第六話 魔法少女目覚めます!
私はつぐみ。星河つぐみ。
どこにでもいる普通の女子中学生ね。
宇宙人でも未来人でも異世界人でも超能力者でもないわ。
そういった妄想はするけど、その域を超えたことは今までに一度もない。
残念ながらね。
校庭に謎の大きな落書きもしない、ただの普通の女子中学生よ、本好きの。
今読んでるのはラノベだけどね。
あ、ラノベ以外も読むのか聞くのは、マナー違反よ。
聞いたらイエローカードね。
今日はたまたまラノベなのよ、お母さんが自分の部屋から持ってきてくれたやつ。
なんか、私が生まれた頃に一世を風靡したって、そんなこと言ってたわね。
――うん、でも分かる、確かに面白いわ、コレ。
私にもこんな不思議な事、起こってくれないかしら。
まあ別に、本気でそう思ってるわけじゃないけど…。
私のささやかな人生にふさわしいくらいの、ささやかな不思議くらいは期待してもいいじゃない。
――さて。
五限目は体育だっけ、めんどくさ。
しかも着替えないといけないから、お昼休みも少ないし。
はぁ、本、今いいとこなのに。
あと5分あれば、区切りのいいとこまで読めるのに。
ん~…しかたない、諦めて移動しましょう。
五限目を乗り切れば、連休だし。
ユートピアまであと少しだし。
頑張れ、私。
この授業が終わったら、本を読みまくるのよ――。
――。
――デストピアだわ。
断らないで、素直に保健室に行けばよかった。
悪目立ちしたくないって、ただそれだけだったのに、選択肢を誤ったわ。
あぁもう、皆こっちをちらちらと見ないでよ。
グラウンドの隅っこで三角になってる、こんな私を。
はぁ…って、ん?
ああ、別にアノ日ってわけじゃないのよ。
それは先日終わったばかりだし、…初めてのが。
正直来るのが遅くて、かなり心配してたから、驚きより安堵の方が大きかったわ。
…まあ、体調は最悪だったけど。
なんであんなの体調のときに、お赤飯食べないといけないのかしら。
おかゆが良かったわ。
でも、なんで遅くなったんだろう。
調べてみたけど、女性ホルモンが関係してるとかなんとか…。
うーん、確かに男子を好きになった事はないし。
運動もあまりしないし。
あとは――、他の子みたいに無駄な脂肪を、お腹と首の間に貯め込んでもないわね。
柚木さんのアレは何?
男子じゃなくてもそりゃ見ちゃうわよ。
「た」と「ゆ」と「ん」が、柚木さんの周りに浮いて見えるもの。
中学生になったら男女別の体育になったのも、うん、納得だわ。
――ああ、話が逸れたわね。
いや、さっきした話が遅くなった原因なのかは定かではないけど。
それはまあ、おいといて、話を戻して。
今こうして、抱えてこんだ膝の臭いを嗅いでるのは別の理由。
ただ意味もなく、自分の臭いに陶酔してるわけじゃないのよ。
あのね、ハンドボールの球をね、顔面でブロックしちゃったってだけ。
……はぁ。
まだちょっと鼻がヒリヒリするわ。
ただ、走らなくてよさそうって、軽く引き受けたゴールキーパー。
そしたら予想以上に暇だったのよ、なかなかボール来ないし。
だから、さっき読んでたラノベの事を考えることにしたの。
ちょうどグラウンドで不思議が起こるお話だったから、つい――ね。
そしたら、ドンっ!って…。
…。
…はぁ。
えーとなんだっけ、私はここにいる、だっけ?
さっき呼んでたお話のヒロインがグラウンドに白線で書いた文字って。
…私が今グラウンドにいたくないわよ…はぁ。
そりゃ、ため息ばっかりにもなるわよね。
だって顔面にボールが当たるだけならまだしも、星河さん大丈夫?ってみんなから言われるのよ。
大して心配してないだろうに。
そう聞かないと――つまりは心配した振りをしないと、人非人よね、みたいな、あの雰囲気の中心が私なのよ。
サイアクだったわ。
まあ私ももう大人だから、…アレもきたし。
おほん、ごめんなさい。
とにかく大人?だから、ちゃんと笑顔で対応しました。
ええ、しましたとも。
じゃないと仁科さんにも悪いし。
すぐさま先生呼んでくれた、七瀬委員長にも悪いし。
というか仁科さんも、別にわざと当てたんじゃないもんね。
彼女だけは本気で心配してもの。
まあ、当事者だから当然かもしれないけど。
…。
はぁ。
私がこんなだから、心から心配してくれる人がいないのかな。
それとも、あの「大丈夫?」の散弾を、額面通りに受け取れたなら、私も人気者になってるのかな。
友達だって、いたかもしれない。
…人非人は、おそらく私だ。
あああああああ――ダメだ、考えるの止めよう。
みんなもまだ、ちらちらこっち見てくるし、もう顔伏せとこう。
私がみんなを見なければいいのよ。
そうよ、ええ、そうしましょう。
今日の体育は、地面との会話を勉強する、道徳の時間に変更になりましたよ。
ね、地球さん?
