第26転 幸運値爆上げで異世界転生した俺が魔王軍をブチのめしまくって盗賊王に成り上がる話1
イゴロウが地球から転生した先は、何の変哲もない村だった。両親もただの村人であり、格別に善良でもなければ特別に悪逆という訳でもなかった。そんな両親をまだはっきりとしない視界で見上げながら、生後間もないイゴロウは「平凡な人生になりそうだなあ」などとぼんやりを考えていた。
村が盗賊団に襲われたのは、それから一週間もしないある日だった。
イゴロウにとって最初の不幸は、両親が赤子のイゴロウを置いて我先にと逃げてしまった事だ。
(えええええ!? マジかよ俺どうすりゃいいんだよ……!?)
呆気に取られるもどうしようもない。赤子である彼はまだ満足に身動きする事ができないのだ。盗賊から逃げるなどもっての外。仮に盗賊に見つからなかったとしても、このままでは飢え死にするしかない。
絶望に囚われた時、家の扉が開いた。両親が帰ってきたのではないかと僅かな希望を懐いたが、部屋に入ってきた人物を見て再びの絶望に呑まれた。
どこからどう見ても堅気ではない、むくつけき大男だったからだ。
(終わった……!)
最早死ぬ以外の未来が見えなくなったイゴロウは、もう泣き声一つ上げる事もできなかった。
「ほう、赤ん坊か」
入ってきた男がイゴロウの存在に気付く。
「親に見捨てられたか。俺が言えた義理じゃねえが、可哀想にな」
男は村を襲った盗賊団の長――頭領だった。彼が来たせいでイゴロウの両親は逃散した為、確かに何か言える立場ではない。しかし、
「普段なら放置するか、せめてもの慈悲として殺して楽にしてやるかなんだが……運が良いな。ついこの間、俺も娘が生まれたばかりでな。今の俺にはちょっとばかり情けってもんがある」
この出会いこそがイゴロウにとって最初の幸運だった。彼と巡り合った事でイゴロウは『貪る手の盗賊団』頭領の養子となった。もしこれが他の盗賊だったらイゴロウは何事もなく殺されていたかもしれない。不幸中の幸いにも彼は生き延びる事に成功したのだ。
それからの彼の人生は基本的には順風満帆だった。地球から異世界に転生した際に彼は幸運値を爆上げするスキル『神命豪運』を与えられていたからだ。
この世界にはレベルアップという概念があり、レベルが上がるごとにパラメーターが増えるのだが、その数値を彼は幸運値に集中させる事ができるのだ。いっそ極振りにしても構わないと彼は考えていたのだが、それはシステム上不可能だった。
ともあれ、このスキルにより彼の人生は運の良さは神懸かりの領域になった。賭け事をすれば必勝。探し物をすれば百発百見。適度なモンスターと戦って順調にレベルを上げ、辺境伯の娘ともコネができた。
頭領の娘であるクーナとも仲良くなった。褐色肌に白髪のベリーショート。快活そうで大きな黄玉色の目が特徴の少女だ。
「アタシの方がお姉ちゃんなんだから、アタシがイゴロウの世話をするんだ」
「いや、お姉ちゃんって……生まれた年は同じじゃねえか。そもそも本当にどっちの生まれが早かったかなんて確かめようが――」
「細かい事を言ってんじゃないよ! アタシがお姉ちゃんなんだ!」
「……ていうか、前世を含めれば俺が一体何歳になると思っているんだか……」
「? 良く分からない事を言っていないで、いいからアンタはアタシの言う事を素直に聞いてろ!」
「へいへい、クーナ姉」
そんな生活を送っていたある日の事だった。盗賊団のアジトが物資略奪が目的の魔王軍に襲撃された、イゴロウはたまたま釣りに出掛けていたお陰で助かった。だが、アジトに残っていた盗賊達の殆どが瀕死の重傷を負い、幾人も魔王軍に殺された。全く無事に済んだのはイゴロウと共にいた面々だけだった。
この時、イゴロウは思い知った。自分の幸運は自分一人だけのもので、他者を救う事はないという事を。幸運と幸福は別物であるという事を。
「親父ぃ!」
アジトとして使っている洞窟の奥、そこに頭領は横になっていた。同じくアジトに残っていた自分の娘を庇い、魔物に攻撃されたのだ。頭領が身を呈したお陰でクーナは気絶しただけで済んだのだが、彼は致命傷を負った。イゴロウが帰宅した時、彼はまだ息があったが、最早余命幾許もない状態だった。




