第三十九話 魔法少女浸かります
私はつぐみ。星河つぐみ。
壊れた宇宙船を修復なんてしないけど、魔法少女よ。
というか今乗ってるこの車、衝突防止機構がついてるんだって。
それどころか、バックにギアを入れた時、車の全周囲がリアルタイムでナビの画面に映し出されてたわ。
つまり、車を真上から見下ろした俯瞰視点の映像が、よ。
んー…、たぶん…だけど、車に搭載された複数のカメラの映像が合成されて画面に写されてる…んだと、思う。
それに走行中も、タイヤ周りの映像を映せるっぽくて…。
…。
…すごくない?
こんなのもう魔法じゃないの!
壊れた車を修復する――とか以前に、車自体がもう壊れないんじゃないの?
家の車のカーナビなんて、そもそもバックモニター(さっきマキちゃんに名称聞いた)すら付いてない――どころか、普通に道を走ってたら、いつのまにか道なき道を走ってるんだから。
どうやら空飛んでるみたいよ?うちの車。
もう魔法ね、それも。
「違うの、それはただナビが古いだけなの。」
そんなこと分かってるわよ、ノノちゃん!
「あたらしい道が反映されてないだけね。」
だから分かってるって、マキちゃん!!
もぉ、ここぞとばかりに二人でいぢめてくるんだから。
「ノノはそんなことよりも、携帯で大量の音楽を車に流せてるのが驚きなの。」
たしかに。
それにも驚き、なにその機能。
後部座席から身を乗り出して、ナビの画面を食い入るように見るノノちゃんの気持ちが物凄くわかる。
マキちゃんの携帯はジュークボックスか何かなの?
なんでそれが、車から流れるの?
「ジュークボックスって…、それが私には分からないって。映画くらいでしかみたことないわ。」
私はゲームでしか見たことない。
一度言ってみたかっただけ、ジュークボックスって。
ジュークボックスって一体なんなんだろう。
「そもそもジュークボックスよりも圧倒的に曲数が多いって、大手ネット通販サイトの音楽サブスクリプション契約なんだから。それを、電話回線を使って、携帯で音楽をストリーミング再生して、無線でナビに飛ばして、車のスピーカーから流してるのよ。ちなみに音楽のサブスクリプションは、お父さんがファミリー契約してくれてるのよ、そのおこぼれ。」
はぁ…なるほど。
そういえば、この車もそのお父さんのって話だったわね。
「なるほどなの。未来がきてるの。」
「別に来てないわよ、未来。ってか、あなた達は華の女子高生なんだから、時代についてきなさいよ。というか、理系でしょ?私より詳しいんじゃないの、こういうの。普段パソコンとか携帯とかで何してるのよ。」
えぇ?
何してるかって聞かれても…、ねぇ?
…。
…ゲーム?
「ゲームなの。」
よね。
最近はノノちゃんと一緒にひと狩り行くのよ。
「なにそれ、楽しそうじゃない、私も混ぜてよ。って、そうじゃなくて、受験生だったのに、よくもまあゲームなんて出来たわね。――あ、このサービスエリアももちろん寄ってくわよ。」
へ?あ、うん。
ウインカーをあげながら、よく器用にお話しできるわね、マキちゃん。
数日前に免許取ったばかりなんでしょ?
もう既に熟練ドライバーみたいよ、さすがマキちゃん。
「受験生だったとしても、ゲームは欠かせないの。デイリーミッションは生きがいなの。」
私たち二人がハマったラノベのゲームなのよ、だから、無理して時間作ってゲームしてたの。
毎日一時間だけね。
「ふーん、ま、それで大学合格したんだから、ふたりとも凄いわよ。」
「大丈夫なの、ちゃんとキャリーしてあげるの。むふー!」
「いや、ノノ。何の話よそれ。キャリーって何。――あ、バックするわよ。」
バック!!
つまりナビの画面が、例の凄い画面になるやつ!!
あ、ほら!画面切り替わった!!
すごい!来てる!未来!
