表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/83

第25転 悪神の手

 土煙に隠れてイゴロウが動く。『盗賊』である彼にとって視覚に頼れない状況も気配を殺すのも容易い所業だ。哪吒の背後を取ったイゴロウが無慈悲に刃を振り下ろす。


「――【混天綾(こんてんりょう)】」


 しかし攻撃の刹那、僅かにイゴロウの殺気が漏れた。その殺気に敏感に反応し、哪吒が腰布の力を起動する。哪吒の周りに大量の水が現れ、彼を中心に渦を巻いた。大気中に含まれている水を集めて一塊としたのだ。渦の勢いたるや削岩機の如きだった。


「ちっ!」


 突然の荒渦にイゴロウのスキルが反射的に肉体を後退させる。そのまま強引に刃を振り下ろしていたら腕がズタズタにされていただろう。退いたイゴロウを荒渦が追撃する。荒渦は津波に変わり、まるで鮫の顎のようだ。


「【盗神の手(ヘルメス)】――!」


 イゴロウが短剣を上に投げて両手を空け、土煙の中から双剣を取り出す。剣を交錯して鋏のようにし、迫る津波を切り裂いた。

 水飛沫となって散る津波。その津波を更に打ち砕いて飛来する影があった。輪刃だ。イゴロウが津波に対処している間に哪吒が手元に戻し、再度投げたのだ。双の輪刃がイゴロウを狙う。


「っ――舐めてんじゃねえ!」


 双剣で双輪を素早く叩き落とす。双輪の速度が弱まったその一瞬を見逃さず、イゴロウが双輪の穴に双剣を通した。そのまま双剣を地面に突き出し、双輪が地面に食い止められる。


「――【風火二輪(ふうかにりん)】」


 哪吒が足の車輪を回転させて高速移動する。着いた先にあったのは朱色の槍だ。先刻、イゴロウに奪われた哪吒の槍である。拾ったその場で哪吒が穂先をイゴロウへと向ける。


「――【火尖鎗(かせんそう)】」


 次の瞬間、地面が打ち砕かれ――否、()()した。

 穂先から巨大な炎が迸り、砲撃と化した。炎の砲撃はその高温で地面を溶かしつつ抉り、大気を突き進む。まさしく火炎放射器だ。

 炎の温度は最高で摂氏三〇〇〇度。当然、人間が受ければ灰も残らない。そんな劫火を前にして、しかしイゴロウは戦慄を覚えつつも動揺は一切していなかった。


「――【悪神の手(イゴーロナク)】!」


 イゴロウは左手を突き出す。炎がイゴロウの左手に触れた刹那、掌に吸い込まれた。摂氏三〇〇〇度もの熱量が瞬く間に無に帰していく。イゴロウの肌どころか衣服に焦げ目すら付いていない。


「…………っ!」

「さすがのてめぇでも驚いたか? 両手のスキルが揃ってこそが俺の真骨頂だ。【盗神の手(ヘルメス)】が切り札(エース)なら、こいつは奥の手(ジョーカー)よ」


 イゴロウの左手をかざす。掌には口の紋様があった。歯を剥き出しにして嗤い、真っ赤な舌を垂らしたデザインだ。


「【悪神の手(イゴーロナク)】――敵の攻撃を何でも喰らうスキルだ。理論上は核兵器すらも無力化できるぜ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