第24転 魔法道具
哪吒が双剣で、イゴロウが短剣で攻防を展開する。先程の槍と短剣との戦いでは互角だったが、今は哪吒の方がやや優勢だった。双剣は刃渡り四〇センチメートルと短めだ。槍よりもリーチがない代わりに小回りが利く。その結果、哪吒がスピードで勝るようになったのだ。
「ちっ……クソが!」
イゴロウが徐々に押されていく。苛立ちを露にするが、舌打ちしたからとて解決する筈もない。やがて劣勢が明確な隙を生んだ。その隙を逃さず、哪吒が横一文字に黒剣を奔らせる。イゴロウを胴斬りする剣筋だ。
だが、それを易々と許す程、イゴロウも甘くない。
「【盗神の手】!」
黒剣をイゴロウが奪う。当然、武器を失った哪吒の左手は宙を空振りした。間髪入れずに黒剣を振り下ろすイゴロウ。哪吒も白剣を振り上げて応じる。黒き刃と白き刃が正面から激突する。
「――【陰陽剣・反発】」
刹那、哪吒が宝貝の力を使用した。先程の接着とは真逆、斥力を発生させる力だ。反発し合う双剣。まるで爆撃のような反発力に耐えられず、哪吒もイゴロウも剣を手放してしまった。
「――【乾坤圏】」
間髪入れず輪刃を撃ち出す哪吒。今度の刃は二本――両腕両方の射出だ。
「【ダイスボム】――!」
イゴロウが懐からサイコロを二つ取り出し、投擲する。サイコロと輪刃がぶつかるとサイコロが爆発した。その威力たるや凄まじく、地面が抉られて巻き上げられた。もうもうと昇る土煙が二人の姿を一時的に隠す。
◇
「何だ、今の!? あんな小さいのが凄ぇ爆発したぞ!」
観客席から吉備之介が驚きの声を上げる。『桃太郎』として覚醒した彼の目は遠方からでもイゴロウが取り出した物をしっかりと視認していた。
驚きはだからこそだ。掌に収まる程度の物があそこまでの大爆発を起こす事が、吉備之介の常識では衝撃的だったのだ。
「【ダイスボム】よ。向こうの世界にある魔法道具」
そんな吉備之介に竹が説明をする。視線は相変わらずスマホに向けられていたが。
「火薬の代わりに運命力を込めて、出たサイコロの目に応じて爆発の威力が変わるっていう仕組みね」
「運命力? そんな概念ありなのかよ?」
「ありなのよ。それが『ステータスに幸運値がある』のが常識の世界なんだから」
明確に数値に表せるという事は、実在がはっきりしている事だ。実在しているという事は利用が可能という事である。異世界にはそうやって概念に干渉する技術が多々あるのだ。
「幸運値が他人の五〇〇倍のイゴロウなら、サイコロの目も自由自在って訳ね」
科学では到底不可能な成果を実現する。それが魔法世界の特権だった。




