第16転 ルール説明
黒ドレスの少女が闘技場全体に響き渡るように声を張り上げる。
『皆様、長らくお待たせしました! 只今より異世界転生軍と輪廻転生軍の正面対決――「二ヶ界決戦武祭」を始めます!』
少女は興奮した声で告げると観客席から大歓声が上がった。
『審判はこのオレ! 転生して吸血鬼になったと思ったら女体化もしていた! 昼間は力が出ない役立たず! エルジェーベト・ブラッディタンが務めさせて頂きます! 皆様、どうぞお気軽にエルとお呼び下さい! 名前にマジャル語と英語が混ざっているのは気にすんな、異世界語だ!』
少女――エルがそう言うと観客席からエルコールが沸いた。異世界転生軍側の観客席だ。席には此度の大戦の為に連れてきた兵士や臣民が隙間なく座っている。彼らのあまりのテンションの高さに竹が白けた目をしていた。
『それではルールを説明しましょう。両軍は互いに七人の選手を決め、一人ずつ戦わせます。つまり試合数は最大七回。先に四勝した方の勝利となります』
大歓声に負けずエルは声を張り上げる。
『試合は一対一! 武器は自由! 魔法も自由! 時間は無制限! 一対一を守っている限り、如何なる行為も反則にはなりません!』
剣を使っても良いし、銃を使っても良い。毒を用いても良いし、一人で運べるなら大砲を持ち出してきても良い。急所狙いも全面可。一対一さえ貫けば何でもありだ。
なお、その唯一のルールを守る為に、選手と審判以外の者が試合場に入る事は禁じられている。ただし、これは介入した場合にペナルティがあるという話ではなく、そもそも審判以外の第三者が試合場には入れないように魔法が施されている。観客席からの援護射撃や目潰しなどの妨害行為も防げる仕様だ。
『そして勝敗の判定はただ一つ、どちらかの死のみ! もしも両者が死んだ場合には先に死んだ方を敗者とします!』
死。その単語一つに吉備之介がぶるりと震える。
負ければ死ぬ。勝つには殺さなくてはならない。その両方を想像して、恐怖心が胸の内で荒れ狂ったのだ。
『それでは第一回戦、異世界転生軍の先鋒は――こいつだ!』
エルが指した先には入場口があった。上部には「東」と書かれている。
その奥からゆっくりと一人の男が歩いて出てきた。顎髭を生やした、中東系の雰囲気を醸す青年だ。無論、異世界に中東は存在しないので似たような気候の下で育ったというだけなのだが。
『――その男は不幸だった』
エルが男の紹介を始める。
『道を歩けば上から物が降ってくるのは当たり前。急いでいる日に限って道が工事中なのは日常茶飯事。傘を忘れれば必ずゲリラ豪雨に見舞われる。コンビニに行けば高確率で不良に絡まれる。交通事故は年に十回以上。男は常についていなかった』
男は幾つもの装飾品を身に着けていた。両手の指には全て宝石付きの指輪、手首には金の腕輪、首には三重の首飾り。服装自体は動き易さを重視した簡素な物でありながら、装飾品によって彼の全身はギラついていた。
『あの日もそうだった。あの日、雨が降っていなければ。電池を買い忘れて店に戻ろうとしなければ。トラックの運転手が徹夜明けで疲れていなければ。自分は死ぬ事はなかった』
男の双眸は鋭く、しかし澱んでいた。視界にあるもの全てを妬まずにはいられないと言わんばかりの鬱屈した眼光だ。
『男は死に際に願った。「次の人生ではもっと幸運に生きたい」と』
その願いは叶えられた。異世界という舞台で新しい人生と共に。しかし、




