた。

 人間達はニールの傷は致命だと判断した。しかし、それは誤りだった。地属性の指輪によってニールは徐々にだが、着実に瀕死から回復していたのだ。

 一昼夜が明けた後、ニールは目を覚ました。体力はどうにか歩けるくらいには回復していた。体を引きずりながらもニールは村へと帰還する。強い不安に胸を掻き毟られながら、それでも自分の目で確かめなければと足を動かす。



 彼を待っていたのは、何もかもが焼け落ちたンガイ村だった。



「あぁあああああぁぁあぁあああああぁぁぁぁぁあああぁああああああああああああああああああああ――――っ!」


 黒炭の村の中で叫び、滂沱の涙を流すニール。しかし、彼の涙が幾ら大地を濡らそうと、既に燃え尽きたものを消火する事はできない。家屋も村人達も、田畑や家畜さえも全て灰燼と化していた。村人達の亡骸はあまりに黒焦げが過ぎて、誰が誰なのか判別が付かなかった。


 ふらふらと歩を進めると、ジャクリンの焼死体を見つけた。


 彼女の亡骸だけはどうにか原形を留めていた。火属性耐性のアクセサリーが効果を発揮したのだ。しかし、そんな事実はニールの慰めにはなりはしなかった。結局、彼女の命を守る事はできなかったのだ。死体が生前の形を保っているから何だというのか。


『――でも、もしかしたら、ニール様だったら大魔王様になれるかも』

『――私は何があってもニール様についていくと決めたんだから。ニール様は好きな道を進んでいいのよ』


 ニールの頭の中にジャクリンの言葉が繰り返される。ニールの心の中でスイッチを入れるようにある決意が生まれる。


「…………」


 ジャクリンの顔に自分の顔を落とす。唇と唇が重なる。初めての接吻(くちづけ)は苦い遺灰の味がした。

 ゆっくりと顔を離す。ニールの唇はジャクリンの色が移って黒くなっていた。

 ニールが顔を上げる。未だに涙を流しながら双眸からは憤怒の念が溢れ出ていた。鬼気迫る形相は地獄の閻魔もかくやという凄惨さだった。


 その後、父王が勇者に討たれた事で後継者を決める為に、ニールは魔王城に呼び戻された。同じ後継者候補である兄弟達や陰謀巡らす愚臣達を排除し、東の魔王となった。虚勢を張ろうと喋り方を尊大になるように努め、一人称を『余』にした。

 そして戦力を率いて人類に進撃。大陸の各国を滅ぼし、ついには勇者を討ち取った。


 全ては人類への報復の為に。村人達の無念を晴らす為に。ジャクリンの「大魔王になれる」という言葉を真実にする為に。あの日から消えない胸の内の炎に焦がれるままに。負の感情――呪いに突き動かされるままに。


 激情は今もなお、ニールの心を()き続けている。

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