第46転 引きこもり陰キャ根暗の僕が魔族に転生したので闇属性無双して魔王に成り上がる3
そんなニールの心をジャクリンが徐々に溶かしていった。聡明かつ無垢で、疑う事を知らない彼女の性格がニールの前世から続くコンプレックスと対人恐怖を解消していった。
村人達も魔に属するものに生まれたとは思えないほど温和であり、魔王の子という事もあってニールに好意的だった。人間を見ると蹂躙したい衝動に襲われるのが魔族の性。しかし、魔族と魔物しかいないこの村ではその衝動に苛まされる事なく、平和な日常を謳歌していた。
「あの……これ、プレゼント。今日の授業で作ったから」
「まあ、綺麗な腕輪! 私に?」
「うん。火属性耐性が付与されるアクセサリー。無効化まではできないけど、ある程度のダメージは軽減するよ」
「有難う、嬉しいわ! じゃあ私もこれをあげるわ。地属性の指輪よ。大地のエネルギーを取り込んで、装備者の傷を少しずつだけど癒してくれるの」
「そうなんだ。有難う」
「どういたしまして。あなたがいつまでも健やかでありますように」
二人の仲睦まじさを知らない村人はいなかった。「ニールが魔王になったら、もしかしたらジャクリンが王妃様になるかもしれないわね」と村の大人達は微笑ましく二人の様子を見守っていた。
だが、穏やかな日々は唐突に終わりを告げた。
ニールが十歳を迎えた年。その日、ニールはたまたま村を離れていた。魔王城に残った兵士と会う為に近くの街に赴いていたのだ。ニールはこの街で定期的に情報共有を行っていた。兵士からは「勇者の軍が魔王領の深くまで侵攻している。奴らは手当たり次第に村々を襲い、魔王軍への支援の手を絶つつもりだ。ンガイ村も危ないかもしれない」と忠告を受けた。
その帰りにンガイ村の方角から火の手が上がっているのが見えた。
「そんな、まさか村が……!?」
「急いで! 早く帰るんだ!」
馬車を急がせるニールと焦る御者。「無事でいてくれ」とニールは必死で祈る。しかし、その思いは報われる事はなかった。あともう少しで村が見えるという所で馬車が横転した。真横から炎魔法による攻撃を受けたのだ。
「……やったか?」
馬車を攻撃した下手人達が姿を現す。兵士の予想通り勇者軍の人間だった。
「ああ。御者は即死だ。こっちのガキはまだ息があるな」
「だったら、きっちりとどめを刺しておこう」
「待て。魔王軍が来る前にずらかる予定だろう。魔力も無駄遣いにできねえし、心配しなくてもこの傷なら放っておいたら死ぬ。どうせこんな場所まで助けに来る奴はいねえよ」
「それもそうだな」
死にかけたニールを放置して人間達が立ち去る。薄れゆく意識の中、ニールはこう思った。
(誰か……誰か……神様……お願いです……)




