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でぃあ魔法少女【完結】  作者: 煮木 倫太郎
55/63

幕間4


「うん、今年は今までで一番キレイね。」

 うふふ、と満足気に独り言ちた私の前には、数年前からせこせことお世話していた芍薬(シャクヤク)達が、空からの優しい光に照らされてパッと花を咲き散らかしている。

「年を追うごとに綺麗に咲くって、ホントだったのね。」

 球根が大きく育つほど立派な花を咲かせる――と聞いてはいたけれど、実際にその様を目にしてみると、感動もひとしお。

 加えてそれが自分で育てたものだって言うんだから…うん、言葉では言い表せないわね。

「綺麗に咲いてくれて、ありがとね。」

 たぶん今年が最後だから――、来年は見れないかもだから――。

 ――だからこそ、その鮮やかな花びらをそっと撫で、心からのお礼の言葉を私は口から紡いだ。

 この気持ちが、私の指から芍薬たちへと伝るように、と。

 それにしても――。

 まさか私が庭先で花を育てることになろうとは、人生とは面白いわね。

 もちろん、お花はきれいだと思うけれど、でも――ただそう思うだけで、自分で育てたいと思ったことは一度も無かったもの。

 そりゃ、中学生の頃にニカからオシャレや女子力を学んだけど、そのおかげで学生生活は難なく遅れたけど、でも、根底にある私自身ってのは変わらないのよ。

 つまり、お花で部屋に彩りを加えるくらいなら、お気に入りのソシャゲのガチャを回したかったのよ、私は。

 家具とか、常に使えるものでお部屋をかわいく彩れる――とかなら惜しまずに買うけど、ほら、花って束の間じゃない?

 費用対効果とか、儚さとか、そんな事ばかり考えちゃうのよ、私。

 今になって振り返ってみると、流石に自分でも女子力低いなとは思うわ。

 ほんと、その『束の間』を大事に出来る心の余裕が昔からあればよかったんだけど、それはほら、パパやニカを亡くしたトラウマが――ね。

 すぐに枯れちゃうと分かっているものに愛情を注ぐなんてこと、怖すぎて私には無理だったって、そんな小狡(こずる)い言い訳を――。

「おばあちゃんは変態さんだったの?」

「はい!?急になんてこと言うの、ニカ!?」

 ――と、そんな言い訳を心の中でしていたら、いきなり不名誉なレッテルを背中ごしに孫から言い渡され、急いでそちらに振り返りながら立ち上がる私。

 まったく、尻もち付きそうになったじゃないの、もう。

 そういった文句を一つでも言ってやろうとしたのだけど、当のニカを見るとその気も失せてしまった。

 だって、今日も今日とて例のロッキングチェアで揺られながら、さっきまで本を読んでいたはずのニカが、いつの間にか本から顔をあげて、もっもっ、と幸せそうにスコーンを頬張っていたんだから。

 そんな笑顔を見せられたら――ねぇ?

 ニカにクロテッドクリームを食べさせたあの日から、家に来るたびにスコーン焼かされてるけど、ニカが喜んでくれるならいくらでも作ってあげるわ、面倒には違いなけどね。

 でもおかげで、かなりスコーン作るの上手くなったわよ。

 最初はパンケーキミックス使ってたけど、今じゃベーキングパウダー買っちゃうほどだし――。

「おばあはんは、へんはいはんわっはの?」

「言い直さなくても聞こえてるわよ。ってか、口に物入れながらしゃべらないの、ノノみたいになるわよ?」

「ノノって、この本に出てくる?」

「そ、おばあちゃんの親友。何回言っても食べながらしゃべる癖が治らないのよ。」

「ふーん、じゃあやっぱり、おばあちゃんは変態さん?」

()()()()、の意味がわからないわ、ニカ。」

 なにをどうしたら、その結論に至るのか。

 学校で国語をちゃんと習っているのか心配になるわね。

「この本に書かれてることが本当の事なんだから、やっぱりおばあちゃんは変態さん。」

「…。…たしかにそれは私の実体験をもとに書かれたものだけど、それが"本"である以上読者を飽きさせない工夫――刺激、が必要なのよ。他の子を貶めるわけにはいかないでしょ?だから、私自身にピエロ演じてもらったってわけ。わかる?」

「ふーん?」

 分かったのか分かってないのか、生返事のような返事を一つしてからスコーンを貪る作業に戻るニカ。

 はぁ…、まさか孫にまで変態呼ばわりされる日がこようとはね。

 そういえば、この芍薬達の苗を貰った時、マキちゃんに――。

 『立てば芍薬?…はぁ?違うわよ、()()()()を育んで欲しいのよ。だから苗から渡すの。』って言われたのを思い出すわ。

 ちゃんと芍薬のように育まれてるのかしら、私の恥じらい。

 …。

 …ダメだわ、どれだけ考えてもマキちゃんが私を鼻で笑う姿しか目に浮かばない。

 そもそも、ちゃんとあるわよ、恥じらい。

 マキちゃん達の前でだけ、ちょぉっと甘えてるだけなのよ、そうなのよ。

 失礼しちゃうわよね?

