第17転 先鋒戦選手入場
『因果は男を戦いの日々へと駆り立てた! 幸運である事と幸福である事は別であると言わんばかりに! 幸運では運命には逆らえないと嘲笑わんばかりに! そして今、彼はこうしてこの戦場に駆り出された! 魔法世界最強の一角として!』
男が試合場の真ん中で立ち止まる。満を持してエルは彼の名を宣した。
『異世界転生軍七将が一人――「盗賊」イゴロウ!』
一層の歓声が沸き上がる。当然の盛り上がりだ。異世界転生軍にとって彼は自分達の代表者。応援するにも気合が入ろうというものだ。
『我らが英雄に立ち向かう輪廻転生軍の一番槍は、こいつだ!』
続いてエルが「西」の入場口を指す。そこから姿を現したのは黒髪金眼の東洋人だ。年齢は若く、容姿は美少年と言っていい程に整っている。
少年は異世界転生軍の男――イゴロウと違って歩いていなかった。
『男が生まれたのは今より三〇〇〇年以上も前――紀元前十一世紀だった』
少年の両足には車輪があった。火の粉を散らし、踝から付かず離れずの位置で浮いていた。
『ある将軍の子として生まれた彼は、その生まれた経緯からして普通ではなかった。仙人に与えられた霊珠を核として、将軍の妻の胎内で三年六ヶ月も留まった後に産声を上げたのだ』
少年の腰には赤色の布が巻かれ、剣が二本も下げられていた。両の手首には金の腕輪が嵌められている。右手にあるのは朱色の槍だ。
『暴虐極まりない彼は七歳の時に龍王の子を惨殺し、その後に父母に累が及ばぬように自害した』
しかし、彼は普通ならざる身。肉体が死んだ程度では霊魂は消失しない。紆余曲折を経て彼は蓮の花を新たな肉体として与えられ、現世に復活した。いわば転生したのだ。
その後、彼は中華を二分する大戦に身を投じ、自国の勝利に貢献した。
『あれから三〇〇〇年、彼は人間に転生していた。転生し、戦場に舞い降りた! 今度は中華のみならず世界の命運を懸けた戦いに立ち合う為に!』
少年が立ち止まり、改めて対戦相手を見据える。その目は冷ややかだが、瞳の奥には今にも噛み付きかねない剣呑さを宿していた。
『全身宝貝の人間兵器――「道士」哪吒太子!』
歓声が轟く。今度は輪廻転生軍の観客席からだ。観客席には輪廻転生者達の家族や知人が座っている。竹がジェット機で共に連れてきた人々だ。無論、この少年――哪吒の関係者もいた。
そんな熱い声援を一身に浴びながらも少年は涼しい顔だった。
「…………」
「…………」
哪吒とイゴロウが睨み合う。片や薄ら笑い、片や鉄面皮と表情は違うが、殺気を隠すつもりがない所は共通だった。大歓声も二人にとっては遠く聞こえる。凍て付く空気は凍傷になるのではと不安になる程の凄まじさだ。
そんな極寒の只中にいながらエルは臆さず、開戦を宣言する。
『レディィィ・ファイッッッ!』
堂々と響く鬨の声。ここに決闘儀式第一試合、『盗賊』と『宝』との戦いが始まった。




