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第28転 彼方なる父を想う/Side:イゴロウ

 異世界転生軍側観客席。観客達が(ひし)めき合い、熱気溢れるそこに一人の女性がいた。褐色肌に白髪、黄玉(トパーズ)色の瞳。イゴロウの義姉にして正妻クーナだ。


「イゴロウ……」


 周囲の熱気とは裏腹に彼女は不安に駆られた顔をしていた。自分の夫にして義弟のイゴロウが戦場にいるのだから当然の感情だ。

 彼女の夫(イゴロウ)は常に最強だった。如何なる戦にも負けた事はなく、あの魔王ですら討ち倒した。それが今は生きるか死ぬかの闘いを繰り広げている。

 勝敗は――夫の生死はどう転ぶか全く予想がつかない。ここまで切羽詰まった状況は彼女にとっても初めてだった。不安に胸が押し潰されそうになるのも無理はなかった。


「頼む……頼むよ。勝って。勝って帰ってきておくれよ、イゴロウ……!」


 両手を鬱血する程に強く握り、クーナは夫の生存を願う。


「父ちゃん、イゴロウを助けておくれよ……!」


 亡き父を胸中に祈るクーナ。彼女の祈りを掻き乱すかのように闘いの激しさはますますヒートアップしていった。





 炎を纏った槍が縦横無尽に攻め立てる。

 縦に打ち、横に薙ぎ、斜めに払い、幾重にも突く。ただでさえ凶悪な哪吒の腕力で振り回される槍に、土石をも溶解する炎熱が付随する。その破壊力たるや地獄の鬼の責め苦もマシに思える程だった。


「やあぁあああああああ――!」

「おぉおおおおおららあ――!」


 そんな暴威を前にして、イゴロウは一歩も退いていなかった。

 短剣で炎槍を防ぐのは不可能だ。戦いの序盤では槍の猛攻を凌いでいたが、炎熱には耐えられない。常軌を逸した高熱は近付くもの全てを焼き尽くす。人体など灰も残らない。短剣ごと指を消し飛ばされて終わりだ。

 故にイゴロウは炎槍の悉くを()()で受け止めていた。


 槍を素手で止める。本来ならばありえざる光景だ。それを可能にしているのはイゴロウの左手のスキルだ。


悪神の手(イゴーロナク)】――『貪る手の盗賊団』の頭領の証たるスキル。その効果は掌の口に触れたもの全てを喰らい、魔力に変換する事。喰らえる範囲は物理的なもののみならず、概念的なものまで含まれる。炎熱や斬撃は勿論、目に見えない放射能や、複数個の銃弾から成る弾幕さえも喰らい、無効化する事ができるのだ。





「見ていてくれよ、親父――」


 イゴロウは思い出す。彼が魔王を討ち倒して一年も経たない頃だった。手に入れた平和を満喫する彼の下に『勇者』が現れ、こう言ったのだ。


『――このままでは新たなる魔王が君の平穏を奪うだろう』と。


 彼の話によると、この魔法世界(カールフターランド)は『地球の負債』を押し付けられているのだという。その負債が魔を生み、魔が人々を苛む。魔王を倒したばかりの今は平和だが、負債を根本から解決しない限り、再び魔王は現れる。

 それでも、イゴロウの代はどうにかなるかもしれない。だが、子の代、孫の代ではどうなるか分からない。終わらない戦争。終わらない侵略。終わらない略奪。その原因が地球にある。それを根本的に解決する為に力を貸してくれと、『勇者』はイゴロウをスカウトしに来たのだ。


『成程な。あんたの話を鵜呑みにした訳じゃねえが……』


 自分と同じく地球から来た『勇者』という男。彼の話を聞き終えたイゴロウはこう返した。


『……奪われるかもしれねえってんなら、奪わなきゃいけねえよなあ、地球からよお!』


 こうしてイゴロウは『勇者』の計画に――異世界転生軍に参加する事を決断した。

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