第15転 開会
空高く浮かぶ魔王城。そこまでの移動手段として使われたのはジェット機は彼女からの提供である。正確には獣月宮機関の機関長たる彼女の父親の所有物だが。観客席にいる人々も彼女が連れてきたものだ。つまりこの場にいる半分が彼女の世話になっているのだ。
「その他にも色々と私の家がお金を出しているし、現場担当者として私がここにいるし」
「分ぁーったよ、もうお前が戦わない事に文句言わねえよ」
「よろしい。とにかく、あんた達にとって重要なのは、私が『輪廻転生軍』のスポンサーだって事だけよ。それ以外の事は要求しないで頂戴」
「『輪廻転生軍』ねえ……」
今回、神々の尖兵として駆り出されたかつての英雄――輪廻転生者達。数は十人を超えず、とても軍とは成っていないのだが、一人一人が文字通りの一騎当千の実力者ばかりだ。それこそ軍を称して差し支えない程である。故に組織名を『輪廻転生軍』としたのだ。
一方の異世界側は『異世界転生軍』を名乗っている。『異世界軍』ではないのは、軍幹部全員が異世界転生者だからだ。実際、地球人類を追い詰めたのは殆ど異世界転生者の功績である。
「モチベーションがいまいち上がんねえのも問題なんだよな。異世界転生軍の方は何か目的があるみたいだけど、輪廻転生軍としちゃあ異世界転生軍の要求を通したくないっていう神々の都合と人類絶滅の報復だぜ」
「あと、これ以上の被害を止める為ってのもあるわよ」
「ああ、まあ、確かにな。いずれにしても一介の高校生が背負う問題じゃねえよ。自分の国が滅茶苦茶にされたのにはムカッ腹が立ったけどな。人類滅亡なんて言われるとスケールがでか過ぎてピンとこねえわ」
「ふーん……あんた、岡山県住みだったわね」
「ああ、生まれも育ちも岡山だ」
「それじゃあ報復心なんてあんまりなくても仕方ないかしらね」
異世界転生軍が主な攻撃目標としたのは各国の首都である。日本であれば東京都だ。東京壊滅は吉備之介にとっても衝撃的な出来事だったが、中国地方在中の為、知り合いに被害者はいなかった。
「そういう獣月宮は住所どこよ?」
「奈良県」
「奈良か。じゃあ、そっちも特に被害はなかった訳だ」
「そうね。でも主要な会社の幾つかは東京にあったから今後が心配だわ。……あ、そろそろ第一試合が始まるわよ」
竹に促されて吉備之介も試合場に目を向ける。地面の土を均しただけの無骨な円形の舞台だ。
その中央に一人立つ影があった。黒いドレスを身に纏った少女だ。ドレスにはレースやフリルがふんだんに使われ、愛らしさを強調している。髪は黒服に映える銀鼠色で、瞳は血のように赤い。肌は白く、まるで陶磁器のようだった。
彼女は音叉型のマイクを手に持つと、第一声をこう発した。
『レディイイース・アァァァァーンドォ・ジェントルメェェェェーンッ!』




