君の名を呼ぶ
それは、美しい森の中……
「いいかい、皆
私達はけして人間に名前を教えてはいけないよ」
「名前を呼ばれたら終わりだ」
「存在を奪われて、二度と妖精に戻れなくなってしまうよ」
「それに……」
──妖精、魔女、天使、悪魔、人魚──
世界にはいくつもの種族が存在していて、
その中でも
「リズ!」
一番野蛮で、身勝手で、危険な存在
「良かった……」
「此処にいたんだね
見つけられなかったらどうしようかと」
人間……
「……」
「久しぶりだね」
久しぶりのおまえの顔は優しく微笑んでいた
おまえの声が背中に優しく触れる
「……」
「……明日出兵するんだ」
「最後に君の顔が見れて嬉しかった」
いつもと変わらない声
「……リズ」
「なにか言ってくれないな
君の声が聴きたい……」
「……伴侶を見つけてくれば徴兵を免れるという話はまだ有効なのか……」
彼女の声はなにか決心したように凛としていた
「え
ああ……
そういえば、そうだね
まあ見つけられなかったらけど……」
「父や母はそれでも行くなと言ってくれたけど、王族の僕がそんなことできない」
「民は無差別に戦場に駆り出されているのに……」
「それに……
僕がただ一人伴侶にしたいと思ったのは……」
彼はそういいながら、私も元へ近づいてくる
彼に踏まれた草の音が妙にはっきり聞こえた
「……」
「君は……」
「……君と僕とは
人間と妖精とは一緒にはいられないんだろう?」
彼の手が私を触ろうとする
「……こうやって」
「触ることすらできない……」
彼の手は空を切った
彼の目が悲しそうに笑った
「……ごめん
こんな話がしたかったんじゃないのに」
「そうだ、リズ
歌ってくれないか
君の歌声を思い出せたら戦場でも強くいられる気がするんだ……」
「……」
────嘘つき
おまえ
泣いてたじゃないか
きみと生きたいって
きみと会って死ぬのが怖くなったって
いつもへらへら笑ってばかりだったのに
野蛮で身勝手で危険な人間のはずなのに──
「──ごめん
困らせちゃったかな」
悲しそうに笑うきみの笑顔
消えてしまいそうな
触れることもできないのはきみの方だ……
「もう行くよ
元気で
きみに会えてほんとうによかった…」
きみが去っていくのを見ながら思い出した
昔教えてもらったあの言葉
『──いいかい』
『教えてはいけない』
嗚呼
知っている
だけど私は気がついたら叫んでいた
「……アルト!!」
「……私」
「私の名前」
「本当は」
「本当はリヴィアスというんだ」
『呼ばれたら二度と』
『妖精には────』
振り返った顔は驚きで満たされていた
「……リヴィアス!美しい名だ」
ああこれでいい
彼女が微笑み駆け寄ってきた
触れるはずのない手が彼の背に触れる
「──私も」
「アルトと生きたい」
「連れていって」
仲間も故郷も失って
羽を失くして空を飛べなくなっても
自分で選んだ道だよ
後悔なんてしていない
側にいて
共に生きたい
×××だとしても
「……アス」
「リヴィアス!!」
「よかった…大丈夫かい?」
心配そうに私を見つめるおまえと娘
ああ、こんなにも月日が経っていたのか
「いきなり倒れたんだよ、君……」
「……アルト
セネカって今何歳だっけ」
「え?四歳だけど」
「いきなりどうしたんだい?」
彼の彼の困惑した声を聞き流しながら時間が来たのだと思った
「アルト」
「話がある
……二人きりで」
「……どうしたんだい?」
不穏な空気が二人を包み込む
「私は、もうすぐ死ぬんだ」
おまえの横顔が、体が、空気が、止まった
「……え」
「な、なに……」
「なに言ってるんだい
そんな、少し倒れたぐらいで」
「………」
「大丈夫だよ」
それでも伝えなければならない……
「人間になった妖精は四、五年しか生きられない」
「ごめんな
最初から分かってた」
「寿命なんだ」
「分かっていて人間になった」
おまえを気づつけるとと分かっていた
それでもおまえと生きたかったんだ
「……そんな
どうして
嘘だ」
「どうして!」
悲痛な叫び声、絶望感が顕になった顔
私がさせているんだな
おまえにはそんな顔似合わない
それでも伝えたい思いがある
伝えなければならない
「おまえと生きたかったから」
「……おまえに生きていて欲しかったし、私もおまえと生きたいと思ったから」
たとえそれが数年の命だとしても
そんな顔しないでくれ
今にも泣きそうだ
頬に暖かいものが伝う
私も泣いているのか
「ごめんなぁ
ほんとごめん
身勝手で」
「でもあの時」
「でもあの時、おまえだけが死に行くのだけはどうしても嫌だったんだ」
「そんな」
「うそだ」
「嫌だ……」
「リヴィアス」
「いやだ……」
私の膝に顔を埋めて泣いたおまえを私はどうすることもできなかった
「……アルト」
「この先どんな事が起こっても絶対に死ぬな
生きていてくれ
……見えたんだ
さっき気を失っていた時」
「大きくなったセネカとおまえときっとまた会える
必ず」
彼に触れる手は優しく
彼の目から涙が溢れてくる
「今度は人間になって絶対に会いに行くから
そのときはまた────…」
そう言った彼女は眠るように逝ってしまった
「父さん!」
「庭はいいからお客さん!!もう来てるぞ
国出るとき世話になっただろ?
隣の国のグラーフとその奥さんと子供!!」
「そんだったね
すぐ行くよ」
あれから何年経っただろう
国は敗れ
戦争は終わり
私と君の子供は君そっくりに大きくなり
──ここまで生きてきた
だから
リヴィアス
もう一度──…
「あ!
アルト!!」
その声を聞いた時私は……
「……ちゃんと生きてたね!
えらい
えらい
わたしね、アリスティアラっていうの
アリスって呼んでね!!」
ああ
ああ
きみの笑顔にどんなに似ているだろうか
優しく凛とした笑顔だ
「……よく
来たね」
──絶対に会いに行くから
「……アリスティアラというのかい?」
そのときはまた
「相変わらず美しい名だ……」
──私の名を呼んでね──