「はいはい。これくらいで喜んでもらえて、嬉しいわ。じゃあ、10分ほど休憩ってことで、お手洗いと――、それからお土産でも見てきましょう。」
「はーい。」
はーい。
目的地まで後1時間くらいだから、しっかりと休んどかないとね。
「――ふぅ、お腹いっぱいなの。美味しかったの。」
ベッドの上でお腹をさすさすと…、こんなノノちゃんの小さな体に一体どうやったらあんな量の食事が入るのかしら。
相変わらず謎、太らないのも羨ましい。
「ノノ…車の中であれだけ食べたのに、よくまだそんなに入るわね。若干引いてるわよ。」
そうそう、たくさん買ってきたからお土産かと思ってたのに、なんと車内で食べる様だったのよね。
私たちにもくれたけど、そのほとんどはノノちゃんの胃の中よ。
「おいしいものは、いくらでも食べられるの。しあわせなの。」
「たしかに、美味しかったわ。また行きたいわね、あのビュッフェ。」
同感。
今回の旅で、最初の目的だった『最近話題となってた有名ホテルのビュッフェをランチで頂く(千五百円)』は、満場一致で大満足。
出だし好調で、この後の旅程も期待が出来そうよ。
ちなみに今は、早めにチェックインしたホテルの室内で小休憩と言ったところね、お安いビジネスホテルで。
マキちゃんは椅子に、私とノノちゃんは、ベッドの上でぽよんぽよんよ。
あ、一応言っておくと、ビュッフェ食べたのとは別のホテルね。
有名ホテルなんて、高校生には泊まれないわよ。
「そもそも、つぐみのところはビジネスホテルすら難色を示してたじゃない。」
う、うん、手間かけさせてゴメンね。
マキちゃんが家に来てくれなかったら、許可貰えなかったわ。
「ののの家は結構なんでも許してくれるから、つぐみちゃんの家の話聞いて驚いたの。」
うーん、私のとこもおかーさんは結構放任気味なんだけど――。
「お父さんの方が渋ってたのよね。」
そう、ほんと、ありがたいことにね。
――えーと、つまり。
お金の問題じゃなくて、女の子だけでビジネスホテル止まるなんて、何かあったらどうするんだ!って渋られたのよ。
まあ――そう言われれば確かにそうよね、ビジネスホテルのイメージって未だにそういうところあるし。
かと言って、私の家庭の都合でふたりにお高いとこに泊まってもらうのも、申し訳ないし。
これを言われたのが本当の父親だったなら、私も徹底抗戦して翻意させることも出来たのかもだけど――ほら、家って家庭環境がちょっと複雑だから、ね。
それに――正直私も嬉しかったのよ。
義理の父親が、なんの血も繋がってない義理の娘である私をこんなに心配してくれることが。
そんな人が、私の母親のパートナーになってくれたことが。
…だから、ちょっと困ってたのよ。
そこで、元生徒会長マキ様のプレゼンテーション能力をお借りして、父親の説得を手伝ってもらったってわけ。
最近のビジネスホテルは、女子会プラン等も充実していて安心度が高い――とか、ちゃんと2時間おきに大丈夫って報告するから――とか、そういう話を経て、なんとか今回の旅行にこぎつけられたのよ。
ごめんね、マキちゃん。
いろいろ頼っちゃって。
「いいのよ、つぐみ。そもそも今回の旅行は、私が二人の合格を聞いて、いきなり言いだした事なんだから、それくらいの手間なら惜しまないんだけど――そうね、ごめんじゃなくて、ありがとうって言ってくれればいいわ。」
そお?
そう言ってくれると、私としても気が楽ね、ありがとマキちゃん。
「うん。」
「今回の旅行は、数か月前からしっかり計画立ててる再来週の卒業旅行とは勝手が違うの。つぐみちゃんのお父さんが渋るのも仕方ないの。」
まあ、そういうことね。
旅行できることになってよかった、だって今すごく楽しいもの。
「ああ、そういえば、二人はミナエと鷺沢さんと卒業旅行するって話だったわよね。――で、その二人といえば…。」
ユイちゃんにマンツーマンで、ミナエちゃんが勉強教えてもらってる。
「同じ大学行くって約束したんだから、後期でも落ちるなんて許さないわ!って鬼気迫る様子だったの。怖かったの。」
うん、ほんとに。
あんな怖いユイちゃん、初めて見た。
「へ、へぇ…。まあ、頑張ってほしいわね、推薦で早々合格した私が言うのもなんだけど。」
生徒会長だったんだから、それくらいのご褒美あってしかるべきじゃない。
それに、そのおかげで今回の旅行がマキちゃんの運転で来れたんだし、感謝しかないわ。
「そお?…じゃあ、その私の運転で、そろそろ二個目の目的を果たしに行く?」
「行くのっ!!」
ぴょんっと、ベッドのスプリングをしならせて床に着地したノノちゃん。
かわいい、私が審査員なら10点をあげちゃう――おほん。
じゃあ、準備していきましょ!
