第七話 魔法少女ショッピングします
私はつぐみ。星河つぐみ。
もし両足にユニットを付けたとしても、飛ぶことは出来ない魔法少女よ。
あのユニットで空を飛ぶって、物理的にあり得なくない?
いや、魔法自体が物理的にあり得ないというツッコミは尤もだけども。
それでも、見てると背中がムズムズするのよね、違和感で。
それって、私が理系女子だから?
――ん?なに?
そんなことより、あの子達は魔女じゃないのかって?
もう、細かいわね。
魔法少女も魔女も、一緒でいいじゃない、ほとんど変わらないわよ。
そうじゃないとネタが尽きるのよ、何がとは言わないけど。
それに。
魔法が使える少女が魔法少女だって、ウィキにも載ってるんだもの。
魔力を使って空を飛ぶ女の子なら、魔法少女でしょ。
まあ、そもそも――。
私には魔力ってものが、よく分からないんだけど。
そんなの、感じたことないもの。
――さて、ようやく大型ショッピングモールに到着。
待ち合わせは16時だったわね。
……うーん、ちょっと早すぎたかな。
待ってる間に、マイナスイオンで疲れを癒してくれればいいんだけど…。
残念ながら、このショッピングモールにそんな機能はないのよね。
名前負けじゃない?
まあ、ともかく。
ただボーっとしてるのもなんだし、コーヒーでも飲んでましょう。
えーと確か、向こうの入り口側だったはずよ。
“コールドブリュー飲んでるわね”――はい、送信っと。
ふぅ、最近暑くなってきてるから、冷たいのが体に沁みるわ。
普通のアイスコーヒーよりスッキリした後味が、更にいいわよね。
水出しコーヒー。
ああ、もちろんブラックよ。
飲めるようになったのは二年くらい前からね、忘れもしないわ。
その時のことは思い出したくないから、これ以上はやめとくけど。
――ああ、そういえば。
今日の物理の授業で、ようやく長年の謎が解けたのよ。
…いや、勿体ぶって悪いとは思うけど、ホントに思い出したくないのよ。
だから、ブラックコーヒーの話は忘れてちょうだい。
――で、よ。
謎が解けたって話だけど。
あれは確か三年ほど前、中二の夏…の少し前の事だったかな。
私に向かって野球のボールが飛んできたことがあったのよ。
その時咄嗟に。
いや、咄嗟というほど咄嗟ではなかったけど。
まあとにかく、飛んできたボールに魔法を使ったのね。
たった一秒だけ、物を止める魔法を。
そしたら、反射的に屈んでいた私の前に、止めたボールが落ちてきたの。
えーとつまり、魔法で止まってたボールが、魔法が解けた瞬間に真下に落ちたって事。
あの時の自分のテンパり具合は、今でも鮮明だけど、それはともかく。
その謎が、三年越しに解けたってわけ。
学校の勉強って大事ね、いつどこで役に立つのか分からないわ。
…うーん、でも、今思うとヒントは色々あったとは思うわ。
例えば…ニカとの自転車事件、とか?
でも中学二年生でこれを分かれって言うのは、なかなか難しいと思うし、仕方ないわよね。
結局、理屈は分からないまま、経験と感覚で今まで魔法使ってたのよ。
危なっかしいたら、ありゃしないわね。
―――え?
そんなことはいいから、早く結論を話せ?
私は三年かかったのよ、少しくらい勿体ぶらせなさいよ。
…はぁ、まわいいわ。
答えは単純よ。
止めたボールにはもう力が加わってないから、よ。
理系の人なら、これだけで分かるんじゃないかしら。
一応、分からない人のために、もう少し話すと―――。
えーとたしか、3年前はドローンの話も一緒にしたっけ?
ドローンは止めた後でも、止める前と同じように横移動をしたはずって話。
うん、したわよね。
そのドローンは、プロペラを回して自ら飛んでるのよ。
だから私が動きを止めた後でも、内臓の電力で自らプロペラを回して飛行再開できるわ。
でも、飛んできたボールは別。
飛ばされたボールは、動きを止められると落ちるしかない。
横にかかる力は既に無くなってるんだから、あとは重力に従うしかないって事ね。
…これでも分かりにくいって人は、そうね。
飛んできたボールを一瞬キャッチして、その場ですぐ離してみて。
そして同じことを、飛んでるドローンにもしてみて。
想像するだけでもいいけど。
そうすると、ほら。
三年前の謎現象と重なったでしょ?
そういう事よ―――。
「お待たせしましたっす!」
ん?
