第五話 魔法少女散歩します
私はつぐみ。星河つぐみ。
カードを集める使命なんか持ってない魔法少女よ。
むしろ私にも何か目標が欲しいわ。
ホント何のために存在するのかしらね、私の魔法。
悪い怪人を倒す――。
世界を救う――。
そんな壮大な目標があれば私だって、もっと頑張れる……いや、めんどくさいだけね。
私には荷が重いわ。
手の届く範囲でいいのよ、手の届く範囲。
手の届く範囲の幸せ。
それ以上は手に余るわ。
それくらいが私にちょうどいい。
私の魔法に、ちょうどいい。
――今日は木曜日。
下校途中に寄り道をしてやって来たのは、近くの河川敷。
夕焼けには、まだ少し早い時間ね。
…今日、空が赤く染まるのかはわからないけど。
なにか特殊な条件あるんでしょ?あれ。
詳しくないから分からないけど、そう聞いたことがあるわ。
まあとにかくよ。
まだまだ子供たちが大きな声ではしゃいでる、そんな時間帯の、そんな河川敷。
元気いっぱいで微笑ましいかぎりだけど、今までの私だったら、まず来なかった所ね。
というか実際、来た事ほとんどないわ、ここ。
私の魔法は、存在理由がわからない細やかな魔法だけど。
でも、その魔法のおかげで私が少し活発になったのは――うん、確かね。
三週間前の、魔法が使える前の私とは、大違い。
人生って何が起こるか分からないのよ。
ふふ、中学二年の子供が言う事じゃないか。
えーと、それはさておき、とりあえず。
今日はこの河川敷を散歩、そう決めてるの。
それなりに大きな川だからか、見晴らしがいいし、歩いてるだけで気持ちいいわ。
こんなんだったら、もっと前から来てればよかったわね。
…。
…いや。
どうせ三週間前の私は、そう勧められても鼻で笑い飛ばして、それで終わりか。
だからこそ『絶対に来なかった場所』なんだもの。
まあ、過去を振り返っても仕方ない。
今度から、たまにここに来るようにすればいい。
そうでしょう?
――って、あら?
考え事してたら、結構歩いてきてたわね。
さっきの子供たちの声が、かなり後ろに聞こえるわ。
えーと、この先には……うーん、遠くに野球場が見えるわね。
数人で、練習?か何かしてるわ。
で、えっと、その手前は広場になってる。
そこには誰もいない、かな?
…。
いや、一人いるわね、何してるのかしら――あ。
何か飛ばしてるみたいね。
何だろう。
もう少し近づけば分かるかな?
じゃあもう少し歩いてみましょう――。
――あ、なるほど、ドローンね。
見てると無性にやってみたくなる、アレね。
まぁ、私はやったことあるんだけどね。
私の…、お父さん、が家で小さいの飛ばしてたから。
その時に少しやらせてもらったの。
たしか、二週間ほど前だったかしら。
正直ちょっと、興奮しました。
楽しくてね、ふふ。
でね。
ついでに魔法を使ってみたのよ。
宙に浮いてるドローンを止めたらどうなるのかって、気になって。
…気になる、わよね?
だから…お父さん、の目を盗んでドローンを横に移動させてる途中で、魔法を使ったの。
お父さん、の目を盗んで、ドローンの時間を一秒盗んだの。
結果は――まあ大方の予想どおりよ。
見事に空中で一秒だけ止まったわ。
その後は何事もなく、またモーター音を振りまきながら、横移動を再開しました。
めでたしめでたし。
でね、もちろんその時また思ったわよ。
たったの一秒だけ止めて、なんの意味があるの?何ができるの?って。
でもま。
止められることが分かっただけでも良しとしておいたわ。
それに、前に仁科さんを笑顔に出来たしね。
…まだあれが、あのゲームがなんで止められたのか分かってないけど。
――って、あら?
いつの間にかドローン飛ばしてたおじさんも、大分後ろにいるわ。
また結構、歩いてたみたいね。
あと少し先まで言ったら、家に帰りましょう。
というか、ドローン飛ばしてる人って大概おじさんな気がするわね。
おじさんたちの少年心に刺さる魅力でも持ってるのかしらね、ドローンって。
不思議――。
「危ない!避けてっ!!」
え!?なに?
野球場から叫び声――って、こっちにボール飛んできてるっ!
ひあっ!
あっ!反射的に屈んじゃったけど、ボール!
ボール、止めないと!
ボールっ!止まって――っ!!
…。
…えーと、ど、どうなったの?
って――わっ!トスンッて、目の前に何か落ちてきた。
白い、まる…ボール?
「大丈夫ですか!?」
えー…と?
「当たりましたよね、これ。」
息を切らしたお兄さんが、突然目の前に落ちてきたっぽいボールを拾って、私に見せてる。
えー…、と?
