第三十四話 魔法少女配達します
私はつぐみ。星河つぐみ。
ウイルスから地球なんて守れない、卑小な魔法少女よ。
地球どころか、友達一人だって救えないの。
せっかく魔法が使えるってのに、これじゃ何一つ特別じゃない、一般人とミジンコほども変わらないわよ。
…はぁ。
つまり――3年生に上がってからニカの体調が芳しくないっぽいのよ、ゴールデンウイークが過ぎてからは特に。
今日だって午前の途中で早退しちゃったし、一昨日なんて休んでたし。
当の本人は『全然大丈夫なのよ、つぐみんは心配性なのよ』って平然としてるけど――、私としては心配で心配で仕方がないわ。
ああぁ、もうっ!
私がニカの体調を直してあげられるくらいの、すごい魔法少女だったらよかったのに。
…。
でも私に出来ることなんて、せいぜいニカの病気の進行を1秒止めるくらいで――。
でもそんなことしたって、なんの気休めにもならなくて――。
ニカの病気がどんなものかなんて全然知らないけど、結局私に出来ることは、ニカとこれからも一緒にいさせてくださいって、神様にお祈りするくらい。
こんな謎めいて魔法じみた力を持っていても、結局私はなんの力もない卑小と形容するのが恥ずかしいくらいの矮小な人間で、ミジンコよりも遥かにちっぽけな只の人間に違いなくて――。
――まあでも。
「つぐみん、いらっしゃいなのよ、待ってたなのよ!」
この笑顔をみると、そんな不安も卑下も吹き飛んじゃうんだけどね。
「――で、つぐみん。今日は何を持ってきてくれたなのよ?」
英語の宿題。
「ふぐぬぅ。」
なにその、蟹と思って食べたらカニカマだった時のような表情、すごい再現度じゃないの。
って、ニカの変顔を拝みに来たんじゃなくて、えーと…そう、あとコレね。
それと――、委員長からは修学旅行の班決めについてのプリント。
「修学旅行っ!!京都っ!そうそう、こういうのを待ってたなのよ!七瀬ちゃん、気が利くなのよ。」
気が利くというか、委員長の業務だからね。
というか、いつのまにかニカへの配達が私の業務になっちゃってるわ、まるでニカ専属の配達員よ。
…まあ、去年からだから今更ではあるんだけど。
お届け物が無くても、結局ニカのとこ来るんだから、いいんだけど。
でも、別に家が近いわけじゃないのよ?むしろ遠いのよ?…全然、いいんだけどね。
おかげで自転車で通学するようになったわよ。
――で、ニカ。
寝てなくて大丈夫なの?その黄色いパジャマかわいいけど。
「ふふーん、おニューなのよ、つぐみんに見せびらかしたいなのよ。それに修学旅行と聞いちゃ、寝てもいられないなのよ、テンションあがるなのよ!――とは言ってもなのよ、わたしはつぐみんと一緒ならなんだっていいなのよ。七瀬ちゃんにそう伝えといてなのよ。」
ん、了解。
私もニカと一緒じゃなきゃ、修学旅行なんて行く意味ないと思ってたし、ちょうどいい。
むしろ場所すらどこだっていいのよ。
それこそ、平和記念公園だろうと、恐山だろうと全然構わないわ。
…まあ知ってのとおり――というかいつもの通り、本人には言わないけど、恥ずかしいし。
「そんなことより――っ!」
そんなことより?
ん?なに、どうしたの?
ベッドから降りるなり、テーブルをバンバン叩いて。
「ほら、早くそこに座るなのよ。そして今日の分のデザート、早く出すなのよ!」
…。
…。
…ないわよ、そんなの。
…座るけども。
「そんなわけないなのよ、そのかばんに入ってるなのよ。早く食べるなのよ。」
…なんで知ってるのよ。
ニカ、もしかして人の心読めるんじゃない?
そんな魔法も使えるようになったの?
「あるわけないなのよ、そんな魔法!――って、毎回家に来るたび、同じやり取りしてるなのよ!分かるに決まってるなのよ!!」
そりゃそうか。
じゃあ、こんないつものやり取りに時間を使うのも勿体ないわね。
仕方ない、たまには素直に出してあげますか、おやつ。
「いや、十分出し渋ってたなのよ…。」
ん?いらないの?
「い、いるなのよ!いつもありがとうなのよ、つぐみん!」
うむ、よろしい。
じゃあ――はい、干し芋。
「――江戸かっ!」
江戸じゃないわよ、令和よ。
いつもの語尾忘れてるじゃない。
キャラ崩れちゃってるじゃないの。
「キャラじゃないなのよ!――っじゃなくて、なんで干し芋なのよ!一年かけて育成したつぐみんの女子力が、初期値に戻ってるなのよっ!」
いやいやいや、ほらニカ、よく見てよ、ちゃんと可愛いパッケージに入ってるでしょ?