ああ、ナユ、来たのね。
15時59分…、時間通りじゃない。
「ギリギリっすよ。もう汗だくっす。」
別に少しくらい遅れてもいいのに。
「いえ、つぐみん先輩を待たせるのは悪いっすから!」
相変わらず、体育会系なんだから。
まあ、とりあえず座りなさいな。
ナユ、身長高いから、立ってられると圧がすごいのよ。
「分かったっす!」
ホント元気過ぎるくらい元気な子、もう慣れたけど。
って、あら?
ダークモカフラペチーノじゃない、どうしたの?
「つぐみん先輩みたいに、いつかカッコよくブラックを飲みたいんすよ。その練習っす、第一歩っす。」
ブラックなんか飲んでも、別にカッコよくなんてないわよ。
それに私の場合、褒められた理由で飲むようになったんじゃないし。
「いいんすよ。傍から見るとカッコいいんす。1年の間じゃ、つぐみん先輩結構話題っすよ?深窓の令嬢みたいでカッコいいって。って、苦っ、騙された!」
それ使ってるのビターチョコだし、ちょっと苦いわよ。
でも第一歩にはちょうどいいんじゃないの?
「一歩目が大きすぎるっす!もっと甘々のコーヒーがいいっす!クリーム乗ってるから、もっと甘いのかと思ったのに!!」
それはもうコーヒーじゃないんじゃないかしら。
…まあ、そんなことはさておき。
私が話題だって?
しかも深窓の令嬢?
あまりいい響きじゃないわね、むしろ嫌われてるんじゃないかしら。
「へ?深窓の令嬢って褒め言葉じゃないんすか?」
えーと…、うんまあ、好意的に受け取っておきましょう。
それくらいは出来るようになったのよ。
成長したわね、私――。
『中学の時、深窓の令嬢を気取ってたつぐみんが、何言ってるなのよ。』
うるさい、頭の中のニカ、少し黙ってて。
「あ。ちょっと待っててほしいっす。」
ん?ナユ?
席立ってどこ行くの?お手洗い?
いや、フラペチーノ持ってったから違うか。
――あ。
ああ、なるほど――って、いやいや!
程があるでしょう!
シナモンの瓶、空にする気?
「――ふぅ。満足っス。」
美味しそうに飲んでたものね、よかったわ。
「シナモン好きなんすよ。おかげで足取りも軽いっす。」
確かに元気そうだけど、他の買い物客の邪魔しないようにね。
…って、私は母親か。
まあ、手のかかる子だとは思うけども、それはさておき。
ナユ、シナモンを中毒になりそうなくらい振りかけてたわね。
あれ確か毒あった気がするのよね?うろ覚えだけど。
…いやいや、まあ大丈夫でしょ、きっと。
で?今私たちはどこに向かってるのかしら。
何買うつもりなの、ナユ?
って、あ。
ちょうどナユの足が止まったわ、ってここはまさか――。
え?付き合って欲しいって、水着買うのをだったの!?
「そうっすよ。つぐみん先輩、いつもおしゃれさんだから一緒に選んで欲しかったっす。」
私は元々おしゃれな人じゃないんだけど――言われて悪い気はしないわ、ニカに感謝ね。
いやいやそれよりも、わたし水着なんて買ったことないわよ?
「ええ?予定外っす。…まあ、つぐみん先輩に選んでもらえるなら、何でもいいっすよ。それだけで、友達皆に自慢できるっす。」
…一年生の間で、私はどういう扱いなのかしら。
悪目立ちしたくないのに、不安しかない。
でもまあ、わかったわよ、見てあげるわ。
「よろしくっす。あ、つぐみん先輩もどうですか水着?」
そんなついでみたいに誘われても…。
恥ずかしいから、嫌よ。
人前で半裸とかありえないわ。
「いや…まあ、たしかに半裸っすけど…。見せない水着もたくさんあるっす、つぐみん先輩。」
そんなグリーンピースを嚙み潰した時みたいな顔しても、着ないもんは着ない。
「どんな顔っすかソレ…。と、とにかく、てきとーに探してくるっす。」
はいはい、いってらっしゃい。
でも皆はなんで水着なんて着れるのかしら。
下着と何が違うの?
特にビキニ。
下着より見えてるじゃないの、いろいろと。
うわ、これなんてほぼ全裸よ?何考えてんのかしら。
「ありがとうございまっす。」
はいはい、気に入ってくれた?