地球さん、いつも自転、お疲れ様。
これからも、末永くよろしくお願いします、って――え?
これからも回り続けてやるから、今後は地球様と呼んで崇め奉れ?
はは~、仰せのとおりに地球さ、――ま。
…あ。
蟻地獄がいる。
いや、もちろんそのお姿は見えないんだけど。
円錐状のへこみしか見えないんだけど、そんな細かいことはいいのよ。
ともかく、久々に見たわ、蟻地獄。
こんな特殊な状況じゃなきゃ、地面なんてじっくり見ないし、さもありなんか。
それで…。
たしかこの虫って、ずっと同じ場所に罠を構えてるのよね?
アリ、来なかったらどうするのかしら。
自分の生殺与奪を、運にすべて預けてるわけ?
ギャンブラーもビックリすぎない?
――って、ちょうど来たわね、アリ。
タイミングがいいのか、わるいのか…。
でも。
捕食するところって見たことないのよね。
どうなるのかしら、いい機会だし見てみたいわね、ちょっとたのしみ。
…。
…おお、すごい。
砂をぺっぺってしてる。
なるほど、そうやって円錐状の壁面の砂を崩して、獲物を下に引きずりおろすんだ。
へー、へーーー!こうなるんだ。
どんどんどんどん周りが崩れてくけど――でも、アリも頑張ってるわね。
大きいアリだからか、なかなかしぶといって感じ?
あ、ほら。
もう逃げられちゃいそうよ、頑張って、蟻地獄!
あーーーもう!
アリ、一秒でいいから止まってよ!
――っ!?
………え?
とまっ…た?
明らかに今、アリの動き不自然だったわよね?
気の…せい、かな。
普通に考えると、気のせいとしか思えないんだけど。
なんか不思議と、こう自分で止めた感?が、あるのよね。
なんなの、この謎のやった感は…。
って、うわ!結構グロい!
暴れるアリが、だんだんと大人しくなってる。
自然と眉間にしわが寄っちゃうほどの痛々しさ…。
すんごく悪いことした気分だわ。
いや、私のせいかどうかも分からないのだけど。
――でもおそらく。
おそらく、これ、私のせいだ。
アリが地獄に落ちちゃったのは、私が動きを止めたからだ…。
あり得るはずなんてないのに、謎の確信が意味不明にも、私の中にある。
だから何なのよ、この変な感覚。
そんなの、絶対あり得るはずないじゃん!
――えーと、蟻地獄、蟻地獄。
結局、半信半疑のまま家に帰って来たわ。
そして、今は蟻地獄について検索中ね、家族共用PCで。
場所は自分のベッドの上だけどね。
でも、あのアリ、ホントに私が止めたのかな?
一応あの後、グラウンドで飛び交うハンドボールの球に、止まってって念じてみたのよ。
…全然、止まらなかったけど。
うーん、やっぱり気のせいだったのかしら――あ。
あった、蟻地獄、このページなら分かりやすそう。
えーと、なになに…。
へー、蟻地獄って移動するのね。
そりゃそっか。
餌来ないと餓死しちゃうもんね。
ごめんね、ギャンブラー以下とか思っちゃって、って――え゛。
うそ、長くて三か月も食事なしで生きるの?
…。
何とも言えない罪悪感が…すごいわ。
判官贔屓も甚だしいとは思うけど、罪悪感がものすごい。
蟻地獄に肩入れしてたのに、その生体を少し調べただけでアリに肩入れし直すとか。
そんな自分に嫌悪感。
生存競争なんだから、アリにも、蟻地獄にも肩入れするのは間違いなのかもしれないけど――。
でも、罪悪感で押しつぶされそう…。
理屈じゃないのよ、でしょ?
あーとにかく。
アリが死ぬトリガーになったのが私。
自分でもおかしいとは思うけど、そんな確信があるの。
何言ってるのか、ホントに分からないけど。
でも、そう思えるのだから仕方ない。
頭の中ぐちゃぐちゃよ…。
…はぁ。
今日何回目だっけ?溜息ついたの。
やっちゃったことは仕方ない。
…と、そう思うしかないのかな、はぁ。
――うん。
もうラノベの続き読んじゃおう、そして忘れちゃおう、今日の事。
考えてても、凹むだけだもん。
それに、謎力の方も、何回試しても、なんにも止まらないし。
やれやれ――ね。
読書の世界に逃げ込むのが、そうするのがいいわ。
でも、謎の力は…。
また明日、試してみようかな。
試すだけなら、タダだもんね。
―続―
はい、お疲れ様でした。
お察しの通り、今回は魔法少女になった日のお話になります。
別に何かと契約したわけではありません。
何かになるのに、切欠がある方が稀ではないでしょうか。
それはつぐみちゃんもおんなじです。
というわけで、今回も最後までありがとうございました。
次回は…また一秒で出来るネタが思いついた頃に上げます。
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