今回最大の目的地へ。
――さいっ、こうっ!
んーーっ、きもちいいーー!
「ほんと、来て良かったわね。最高の眺めにいいお湯ーっ!」
「それに貸し切り状態なのーっ!」
ちょっと、ノノちゃん!
そんな堂々と全裸で立って、覗かれてたらどーすんの!
「つぐみちゃんは気にし過ぎなの!べつに見られて減るもんじゃないの、というか減るほどもないの。」
ちょっと、どこ見て言ってるの、ノノちゃん!
なにが減るほどないのか分からないけど、とりあえず腕で隠しておかないと!
隠すほどないけどねっ!!
あ、ちなみに、もうお風呂に浸かっちゃってるから関係ないけど、私は胸から下までタオルで隠す派。
マキちゃんは下だけ、ノノちゃんはそもそも隠さない派。
この辺の感覚は、ノノちゃんとは相容れないと思う。
「まあまあまあ、とにかくノノも入れば?寒いでしょ。」
「わかったの。」
石でできた湯淵に立ってこれでもかとバンザイしてたくせに、お湯にはちゃぽんとゆっくり入るのね。
いや、飛び込まれたら飛び込まれたで困るんだけども。
――とまあ、いろいろと騒がしい所ではあるけれど、おまたせしました、温泉回よ。
さっきのホテルから、車で1時間半くらいかけて山を登り、今は夕方。
ささやかなサイズの温泉街を観光し、道中でお饅頭を頬張りながら、今回最大の目的地にやってこれたわ。
平日夕方の温泉、かつ、日帰りプランなだけあって人が全然いないのよ。
高校卒業後の春休み、バンザイね。
まぁ…ミナエちゃんにはちょっと悪い気はするけど…、そこはほら、私たちも頑張った結果だからね。
ミナエちゃんも、もう少しだけ頑張ってほしいわ、がんばれ~。
「かいちょーは生まれてくる次元を間違えてるの。」
「はい?えっと…そんな罵られ方、初めてなんだけど。なに、どういうこと?」
「私と似たような身長のくせに、なにそのボイン。そんな体形、二次元にしか存在を許されないの。」
「ボインって、華のJKが使っていい言葉じゃないわよ――というか死語じゃない、それ。」
私のと違って、お湯に浮かぶ二つの風船を隠そうともせず、ノノちゃんの口撃に反撃するなんて――いや、隠そうとしても隠せないのか。
なんだそりゃ。
「かいちょー、前世でどんな徳を積んだなの?女神さまに転生ボーナス貰ったんじゃないの?ちょっと測らせるなの!」
「ちょっと、バカ!なに手をワキワキさせてんの!」
「温泉きたら、このイベント消化しないといけないなの!!!読者サービスなのっ!」
「ちょ、ちょっとつぐみっ!ノノがわけわかんない事言い出してる!ちょっと助けて!!」
は?
ボインに人権なんてあるわけないでしょ?
そもそも人間には、勝手に水に浮いちゃうような器官は備わってないのよ!
その二つのソレは、きっとオプションで後付けしたに違いない。
大人しく確かめさせなさい!
「つぐみ!キャラ変わってるじゃない!そんな子じゃなかったでしょ!バカバカ!」
くけけけけ!!
「――まさか、つぐみの方が手に負えないなんて。」
ふふふ、満足。
今日は手を洗わないでおこう。
「げんこつなんて、10年ぶりに貰ったの…。」
うん、確かに。
つむじ辺りがずきずきする。
その鈍痛を手でサスサスして和らげたいのはやまやまだけど…。
今も残るマキちゃんのあの感触を、自分の頭で上書きするなんてそんな勿体ないことできるわけない。
「私はあんたたちと違って、ノーマルなのよ。巻き込まないで。」
私たちがアブノーマルみたいな言い方された、マキちゃん酷い。
「ちゃんと聞いてるわよ。屋上で熱烈なキスをした話。」
う゛…でもあれはノノちゃんが――。
「あれはつぐみちゃんを助けるためにやっただけなの。」
それは――っ!