「というか、ニカ。どこまで読んだの?」

「んん?んん!!」

「あ、飲み込んでからでいいから。」

 もっ、もっ、もっ、とスコーンを齧っていたのをやめて、咀嚼にとりかかるニカ。

 ごっくんちょと飲み込むまでもう少しかかりそう。

 じゃあ今のうちに、私の恥じらい達に水を撒いてしまおう。

 それにしても――えーと確か、3月から読み始めてたから、どれだけ読むの遅くても流石にもう終わりの方だと思うけど…。

 まぁでも、3か月もかかったのは、私が最後まで書けてなかったってのもあるか。

 それに実質、その間に(うち)に来た日は数日しかないし――今日なんて一か月ぶりくらいだしね。

 ゴールデンウイークは、ほとんど()()()()()()と遊んでたんだって。

 ふふっ、ほんと泣きたいほどに微笑ましいわ。

「ここ、魔法老女のとこ。」 

「もう、ほぼほぼ終わりじゃない。ってか、そのお話読んで、その感想?」

 おかしい。

 書くの、すっごく苦労したのに。

 感動のお話のつもりなのに。

 というか、泣きながら私泣いちゃってたのに。

 ()()()()()()()にしちゃうと泣きすぎちゃって書けないから、仕方なく()()()()()で書くしかなかったお話なのに。

 文章を書くというのは…難しいわ。

「うん。ねーおばあちゃん、これ最近書いたの?」

「そうよ。ほんとは、この前あげた私の魔法について知ってもらうだけのつもりだったから、未完のままで問題なかったんだけどね。思いの外、ニカが喜んで読んでくれるから、ここ一か月で仕上げたのよ。」

「うん、ありがと、おばあちゃん。」

「ありがとう?」

 ホースを片づけ終わった私は、キュッと蛇口を締め、ニカが(くつろ)いでいる吐き出し窓のへりにそっと腰かける。

「お礼を言うのはこっちよ、ニカ、ありがとね。」

「ううん。それだけじゃなくて、魔法くれたこと。そしてつぐみんにあげるの許してくれたことも。」

「それこそ、お礼言われるまでもないわよ、ニカ。ニカの幸せが、私の幸せだからね。――昔から、ずっと。」

 そう言われたのが嬉しいのか、ニカっとはにかむニカ。

 あら?5月の日差しで外からは分からなかったけど――なんだ、ちゃんと目の下が赤いじゃない。

 泣いてくれてたのね、ニカ、書いた甲斐があったわ、ふふ。

「あ、それ、約束通りちゃんとつぐみんさんにも読ませてね。大事な事いっぱい書いてあるんだから。」

 それが最低条件。

 もちろん、自費出版すらされてない自叙伝的な本を他人様に見せるなんて恥ずかしいのだけど、私の恥じらいなんて、ニカの幸せに比べれば安いものよ。

 そもそも、恥じらいは育まれてないらしいし、…むぅ、不服だけど。

「うん、もちろん。――あ、ひとつ気になったんだけど、おばあちゃん。」

「ん?なに?」

「なんでおかーさんには、魔法あげなかったの?」

「え?…えーと、それは――。あー…。そ、そもそも、誰かにあげるつもりなかったのよ。でもニカが、期せずして私の親友と同じ名前で生まれてきてくれたから、だから――ね?」

 ――あっ。

 ニカ、まだ読んでる途中だった。

 先の展開のネタバレしちゃったわ。

「そうなの!?なら、ニカって名前つけてくれたおかーさんに感謝しないと!」

 でもまあ、仕方ないわよね。

 まさか、こんなこと聞かれるなんて思ってなかったんだし。

 不意打ちすぎて、ついポロっと言っちゃったわ。

 ほら、わきの下に、ちょっと嫌な汗かいちゃってる。

 …でもほんと、仕方ないのよ。

 だって、『誰にもあげるつもりなかった』というのは、実は嘘だし。

 それを取り繕うために、口から出たでまかせ――とまではいかないまでも、真実を隠すために、違う真実を言ってしまったのは――うん、仕方ない。

 言えるわけないでしょ?

 『ホントは魔法をあげようと思ってたけど、あなたのお母さんには、ふとした瞬間に魔法で悪さをしそうな危うさを感じたから、あげなかったのよ』なんて、その実の娘に。

 もちろん悪い子じゃないと思う――と、自分の娘をそう評価するのはくすぐったいけど、でもむしろ、その性格のおかげで、私よりも人生を楽しく生きられそうとも思うのよ。

 ま、実際はどうなのかなんて本人に聞かないと分からないし、そもそも、幸福度なんて人と比べようがないものかもだけどね。

 ――あ。

 ちなみに、()()()()()()に魔法をあげるのを許可したのは――。

 …うん、結局私も例に漏れず、孫には甘いって事ね。

 それに実はつぐみんさんに会う時、その道のプロフェッショナルに頼んだのよ、人間観察のプロに。

 えーと、つまり一緒に会ってもらったの、マキちゃんに頼んで。

 『そういう事なら一緒に会うけど、あんまりあてにならないわよ』って、私の無茶ぶりに応えてくれたわ。

 あてにならないって本人は謙遜してるけど、そんなこと全然ないのよ。

 少なくとも、私が全幅の信頼をおいているくらいには。

 なんてったって、何十年と人の心を読み続けてきた子だからね、マキちゃんが白と言えば白よ、うん。

「じゃあ、もう最後まで一気に読んじゃうね、おばあちゃん。」

「はいはい。」

 そう言って、また椅子に揺られながら本の続きに目を落とすニカ。

 ほんと元気になってよかったわ。

 だからつぐみんさん、ニカをよろしくね。

 それに、私が居なくなった後の二人の事――魔法の事は、マキちゃんと一応ナユにも頼んどいたし、うん。

 やり切ったって感じかな。

 そう思い込んでるってだけだけど。

 ――って、ん?携帯が鳴ってる。

 ん-と、メッセージ?なになに…?

 『仕方ないことだけど、どうにもならないことなのは分かってるけど――なるべく長生きしてよね、つぐみ』

 ふふ。

 まったく、マキちゃんは見透かしたようにメッセージを送ってくるわね。

 『はいはい、分かってるわ。ノノに耳にタコができるくらい言われ続けてるから、大丈夫よ』と。

 じゃあ、送信。

 

                                   ―続―




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