第44転 引きこもり陰キャ根暗の僕が魔族に転生したので闇属性無双して魔王に成り上がる1
ニール・L・ホテップの前世は引きこもりの不登校児だった。
差別。侮蔑。無視。揶揄。暴力。破損。恐喝。学校においてニールに人権などありはしなかった。思い出したくもないが、忘れられる筈もない苦味の日々。ニールが引きこもりになるのにそう長い時間は掛からなかった。
ある日、ニールの家が火事になった。彼の妹が着けっ放しにしていたストーブから干していたタオルに引火し、燃え広がったのだ。
部屋にこもっていたニールが火の手に気付いた時には手遅れだった。扉も床も燃え、窓から飛び降りても一命を取り留めるかどうかといった状況だった。
だが、そもそも逃げようという気力が彼にはなかった。人生に絶望していた彼にとって死は抵抗すべきものではなかったのだ。
「そうか……もう生きなくていいんだ。……よかった」
延焼により部屋の酸素が減少し、更には煙と共に有毒ガスが立ち込める。あっという間にニールは酸欠と中毒によって意識を失い、そのまま焼死した。
そういう心持ちであったから、転生の女神に異世界に行く事を告げられた時は心底がっかりした。
生きているのが辛かったから虚無になりたかった。もう何も考えず、何も感じず、消え去りたかった。だというのに、「二度目の人生を歩め」などと地獄に落ちるよりも地獄だと思った。
「嫌だ……嫌だ! もう消してよ! 僕を消して! 僕をいなかった事にしてよ!」
「そういう訳にはいきません。だって、アナタ、凄くいい逸品になりそうなんですもの」
しかし、転生の女神はそんな彼の心境など知った事ではなかった。否、知っていたからこそなおの事、異世界転生を強行した。彼の転生先は魔族――魔王の子であり、闇属性の使い手だ。闇は呪い。ニールの負の感情は何らかの起爆剤になると踏んでの事だった。
「不安がる事はありません。アナタには特別な力を授けましょう。アナタを害するものはこの力で……」
「……そんなもの……」
こうしてニールは絶望と共に魔族に転生した。
とはいえ、最初の十年は平和だった。魔王は善人ではなかったが、極端な悪人でもなかったし、城の者は敬意を持って彼に接してくれた。彼が八歳の時、勇者との戦いに巻き込まれないようにと魔王城から離され、辺境の村に送られたが、村人達も彼に良くしてくれた。
ンガイ村。それが疎開先の村の名前だった。




