第41転 WOWARI
吉備之介は輪廻転生軍側の観客席に一際目立つ一団がいるのを見つけた。
「なあ、アレって『WOWARI』のメンバーじゃね?」
吉備之介に言われて竹がそちらに目を向けると、そこには男性二人と女性一人がいた。三人とも金髪や紫髪など派手な色に頭髪を染め上げ、エナメル系の黒いライダースジャケットを着ている。服の所々には鋲が打ち付けられていた。
「ああ、そうね。こっちの観客席には輪廻転生者の家族や知人達を招いているから」
「成程、それでここにいるのな。それにしてもマジかよ。あの有名な『WOWARI』こんな近くで見られるなんて」
「日本一有名な侍が何を言っているのよ。『WOWARI』ってロックバンドだっけ?」
「違ぇよ、メタルバンドだよ」
「……私、そっちの方は疎くて」
メタルバンド『WOWARI』は四人組の音楽グループである。ヴォーカル兼リーダーのKIP、ギターのSARU、ドラムスのTANUKI、ベースのSUZUKAの構成だ。
「何を隠そうあの人達も輪廻転生者なのよね」
「そうなんだ?」
「そうよ。SARUは羽柴秀吉、TANUKIは徳川家康、SUZUKAは鈴鹿御前がそれぞれの前世なの」
「『三英傑』が揃ってんのかよ! とんでもねえな!」
日本の戦国時代において天下統一に導いた、愛知県ゆかりの三人の戦国大名を『三英傑』と呼ぶ。織田信長、羽柴秀吉こと豊臣秀吉、徳川家康だ。「天下という餅を信長がつき、秀吉が捏ねて、家康が食った」という歌が三人の関係をよく表している。
なお、鈴鹿御前は平安時代の女傑であり、第六天魔王の娘という伝承がある。三人とも転生後、前世の記憶はなくとも魂が織田信長を慕って集まり、バンドを結成したのだ。
「っと、いけねえ。試合に集中しねえとな。見ろよ、あのニールとかいう魔王の表情を」
「ええ。あれはキレているわね。ああいうのが臨界点を超えると怖いのよね、これが」
吉備之介の言葉に竹が同意する。二人の眼下、ニールの殺意が闇と共におどろおどろしく膨れ上がっていた。
◇
ニールの表情からは笑みが消えていた。先程までのテンションの高さが嘘のような無表情だ。この能面の如き顔こそが素のニールだった。
「……全力で来いと言ったな、第六天魔王」
波旬の余裕な態度に苛立ちを覚えつつも、ニールはあくまで冷静に努める。冷静に怒りを面に出さず、腹の底に溜める。感情を爆発力に変える為にだ。
「よかろう。だが、後悔するなよ。余の全力は余でも制御が利かんのでな」
「手加減無用だ。さっさと来な」
「ふん。――【闇魔法・黒剣弾雨】!」
ニールが闇から黒剣を展開する。先程は七本だったが、今度の本数はその七倍――四十九本だ。全身から生やしているのでまるで針鼠のようだ。
「斉射!」
四十九本の刃が一斉に射出する。真っ直ぐに飛ぶものもあれば弧を描いて飛ぶものもあった。上下左右から刃で囲む事で波旬の逃げ道を塞ぐ狙いだ。




