第1転 人類滅亡のカウントダウン
西暦二〇XX年、人類は異世界に滅ぼされた。
――否、厳密にはまだ滅んではいない。しかし、今や根絶やし寸前にまで人類は追い込まれていた。
日本上空に突如として現れた黒き城。重力に逆らって浮遊するそれは一切の宣告なく、一筋の光を天に放った。光は宇宙にて炸裂し、隕石を呼び寄せた。隕石は数多の国々に降り注ぎ、その機能を壊滅した。他国からの攻撃には備えていた国々だったが、直上より落ちてくる天災には対応できなかったのだ。
無論、首都が破壊されたからといって反撃しない人類ではない。ミサイル、砲撃、戦闘機……その他様々な兵器をもって黒き城を苛烈に攻め立てた。
だが、いずれの兵器も通用しなかった。
ある時は局地的な自然災害に襲われた。
ある時は超火力を誇る中世級の兵器に撃ち落とされた。
ある時は白と黒の不可解なエネルギーに押し潰された。
ある時はたった一人の圧倒的な暴力に壊滅させられた。
各国のありとあらゆる攻撃はまるで予め知っていたかのように対策され、届かなかった。
やがて人類の七割が死滅し、最早打つ手なしと諦めかけたその時だった。苛烈な攻撃を仕掛けながらもひたすら沈黙を貫いてきた黒き城が声を発した。しかし、その言葉は人類に向けてのものではなかった。
『神々に告げる。魂の管理と転生を司る神々に告げる。世界と世界を繋ぐ神々に告げる』
『切断せよ』
『我らは魔法世界「カールフターランド」の民。貴様らの言う異世界の民なり。剣と魔法を礎に文明を発展させた者共なり』
『繰り返し要求する。切断せよ。地球と我らの世界との接続を切断せよ』
『地球の澱みを我らに押し付けるな。澱みの始末を我らの手に委ねるな』
『切断せよ。切断せよ。切断せよ』
『さもなくば残りの人類を滅ぼし尽くして、澱みを根元から絶つ』
『今この時の人類滅亡を回避したくば切断せよ。応答は如何に?』
それは地球人類にとっては突拍子もない話、介入したくとも理解すら叶わない話であった。異世界カールフターランド。魂の管理と転生。地球人類の澱み。いずれも寝耳に水の内容であり、仮説も検証も不可能な領分だった。
そもそも黒き城の者共が話し掛けた相手――神々。その存在すら認知できていなかった。科学主義に染められた現人類にとって神仏はとうに在り得ないものと結論されていた。
されど、驚くべき事に返答はあった。大地ではなく天上から、人類からではなく遥か高みから。世界中に届く穏やかなる声で答えがあった。神々は実在していたのだ。
「拒絶する」
「我ら神々、汝らの行動を認めず。汝らの思想を認めず。汝らの意義を認めず。汝らの一切の要求を拒絶する」
「神々に反逆した罪は重い。人類を殺戮した罪は重い。我ら神々、ただただ汝らに神罰を下すのみ」
「されど我ら神々、下界に干渉する術を持たず。その資格は二〇〇〇年も前に失われている」
「故に、我らは我らの代理人として英雄を派遣する」
「かつて人界にて活躍した英雄達、その転生体。下界を巡視する者共。人界を流離する者共。彼らを今一度働かせる。彼らに汝らを討伐させる。一切の容赦もなく、一片の情けもなく」
「潰えるが良い」
神々の返答を聞いた異世界人達が更にこう返した。
『ならば、我らは貴様らに決闘を申し込む』
『傲慢なる神々よ。愚昧なる神々よ。貴様らがそう来る事は分かっていた。想定していた』
『故に我らは罠を仕掛けた』
『――決闘儀式』
『戦闘を挑み、それを受諾した相手を呪縛する魔法だ。呪った者と呪われた者は互いに何かを賭ける。強制的に賭けさせられる。これで貴様らは我らと同じ土俵に落ちた。貴様らは罠に嵌ったのだ』
『掛かってこい。選りすぐりの英雄達を呼んでくるが良い』
『思い知らせてやる』
かくして、ここに決闘は成立。二つの世界を懸けた戦いが開幕した。
挑むは異世界転生者七人。
対するは輪廻転生者七人。
最強同士の戦いが今、始まる――――