第34転 次鋒戦選手入場/Side:異世界転生軍
第一試合終了より三時間後。修繕に二時間二十分。各人準備を整えるのに余裕をもって四十分。すっかり元通りに均された試合場の中央で、審判エルが高らかに口を切った。
『長らくお待たせしましたぁ、戦士達よ! それでは只今より第二試合を開始します!』
観客席が沸く。三時間、哪吒太子の勝利を祝ったり、イゴロウの死を悼んだり、暇を持て余したりしていた彼らもすっかり感心は第二試合へと移っていた。
『第一試合は異世界転生軍にとっては残念な結果になってしまいましたが、その無念をこのお方が晴らして下さるでしょう! ――それでは、入場お願いします!』
エルが東方の入場口に掌をかざす。呼ばれ、その奥から現れたのは小さな影だ。
『そもさん。魔族とは何か』
影は少年だった。十代前半と思しき小さな体躯に影の如き黒服を纏っている。膝裏まで届く宵色の頭髪、月色の瞳、闇を固めたとしか言いようがない漆黒の翼、そして何より側頭部から生やした二本の大きな角が、少年が人間ではない事を示していた。
『魔法世界の存在は全て魔力を宿している。野を駆ける獣も、日向に咲く花も、生物ならざる岩までも。この世のありとあらゆる物質は魔の力を持っている。では、殊更魔族を「魔の種族」と区別しているのは何故か』
少年の黒服はローブだった。煌びやかな金の刺繍が施され、所々に宝石も埋め込まれている。特権階級の者にしか袖を通す事が許されない。そういう衣服だと一目で分かる、荘厳なデザインだ。
『せっぱ。魔族とは「魔界孔」より生まれた存在である』
『魔界孔』――それは魔法世界カールフターランドにある地名である。カールフターランドには東の大陸、西の大陸、南の大陸、北の大陸の四つがあり、『魔界孔』はその中心に位置する。魔界に通じる孔であり、魔族の発祥の地と噂されているが、真実を確かめた者はいない。孔の向こうに行って戻ってきた者は誰一人としていないのだ。
『「魔界孔」より湧き出る闇を吸着した生物が魔族になる。闇は人類蹂躙の衝動に植え付け、魔族はそれに従って人類を侵略する。魔族とは即ち「魔界孔の種族」である。魔王とはそんな魔族達を統べる王に他ならない』
少年の体から黒い流体が噴出する。炎のように揺らめくそれは、炎とは真逆で暗く冷たく、見ているだけでどうしようもなく怖気を震った。双眸には怒気も憎悪もなく、ただ純然たる殺意が満ちている。
『異世界転生軍七将序列一位――「魔王」ニール・L・ホテップ!』
エルが高々と彼の名を告げた。




