第37転 火魔々羅
「確かめさせて貰おう。――【闇魔法・黒剣弾雨】!」
七本の黒剣が一斉に発射する。一本一本が音に届く高速の刺突だ。波旬の肉体に風穴を空けんと大気を掻っ切っていく。
だが、如何に音速といえど、射出する角度と標的が分かっていれば弾道を読むのは不可能ではない。ましてや波旬は輪廻転生軍に選ばれた程の猛者だ。この程度の攻撃を捌くのに訳ない。
「【変生・魔針銃】――」
波旬の銃が変質する。引き金を引くと銃口から火弾が連射した。展開した紅蓮の弾幕が黒剣を悉く遮り、撃ち落とす。
「ほほう、機関銃になるとはな。ならば、これはどうだ――【闇魔法・黒剣十指】!」
闇がニールの両手を包み、黒剣がそれぞれの指に備わる。指の動きと連動する刃はまさに爪だ。
得物を狩る猟豹の如き動きでニールが地を駆ける。一息の間にニールが波旬に肉薄する。常人であればそのまま八つ裂きにされる大爪。それが目と鼻の先にまで迫るが、やはり波旬に焦りはない。
「【変生・処徒銃】――」
二度目、波旬の銃が変質する。響く二発の銃声。散弾と化した火弾がニールの右爪を、続いて左爪を撃つ。掌に散弾を喰らうなど手首から先がなくなってもおかしくないが、ニールの両手は無事だ。彼の全身を包む闇が攻撃だけでなく防御の役割も果たしているのだ。
「今度は散弾銃か! 成程、それが貴様の銃、それが【火魔々羅】の機能か。面攻撃にも線攻撃にも対応しているという訳だな。――ならば、点攻撃はどうだ?」
ニールが拍手をする。十の黒剣が重なり、一本の巨大な刃となる。
「【闇魔法・光殺しの剣弾】――!」
射出される巨剣。一点に集中した威力は黒剣十本分よりもなお高い。散弾銃では撃ち落とせないというニールの判断だ。この剣弾を前にさすがの波旬も顔色が変わる。汗が噴き、それでも依然、表情から笑みは消えていなかった。
「――【変生・雷降銃】!」
三度目の変質。火弾に旋転が与えられて発射し、ジャイロ効果を獲得する。自転運動をする事で弾丸は通常よりも遥かに高速で飛翔し、命中精度と衝撃力、貫通力が強くなる。火弾は巨剣の芯を正確に射抜き、四散させた。そのまま火弾は真っ直ぐに進み、ニールの頬を掠る。
「…………!」
ニールの顔が若干引きつる。今の一発は彼の闇をも貫通しかねない威力だった。もし急所に当たっていたら非常に危険な事になっていただろう。頬から血が線を引いて流れ落ちる。
「小手調べのつもりか、大物ぶりたいのかは知らねえが……」
そんなニールの表情を楽しみながら波旬が言った。
「出し惜しみはなしにしな、小僧。この『第六天魔王信長波旬』が相手をしてやっているんだぜ。全力で来い」