…………いや、うん、…そうね。
山本君の熱烈アタックから助けてもらったのは間違いないわ。
他に方法があったとは思うけどね、うん。
「え?ほんとのことだったの!?ただの噂じゃなかったんだ…。」
えーと…ま、まあ、その話はおいおい。
長くなるし。
「今聞きたいのはやまやまだけど…。わかった、今日の夜まで我慢するわ、のぼせたくないしね。」
あ、夜聞かれるのね、まあいいけど。
「ま、とにかく――よ。高校三年間お疲れ様。と言っても、私たちの仲は半年くらいだけど。」
「まさか生徒会長と、一緒に温泉入る程仲良くなるとは思ってなかったの。」
「大願山に行ったあの時から既に、もう生徒会長じゃなかったけどね。そもそも生徒会長って言っても、普通の生徒と変わらないって。大量に面倒ごとを押し付けられた、ただの一般生徒でしかないのよ。」
たしかにマキちゃんって、品行方正って感じじゃないもんね。
車の免許だって、たしか在学中に取っちゃダメだったような――。
「そ、そこはまあ…、うまいことやったのよ。」
あはは。
元生徒会長権限でも使ったのかな、深くは聞かないけど、でも。
まさにそれね、マキちゃんはつまり――要領がいい。
「むぅ、…誉め言葉として受け取っておく。間違ってもないし、それに――。」
「それに?」
「私だって遊びたいのよっ!ハメ外したいの!だから免許とったの!大学入る前に取れてよかった!!」
おかげで温泉入れたし、ビュッフェ食べれたし。
「ホテルに泊まって、明日はアウトレットなの。有名チョコレートとポップコーン食べるの。」
「いやいや、服を見なさいよ。」
「それは二人に任せるの。」
ノノちゃんらしい。
というか、そもそも私も元はノノちゃん側の人間だから気持ちはわかるけど――。
…しかたない。
明日はマキちゃんと私で、ノノちゃん育成ゲームにしましょう。
ニカから受け継いだ女子力を、ノノちゃんにも分けてあげるわ。
「あー、そうなんだ、なるほど。そういえば紺野さん、おしゃかわさんだったわね。へーそう、つぐみ、紺野さんの英才教育受けてたんだ、だから高校で会った時印象違ってたんだ、ふーん。」
あれ?なんか納得されちゃってる。
まあ確かに、今の私があるのはニカのおかげだから、訂正はしないけど。
「ののの服はどうでもいいの!そんなことより!なの!」
こら、もう!水面バシャバシャしない!
どーでもよくないから、こうやって育成計画立てようとしてるのに。
「だから任せるの、そんなことより、なの!」
「そんなことより?」
「かいちょー、卒業式の時会わなかったの。どこで、何してたの?一緒に写真取れなかったの!」
ノノちゃん、そんなの聞かなくても、こっそり号泣してたに決まってるじゃない。
ねえ、マキちゃん。
「見て来たかのように言うのね、つぐみ。…間違ってないけど。自分でもそうなるの分かってるから、最初から人目につかないように、こっそりしてたのよ。でも、つぐみだって似たようなもんでしょ?」
そうだけど…。
あのレベルで号泣するマキちゃんに『似たようなもん』って言われると、なんか釈然としないわ。
「でも実際、似たようなもんだったの。卒業式の日はつぐみちゃん、終始涙ぐんでて、式中ずっと泣いてたけど、まさか最後モル先生の前であんなに号泣するとは思わなかったの。」
う…それは…。
「ゆいっちとみーなと合流した時にも、そこまで泣いてなかったの。」
…。
――私もあんなに泣いちゃうなんて思ってなかったわ。
式も終わって、最後のHRも終わって、クラスの子と手を振りあって、ミナエちゃんとユイちゃんと合流して、少し駄弁って、4人でお茶して帰ろうってなった後――。
じゃあ人生最後の校門をくぐろうって時に、ふとモル先生に挨拶してないことを思い出したのよね。
さすがに3年間――いや、2年とちょっとかな。
2年とちょっとの間、ずっとお世話になってたし、お世話もしてたから、挨拶せずに去っていくのは憚れてね、みんなにちょっと先生に挨拶してくるって待っててもらったの。
ノノちゃんは、一応担任の先生だからってついてきたけどね。
で、いつもの理科準備室。
いつものようにノックをして、いつものように中から返事するモル先生の声に、いつもと違ってちょっと安心をして、そしてそれから扉を開けると――。
『おお、つぐみくん待ってたよ。来てくれなかったら、寂しくて今日は枕を濡らして寝るところだったよ。』
と言われて、即アウト。
――いや、うん、わかってる、わかってるから、あのね、聞いて。
自分でも思うわよ?さすがに早すぎじゃないのかって。
躾の行き届いてない犬でも、もう少し我慢できるって思うわよ。
もう少しこう、感傷的な?感動的な?そんなやり取りがあった上で、感極まっての涙の方がそりゃ美しいわよ。
私だって出来るもんなら、そういうドラマチックな涙を流したいわ。
でも――、ね。
人生って理屈じゃないの。
そもそもよ、私の戦いは卒業式の朝に目覚めた時から始まってたのよ。
さっきノノちゃんが言ってた通り、当日はずっと涙目で過ごして、式の最中で既に泣き腫らしちゃってるの。
…なるべく我慢して、それなのよ。
――つまり、先生に会う時にはもうボルテージはマックスどころか振り切れてしまってて、私はその破壊の限りをつくされた涙腺を抱えたまま、恩人であるモル先生に会っちゃったのよ。
そんなときに、先生から待ってたって言われたら――。
…。
…ね?
