第27転 幸運値爆上げで異世界転生した俺が魔王軍をブチのめしまくって盗賊王に成り上がる話2
「お、おう……イゴロウか。クーナは……?」
「クーナは無事だ。親父のお陰だよ。……いや、それより今は親父自身の事を……!」
「……いや、いい。俺ァもう助からねえ……それくらい分かる……」
頭領は己の傷の深さを認識していた。もうすぐ自分は死ぬ。盗賊などというアコギな商売をしている以上、死に方は選べないと思っていた。よもや国家権力ではなく余所者の魔王軍に殺されるとは意外な展開だったが、それも覚悟の上だった。
故にこういう時に言うべき言葉はあらかじめ決めていた。
「クーナは……お前にくれてやる……。あいつもそれを望んでいるだろ。姉弟だが、血は繋がってねえんだ。気にする事ァねえ。……盗賊団もくれてやる。お前の好きにしろ……」
頭領が震える手をイゴロウに伸ばす。イゴロウは思わずその手を両手で握った。
「このスキルは……頭領の証だ。うまく使え……」
手と手の接触を通じて頭領からイゴロウに魔法が流れ込む。イゴロウが左手に違和感を覚えたので見てみると、掌に口の紋様が現れていた。この紋様は見慣れている。頭領専用のスキル『悪神の手』だ。『貪る手の盗賊団』が崇める神の加護である。
その手を呆然と見ていたイゴロウだったが、やがてふるふると震えたかと思うと激昂の声を上げた。
「ふざけんな! 何、俺の面倒を投げ出そうとしてんだよ! 俺の父親と母親が俺を置いていっちまったのは親父のせいじゃねえか! 親父、俺の事いつも半人前だって言っていたじゃねえか! だったら俺が一人前になるまで責任取って見ろや!」
ボロボロと涙を流すイゴロウ。これ程までに泣いたのは転生以来初めての事だった。
「だから、死ぬんじゃねえ……! 死ぬんじゃねえよ、親父……!」
「……ケッ。甘ったれがよォ……」
滂沱の涙を流すイゴロウに最初は呆気に取られていた頭領だったが、やがて心底嬉しそうに苦笑した。
「じゃあ、言ってやるよ……。お前は……一人前だ。俺の……自慢の……む、すこ…………」
それが頭領の最期の言葉だった。
頭領の手から力が抜け、イゴロウが落とし掛ける。慌てて取り直すも頭領の手が握り返す事はない。その目はもう誰も見ておらず、その口が開く事は二度となかった。
◇
「皆、聞け。俺は方針を決めた」
頭領が死んだ翌々日。生き残った盗賊団を前にイゴロウはそう切り出した。隣には未だ憔悴した顔のクーナが控えていた。
「先に言っておく。俺の方針についていけないと思ったら、今この場で盗賊団を抜けろ。足抜けしても一切咎めはしねえから心配するな。それくらい危険な道を選ぶ」
「イゴロウ……」
イゴロウの双眸は静かな怒りに満ちていた。育ての父を失った悲しみは二晩の間に収まり、代わりに沸き上がったのは「魔王軍を許さない」、「身内を守る」という断固とした決意だった。
「――俺は魔王軍を倒す。今後、団の活動は全てその為のものになる」
イゴロウがヒントにしたのは私掠船だ。
私掠船とは国家より私掠免許を得た個人船であり、海賊船の一種だ。敵国の船を攻撃し、その船や積み荷を奪う事で敵国の力を削ごうという戦略である。英西戦争の際には、海軍力で不利であったイギリスが有利な海軍力を持つスペインを弱らせようとして、通商破壊を目的に行われた。中でもフランシス・ドレークの私掠船は偉業と讃えられた。
イゴロウは魔王軍の部隊を襲撃し、物資を略奪。大将首と略奪品の一部をコネがある辺境伯を経由して王家に献上した。また、魔王軍のみならず他の盗賊団も襲い、国内の治安維持にも貢献した。
この行動を繰り返し、王家の信頼と後ろ盾を得た『貪る手の盗賊団』は勢力を拡大。餌食になるくらいならと傘下になる盗賊団が増え、いつしか民衆からも支持されるようになった。結果、イゴロウは魔王軍との戦いにより注力する事ができた。
「奪われる前に奪う。俺のものに手を出そうというなら覚悟を決めやがれ……!」




