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第23転 異説封神演義2

「ふぅん。じゃあ、その龍を倒した奴はもっと凄いって事?」

「そうじゃな。それができれば確かに凄いわい。もう向かうところ敵なしじゃ。……おおっと、本気にするでないぞ。龍に挑むなんぞとんでもないじゃからのぅ」


 そう言って師は笑った。弟子も師に応じて笑った。果たしてこの時、師は弟子の心情を悟っていたのかいなかったのか。弟子は笑顔の裏で一つの決心をしていた。


 ある日、哪吒は龍王の一角が統べる東の海へと向かった。哪吒は生まれつき水を震動させる宝貝(パオペエ)を身に着けており、この力で龍王を刺激しようと考えたのだ。宝貝(パオペエ)の力は凄まじく、東海龍王の宮を崩壊寸前にまで揺らした。

 驚いた龍王はまず部下の巡海夜叉を、次に自分の息子を遣わした。子とはいえ念願の龍である。彼が眼前に現れた時、哪吒は獰猛に嗤った。その笑顔は地獄の鬼も裸足で逃げ出す程の凶相だったという。


「ああ――こいつは壊し甲斐があるなあ」

「我は龍なるぞ! 人界の子よ、不遜であろう! 平伏(ひれふ)せ!」


 哪吒と龍王の子の戦いは激しく、海は割れんばかりであった。最終的には哪吒に軍配が上がり、龍王の子は惨殺された。


 龍王の怒りはますます増した。しかし、相手は息子を討ち倒す程の実力者。戦えば自分も不覚を取りかねない。そこで龍王は直接打って出る事はせず、玉帝に訴える事にした。

 それを知った哪吒は師に相談した。事態を面白がった師は龍王を玉帝に訴える直前に待ち伏せする策を哪吒に与えた。唆された哪吒は計画通り待ち伏せに成功し、龍王を捻じ伏せた。


「これで僕が最強だ。僕は龍よりも凄いんだ」

「ああ、さすが我が弟子、我が作品じゃ。これで性能は証明された」


 だが、これはやり過ぎであった。今度は東海だけでなく四海全ての龍王が哪吒の暴挙を玉帝に訴えた。その結果、父親である李靖が責任を取って、息子である哪吒を殺す事になった。

 哪吒は父を返り討ちする事はできなかった。哪吒の暴虐は全て父の目を自分に向ける為である。その父を殺してしまうのは本末転倒だった。だからといって、父の手を血で汚すのも不本意だ。


 哪吒は自ら命を絶った。贖罪として自らを抉り裂き、骨を父に、肉を母に返したのだ。


「ねえ、父さん、最後に……」

「黙れ。俺を父と呼ぶんじゃない」

「…………」


 哪吒は死んだが、それでも父は彼を許しはしなかった。

 師は哪吒の死後、彼の廟を建てた。哪吒は霊珠を破壊されない限り完全には死なない。道術を仕組んだ廟で母が三年間、受香すれば哪吒は蘇る筈だった。だが、事の次第を知った李靖が廟を焼き払い、哪吒の蘇生を妨害したのだ。



 ――ようやく化け物が死んで安堵したというのに復活させてたまるか、と。



 事ここに至って父子の決裂は決定的なものになった。哪吒が蓮華を新たな肉体にしようと、御仏(みほとけ)が和解の仲介をしようと、父子の溝が埋まる事はなかった。その上、哪吒は父に対して決意を新たにしていた。


「そうか。父さんがそのつもりなら。――もっともっと壊して、僕から目を逸らせないようにしてやる」


 この身は全身宝貝(パオペエ)の人間兵器。戦争の為に生まれてきた。最も得手としているのは破壊だ。

 それから哪吒は周の軍師である太公望に誘われ、殷と周との戦争に身を投じた。人間兵器として求められるままに破壊と戦闘を繰り広げた。誰よりも苛烈に、何よりも戦果を求めて。それは地の果てまで叫ぶような戦いぶりだったという。


「――僕はここにいる。ここにいるぞ」

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