仕方ないでしょ?
そうなのよ、仕方ないのよ。
部活に入ってなかった私は、友達を除くと、学校生活の大半はモル先生と一緒みたいなもんだったんだから。
だから最後の別れとなったら、こみあげるものがあるに決まってるのよ、そうなのよ。
わかった?ノノちゃん。
「…わかったことにしておくの。でも、あの後つぐみちゃんを慰めるの大変だったの。モル先生との最初で最後の共同作業になっちゃったの。」
ご、ごめん…。
「なんだ、やっぱり私と同類じゃない、つぐみ。」
…言葉もありません。
「で、でも大丈夫なの。ちゃんとモル先生に、泣きながらでもありがとうございましたって言えてたの。ミッションは達成できてたの!」
ほ、ほんと?
泣きすぎて泣きすぎて、もう泣いてたことしか覚えてないけど、ちゃんと私お礼言えてた?
「言えてたの。つぐみちゃんと一緒にののもお礼言ったから、間違いないの!」
そう、よかった…。
ミッションコンプリートしてたっぽい、やれば出来るじゃない、うん。
「コンプリートはしてないの。ギリギリなの、赤点ギリギリ40点くらいなの。」
…。
…ぴえん。
「はは、まあそんなつぐみだから、私と仲良くできるのかもね。大学に行ってもよろしくね、二人とも。ちゃんと会いに行くから。」
うん、私たちも行くわ。
大学近いしね。
あ、大学といえば…。
今更だけど、ほんとに文化人類学で良かったの?
「ん?うん、いいのよ。そもそもやりたいこと決まってなかったし、つぐみが魔法を物理で解明したくて理工学部選んだって聞いたら、私も他の経路で魔法の謎にアプローチしたいって思っちゃって――って、前も言ったわね、これ。あーつまり、つぐみのおかげで道が決まったんだから、むしろ感謝してるくらいよ。」
そお?
最近ナユも私の影響で『脳科学やるっす!』みたいなこと言ってたから、皆に変な影響与えちゃったんじゃないかって心配してたのよね。
「大丈夫、大丈夫。ナユはあれで結構しっかりしてるんでしょ?その場のノリじゃな――。…。…いや、その場のノリかもしれないけど、問題ないって、きっと。どっちかというと、ノノの方が心配よ。」
「心配されなくても大丈夫なの。私はつぐみちゃんと同じとこ行くの。」
ほんとにそれでいいの?
「今更なの!いいの!」
「ノノがいいなら、別にいいんだけど。ま、人見知りのノノが一人になる方が心配か。」
「そうなの。かいちょー、よくわかってるの。そんなことより、つぐみちゃん、お願いがあるの!」
ん?
なに?お願い?
「今日は魔法、まだ使ってないの?」
ないけど、それが?
「じゃあ、ののに使ってほしいの。」
ノノちゃんに?
それはいいけど、どう使うの?