「怪我、ないですか?」
へ?あ、はい。
大…丈夫、です。
―――嘘。
大丈夫だけど、大丈夫じゃない。
混乱して思考が追いついてない。
でも身体的には大丈夫なので、そう答えておこう。
というか、それ以外に言葉が出てこないもの。
「ほんとですか?遠慮しないで、言ってくださいね。病院まで付き添いますので!」
い、いえ、ホントに大丈夫です。
あ、当たり所?が…、良かったんだと、思います。
…えーと、少し落ち着いてきた、とにかく、この場を丸く収めよう。
それが、話をややこしくしない一番の方法だ。
「そうおっしゃられるなら分かりました。でも、何かあったら連絡ください。連絡先は、あ、今書くもの何もないので、申し訳ないですけど、草野球・麻芽ファイターズでネット検索すれば出てきますので、そちらの方まで!」
わ、分かりました。
「では、失礼します。」
頭を深々と下げて、走り去るお兄さん。
向かう先を見てみると、チームメイトの人も頭を下げてるわ。
なんか、申し訳ないわね。
居心地が悪いから、今日はここでそそくさと帰ることにしましょう。
――さて。
あれから帰ってきて、お風呂なう。
ん?
そんなことより、早く説明しろって?
あのボールは一体どうなったんだって?
…花も恥じらうJCのお風呂シーンを、そんなこと呼ばわりとはひどいわね。
まあ、いいわ。
で、野球ボール事件の話だけど…。
私も良く分かってないのよ。
だから、起こったことを順にまとめるだけにするわね。
えーと、まず。
一。私にボールが飛んでくる。
二。危ないと注意される。
三。私が顔を上げる。
四。私、危険を目視。
五。回避しようと反射的にしゃがむ。
六。その途中、魔法の存在を思い出し、ボールを止める。
七。しゃがみ終わる。
八。止まっていたボールの魔法が切れる。
九。しゃがんでいる私の目の前に、ボールが落ちる。
という流れ。
そう、実際には私に当たってないのよ、ボール。
だから怪我もなく、大丈夫だった。
でも、ボールが私の目の前に落ちたことで、お兄さんは当たったと勘違いしたの。
当たってなかったら、ボールがもっと遠くへ飛んでってるはずだものね。
それで「大丈夫ですか!?」に繋がるわけ。
お兄さんは私にボールが当たったと思ってる。
でも、私はボールが当たってないと思ってる、実際当たってない。
そりゃ混乱もするわね、話が噛み合わないもの。
それに、ここが一番分からない所なんだけど。
私の混乱に、尚更拍車をかけたことなんだけど――。
どうしてボールが落ちてきたの?
一秒止まり終わったら、そのまま後ろに飛んでくんじゃなかったの?
謎だらけだわ。
分かる人がいたら、教えて欲しい。
――というわけで、絶賛長風呂中。
考えること山積みだもの、仕方ないわよね。
…とは言っても、考えても分からないから長風呂になっちゃってるんだけど。
まあそれはさておき。
考えても分からないから、強引にさておき。
このままだと一生お風呂から上がれないわ。
だから、別の事を考えましょう。
――まず。
魔法を使えるようになってから、ああいうシーンは想像してたのよ。
ボールに限らず、何か飛んでくる状況。
誰でも、するわよね?
その例に漏れず、私もしてたのよ。
まあ、想像の中では被害者は私じゃない誰かで、私は助ける側だったんだけど――って細かい点はどうでもいいか。
とにかく、イメージトレーニングはしてたの。
いつでも魔法で助けられるようにって。
――でも、実際にそれが起こると、とっさに魔法を使えなかった。
今回はたまたま、球速がそれほど速くなかったから間に合ったけど。
たまだけに。
…。
…おほん、ごめんなさい。
もっと速かったら、当たってたわね。
現実は思うようにいかないわ。
反省点その1ね。
そして次。
理由は謎だけど、魔法で止めたボールが落ちてきた。
これは…由々しき問題よね。
ドローンに魔法使った時、魔法が切れた後はしっかり元の動きに戻ったのよ。
何事もなかったかのように飛行を再開したのよ、つまり落ちてこなかったって事。
だから、他の物でもそうなるんだと、そう思い込んでたけど…。
でも――。
そうじゃないものがある、という事が分かった。
そして、その対象が何か分からない。
…ふぅ。
今後検証が必要だわ。
だって、その瞬間を誰かに見られたら大騒ぎよ。
何もないところで、ボールが止まって落ちるんだから。
だから、要検証。
他にも、そのせいで事故に繋がるかもしれないしね。
気を付けないと…。
…はあ。
疲れた、ベッド最高。
…魔法、使えていいこともあるけど。
めんどくさいことも多いわ。
でも、その魔法のおかげて。
前より少しだけ、生きるのを楽しんでると、思う。
…そう思う。
だから、また明日から、こつこつと魔法の検証をしていきましょう。
じゃあ、おやすみなさい。
―続―
はい、お疲れ様でした。
また最初の頃に戻ってきました。
行ったり来たりですが、今後もおおむねこんな感じです。
さて今回は、書くのが大変でした。
投稿間隔もその分空いちゃいましたね。
だからと言って、いい文が書けたわけじゃないのが悔しいところです。
それでも楽しんで読んでもらえてると嬉しいです。
では今回も最後までありがとうございました。
次回は…また一秒で出来るネタが思いついた頃に上げます。
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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。