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第18転 盗神の手

 エルが試合開始を宣言した直後、哪吒の姿が消えた。

 否、消えたのではない。消えたと錯覚する程の高速移動でイゴロウに肉薄したのだ。槍がイゴロウの下顎を目掛けて突き出される。常人ならば気付きもせずに首を刎ね飛ばされるであろう一閃だ。だが、


「ん~?」


 異世界で盗賊をやっていた男が常人である筈がない。一体いつの間に抜いていたのか、イゴロウは短剣で哪吒の槍を受け止めていた。宝石が散りばめられた豪奢な短剣だ。


「おうおう、いきなりかよ。危ねえなあ」


 そのまま短剣を上に流して穂先を弾く。だけでなく、一歩踏み込んだと思ったら哪吒の腹を短剣で斬り付けた。哪吒は躱したものの逃げ遅れた服が裂かれ、一部の繊維が舞う。


「……ふーん」


 舌打ちを零しながら哪吒が空を踏む。踝の車輪が回転して火を吹き出し、哪吒の体を運ぶ。まさしく爆速、直線的で勢いがある動きだ。


「ふん」


 イゴロウが哪吒を追う。哪吒よりも瞬発的ではないが、哪吒よりも軽やかな動きだ。離れた哪吒に今度はイゴロウが肉薄する。

 疾走する短剣。旋回する槍。イゴロウの殺意(やいば)が右から左から上から下から死角から予想だにしない方向から攻める。刃と穂先が瞬きの間に幾十とも激突し、火花を散らす。最高速度は哪吒の方が上だが、小回りはイゴロウが勝る。総じてスピードは互角だった。


「よお、お前。宝貝(パオペエ)人間って呼ばれているらしいな?」


 一際強く得物を弾き合い、互いに距離を取った後、イゴロウが口を開く。


「……それが何?」

「いやあ、()ってのはいい響きだと思ってなあ。――盗み甲斐がありそうだ」


 イゴロウがいやらしい笑みを見せる。右手に握っていた短剣を左手に持ち替え、自由になった右掌を哪吒へとかざした。何を仕掛けてくるのかと哪吒が警戒し、腰を下げて槍を構える。


「【盗神の手(ヘルメス)】――!」


 次の瞬間、哪吒の手の名から槍が消失した。


「えっ……?」

「はは、一発成功とは()()()()!」


 呆気に取られた哪吒にイゴロウが襲い掛かる。その手にはたった今、消失した筈の哪吒の槍が握られていた。武器を失い、無防備になった哪吒の左肩が切り裂かれる。身を翻して貫通こそ免れたが、傷は深く、鮮血が噴出した。





「おい。何だ、今の!?」


 試合を見ていた吉備之介が驚愕の声を上げる。

 今、確かに槍が瞬間移動した。哪吒の手から槍が消えて、イゴロウの手の中に槍が現れた。イゴロウと哪吒との間には手を伸ばしても届かない程の距離があったにも拘らずだ。


「あれは【窃盗(スティール)】。任意発動型(アクティブ)スキルの一種よ」

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