「お腹を動かしてほしいの!お風呂前に温泉饅頭食べ過ぎたの、湯上りのバニラとその後の夕ご飯がちょっと心配なの。」
えー。
「明らかに食べ過ぎだったものね。ってか、そんなことできるの、つぐみ。」
いや、できないわよ。
私の魔法――というかニカの『物を1センチほど動かす魔法』じゃ、腸を動かすなんて無理、どうやったらいいか分からないもん。
そもそも、正確には移動じゃなくてワープだし。
「じゃあ、そのワープでおなかのうんこを下に1センチ動かしてなの!」
無理無理無理!出来るわけない!
うんこの位置すら分からないのに、できるわけない!
「いや、わからないわよ、つぐみ。ノノ、ちょっとこの岩に仰向けになって。」
え?
そのおっきな湯淵の石に、ノノちゃん横にならせてどうするの。
ノノちゃんも、あっさり従って仰向けになって、あーもう、お胸と大事なとこが3か所丸見えじゃないの!
目に焼き付けておかないと!!
「うんこの場所が分からないって事だったわよね、じゃあ、それが分かったなら?」
……ワンチャン、有る…かも?
「よし、じゃあ試してみましょう。」
「かいちょー、お願いするの。」
「任せてノノ。」
なにを任せちゃうの!?
うんこの位置って分かるもんなの!!?
「ん-、だいたい左下腹部、大腸出口辺り、ここ!」
「ふぐっ!」
あ、触診。
そういえば、お医者さんでされたことあるかも。
グイっと、何度かお腹押してるわ。
「つぐみ、ここ!ここに一番溜まってると思う!!」
えー、ほんとにやるの?
出来ないと思うわよ?
「やってみるの。もし出来たら、魔法の使い道が一つ増えるの!」
うんこ動かせる魔法とか、私いらないんだけど…。
「つぐみはやく、人来ちゃう前に早く。」
「つぐみちゃん、お腹冷えちゃうから、早くなの!」
あー、もう分かったわよ!
やってみるわよ!
…。
えーっと、とりあえず、自分でもノノちゃんのお腹触って場所確かめて――。
あ、ぷにぷに、気持ちいい――じゃなくて!
えーっと、ああ、ここ、確かに硬い感じする。
じゃあ、ここに手あてたまま――いや、せっかくだから頬までくっつけちゃおう。
特に意味はないけど。
よし、じゃあ準備完了。
いくわよ。
――ノノちゃんのうんこ、1センチ動けっ!
「――ん、おおおおお!ちょっとお手洗いに行ってくるの!!」
ん?成功したっぽい?
えーっと手ごろに確かめられるものは――。
あ、これでいいか。
――マキちゃんのおっぱい、上に1センチ動け!
…揺れないわね。
じゃあ、成功してたの…かな?
「なに?人の胸凝視して…まだ揉み足りないって言うの、つぐみ?」
いや、ちょっと魔法の確認してただけだから。
大丈夫、どうやら成功してるっぽいわ。
「そお?なんか釈然としないけど、まあいいわ。」
…揉み足りないのは確かだけど。
それはまた次の機会のお楽しみね。
「でもノノは人見知りのくせに、恥があまりないわよね。」
あはは、それでバランス取れてるんじゃない?
それに、自分たちだけに心開いてるのが分かって、ついつい嬉しくなっちゃうのよね。
「あー、それは分かるかも。なんか憎めないし。」
ね。
かわいいわよね、ノノちゃん。
「ま、とにかく。うんこ像で仲良くなった私たちだけど、これで晴れてノノとも臭い仲ってわけね。」
あはは、そうなるわね。
――というわけで、旅行から帰ってきました。
言うまでもないけど、終始楽しい旅行だったわ。
温泉の後は、湯上りのアイス食べて、夜ご飯を軽く頂いて、ホテル戻って、私のノノちゃんのファーストキスについて問い詰められて――。
二日目には、チェックアウト時間ギリギリまで3人で寝て、帰りにノノちゃんファッションショーをアウトレットで開催して帰ってきたわ。
興味ないように言いながらも、意外とまんざらでもない顔してたし、ノノちゃんの大学デビューが楽しみね。
入学式までに、もう少しノノちゃんの女子力をアップさせて、素敵なキャンパスライフが送れたら素敵でしょ?
ふふ、腕が鳴るわね。
ではでは、高校3年間お疲れ様でした。
皆のおかげで楽しく過ごせました、ありがとう。
―続―
追記
今思うと、これがつぐみの変態への第一歩だったのよね。
ニカちゃんはこんな風にならないようにね。
七瀬マキ