「もう最高っす。」
なら良かったわ。
結局、フリフリたくさんのガーリッシュな水着を選んであげたわ。
最近かけたらしい、ゆるふわウェーブパーマとも相性ばっちしよ。
この子、言動や思考は体育会系よりだけど、外見と趣味は結構女の子って感じなのよね。
私よりもずっと。
…いや、私は深窓の令嬢らしいけど、納得いかないことに――まあ、それはともかく。
ユニークな子だわ。
どんな生活を送ればこうなるのかしら。
――って、あ。
ディフューザーが店頭に並んでる。
ちょうど切れかかってるし、買っていきましょう。
「お供するっす。」
はいはい、でもきびだんごは持ってないからね。
――うん、これにしましょう。
いい香り。
スティックタイプは見た目も好きなのよ。
あんな部屋でも、少しオシャレに見えるし。
…気持ち、お高い気がしないでもないけど。
「つぐみん先輩らしい、大人な香りっす。」
そんなつもりで選んだわけじゃないんだけど。
大人だなんて自分じゃ思ってないしね。
でもまあ、言われて悪い気はしないしいいか。
じゃ、ちょっとお会計してくるわね。
「はいはいっす。」
って、あら?
ディスカウントキャンペーン?
へぇ、ラッキーね。
えーと、お会計時に4枚のカードの中から一枚お引きください?
中身は…、ハズレ、3%割引、5%割引、10%割引か。
運がいいと消費税分が返ってくるのね。
まあハズレ引いても損しないし、気軽に引いてみましょう。
まずはお会計ね。
「――では、一枚お引きください。」
さて。
店員さんがカードを四枚広げてくれたけど、どれにしようかしら。
気軽に引くとは言ったけど、いざとなると悩んじゃうわね。
うーん…。
じゃあ、コレ――っ!
「待つっす!!」
わっ!
ビックリした。いきなり肩掴まないでよ。
「違うのにした方がいいっす。」
ん?
……あ。
ああ、あああ、はいはい、なるほど。
わかったわ、ありがとう、ナユ。
「っす。」
じゃあ、こっちで。
「はい、3%割引ですね、おめでとうございます。」
小当たり。
ま、ハズレじゃないだけ、良かったわ。
これもナユのおかげね。
さて、帰りましょうか。
――ナユ、さっきはありがとう。
って、あら、空が曇ってるわね。
来るときは晴れてたのに、明日は雨っぽいかな?
「いやー、申し訳ないっす。」
何言ってんのよ、当たっただけマシよ、ありがとう。
「いやいや、ほんとほんと、そんなんじゃないっす。」
でも、見てくれたんでしょう?未来。
「見たっすね。」
じゃあいいじゃない、お礼言っても。
「いやぁ、だって選び直す前は5%割引きだったんすよ?」
…。
はあ?
「おかしいっす。つぐみん先輩なら10%引けると思ったのに。」
いや、ちょっと。
「つぐみん先輩には10%割引が相応しいっす。」
えー…。
10%割引が相応しい女って、何それ。
そんな二つ名いらないわよ。
「一年の間では有名っすよ?星河先輩は、10%割引の女って。」
それって、ただの悪口じゃない!?
――とまあ。
今日はこんな感じだったわ。
あの子、ナユに悪気はないのは分かるから、別に怒りはしないけど。
ニカに比べれば可愛いもんだしね。
それに実際、慕ってくれる後輩ってのは嬉しいものよ。
私は部活に入ってないから、なおさら、ね。
あの子と出会ってから、もう二ヶ月ほどだけど、ほんとよく慕ってくれてるわ。
ニカといい、ナユといい、私の魔法少女仲間は元気な子ばかり。
ありがたいことね。
昔と違って、全く友達がいないって訳じゃないけど。
それでも、やっぱり二人は特別。
それはやっぱり、魔法という秘密を共有してるから、なのかしら?
うーん…分からないけど…。
――でも、魔法がなかったら仲良くなってなかったのは、確実だと思う。
神様…は、実は信じてないんだけど、でも、この出会いには感謝してるわ。
それでも一応、願うふりくらいはしてみようかしら。
ナユとは、これからもずっと付き合っていけますように。
…なんてね。
―続―
はい、お疲れ様でした。
また時間が飛びました。そしてまた新キャラですね。
色々と風呂敷を広げながら書いてますが、回収し損ねたらごめんなさい。
このシリーズ、自分ではそれなりに書けてるつもりなんですが
客観的に読む皆様はどう思われてるのでしょうか。
気になるところです。
それはさておき、今回も最後までありがとうございました。
次回は…また一秒で出来るネタが思いついた頃に上げます。
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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。