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第29転 彼方なる父を想う/Side:哪吒太子

「僕はここにいるよ、父さん――」


 本来、道教には転生の理念はない。道教の信徒――道士の目標は不老長生であり、死を前提とする転生とはそぐわないからだ。しかし、後に仏教の影響を受け、輪廻転生や神が衆生を救済するという思想が生まれた。

 哪吒はこの理念に便乗して度々人間に転生していた。目的は一つ、己の性能を証明し続ける事。人間兵器として生まれた己の力を、悪逆を粉砕する事で世に示そうというのだ。

 それがまさか今回は、異世界の住人と戦う事になるとは夢にも思わなかったのだが。


『剣と魔法の世界「カールフターランド」ねえ……仙界以外にもそんなファンタジックな場所があったなんてね』


 自身の前に現れた輪廻転生軍の首領に対して、哪吒はこう尋ねた。


『異世界人は倒すべき悪であると?』

『少なくとも今、あの城にいる彼奴(きゃつ)らは罪人だ。地球人類の殆どを殺戮したのだから』

『確かに。それは殺された人達からすれば罪人以外の何者でもないね』


 首領の返しに哪吒は納得した。脳裏に浮かぶのは祖国の悲惨な光景だ。廃墟と化した街、我が子を探して泣き叫ぶ母、親が死んで表情をも失ってしまった子供。悲痛、慟哭、絶望、怒号。成程その光景を生み出した者は紛れもなく罪人であろう。


『壊すべきだけど、一般人には壊せない存在か。いいよ、その決闘に参加しよう。僕、哪吒はそういった存在と闘う為に生まれてきたんだ』


 哪吒は決闘儀式の招集に応じる事に決めた。





「――奪うのは俺だ」

「――壊すのは僕だ」


 かくして、異世界転生者と輪廻転生者は激突する。視線のぶつかり合いで火花を散らし、極技の打ち合いで実際に火の粉を散らす。左手の小回りは短剣よりもなお優れている。炎槍の攻撃力は凶悪だが、イゴロウの左手は攻撃力そのものを無意味に帰す。

 しかし一方で、イゴロウには決め手がない。炎槍を防ぐ事はできるが、攻めに転じる事ができない。苛烈な槍撃を前に短剣を突き出す暇がないのだ。結果として現状は、イゴロウがやや有利での膠着状態に陥っていた。


「どうしたどうした! 額が汗びっしょりじゃねえか、てめぇ!」

「そういう君こそ汗の飛沫が噴水みたいだよ!」


 炎槍の高熱をイゴロウが無効化しているといっても、それはイゴロウに向かってくる熱のみだ。余波までは消せず、二人の足元の地面は煮え滾る溶岩と化していた。その上で闘っているのだから暑いのは自然。むしろ双方、生きていられる時点でおかしいのだ。


【偽・金翼靴タラリア】――地形ダメージを無効化するイゴロウの装飾品だ。完全にノーダメージに抑える一方で、一定確率で壊れてしまうリスクがある。イゴロウの幸運値なら半永久的に使用可能だ。

 とはいえ、灼熱地獄の只中にあっては体力を消耗する。舞う汗もすぐに蒸発する環境。早めに決着をつけたいのはお互い様だった。


「はあっ!」


 哪吒が一際強く槍を振るう。しかし、そのターゲットはイゴロウではなく地面だ。地面に槍を叩きつけた反動で哪吒が高速跳躍し、イゴロウとの距離を大きく離す。


「決着をつけよう、イゴロウ」

「ああん? ハッ、上等だ。来いよ、喰い破ってやる」

「ふふ、楽しみ。……行くよ、【風火二輪(ふうかにりん)】」


 哪吒の踝にある車輪が高速回転を始めた。


 ――終幕が近い。この試合の決着は死によってしか定まらない。

 イゴロウと哪吒、そのどちらかがもうすぐ必ず死ぬのだ。

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