最近どうも、干し芋がプチブームらしいのよ。
だから色んな干し芋お菓子が売られてて――ほらこれ、食べ残しても安心のジッパー付き!
これでカバンの中で零れることもないし、女子力有り余ってるじゃない。
「よく見ても、見なくても干し芋は干し芋なのよ!干し芋じゃ全然アガらないなのよ。ベッドに戻りたくなるなのよ。」
じゃあ食べないの?干し芋。
「た、食べるなのよ。…むぐ、ん?――なんかこれ、干し芋って言うより、スイートポテトっぽいなのよ。スイートポテト味の干し芋なのよ。なんか変な感じなのよ、びみょーなのよ。」
それは――あーほら、ニカが遅れてるからよ。
最近の若い子には、それが干し芋なのよ。
プチブームよ、プチブームの新食感よ。
これが分からないのは、遅れてるのよ。
ニカの女子力も地に落ちたわね。
「む。…つぐみん、あのねなのよ。ブームって言うのは、全部メーカーの陰謀なのよ。売り出したい商品にかこつけて、メディアと協力した企業が仮想のブームをでっちあげてるなのよ。だからやっぱり、微妙なものは微妙なのよ。」
ん?いや、その考えも偏ってる気がするんだけど…。
そんなこと言って大丈夫?
いろんなところから怒られない?
『意見には個人差があります』って、書いとかなくていい?
「書いとかなくていいなのよ。こんなことも分かってないようじゃ、つぐみんはまだまだ子供なのよ。」
子供って…。
まるで、ニカはもう大人みたいな言い方するわね。
「つぐみんよりは大人な――。あ、もちろん、胸の大きさ的な意味じゃないなのよ!デコピンは嫌なのよ!だから、その上げた手を降ろすなのよ!」
むぅ、残念。
もう少し胸を張ってたら、極刑だったのに。
最近、ニカの勘がよくなって、デコピンする機会が減っちゃったわ。
――あ、でも、そうは言うけどニカ。
「ん?なのよ。」
仮にニカが言うみたいに、この干し芋ブームが意図的に作られた架空のブームだったとしても、それに軽く乗れるってのが、そもそも女子力高いっぽくない?
「――っ!た…確かになのよ。」
でしょ?
「確かに世の女の子たちは、こんな見せかけのブームに軽々と乗っかってる気がするなのよ。」
そうそう、だから私の女子力も捨てたものじゃないのよ。
「う…ん?そうか――も?――って、違う違う、やっぱり違うなのよ。世の女の子たちは、つぐみんみたいな腹黒い理由でブームに乗っかってないなのよ。危うく騙されるところだったなのよ!」
ヘヴィメタルのライブじゃないんだから、そんな頭振らなくても…あ。
――でも、そうは言うけどニカ。
「ん?なのよ。」
逆に腹黒いからこそ、女子力だとも言えなくない?
「んん?んん……ん?」
えーと、ほら、計算ずくでいかにも女子力ありますよアピールしてることこそが、女子力が高いって気がしない?
「んんんん???」
心の内では、マカロンって言うほど美味しくなくなくない?とか思いながらも、でも可愛いもの食べてる私はなんか可愛いよねー、とかそんな腹黒くて可愛くないこと思いつつマカロン食べてるのが、むしろ女子力高いってイメージない?
「う…うん。う…ん?そう…かも?そうなのよ…かも?うん?」
あらら、考えこんじゃった。
じゃあ、今のうちに――。
「んんんんんん…?――あーーっ!何食べてるなのよつぐみん!」
――あ、バレた。
え?えーと、フィナンシェって言う、フランスのお菓子?
「フィナンシェは知ってるなのよ!そうじゃなくて、なんでそんな女子力高いお菓子、今持ってるなのよ!干し芋はどうしたなのよ!!」
だってそれ、そんなに美味しくないもん。
「なーーーーーっ!!のよっ!」
あーもう、わかったわかった、わかったから、そのポコポコするのやめて、ね?
そもそもテーブルの向かいからだと、届かないでしょうに。
ほら、半分こね、半分こ。
「そうそう。こういうお菓子半分ことかが、女子力高いなのよ。つぐみんの言ってる女子力はなんか違うなのよ。つぐみんの人となりが、なんか滲みでちゃってるなのよ。はふ、フィナンシェうまー。」
何が滲み出てるって言うのよ、まったく。
腹黒さ?
別に私、そんな腹黒いとは思わないんだけどな、自己評価だけど。
「うーん、腹黒さじゃなくて、なんていうか、うーん………ひくつ、さ?」
ひくつ…、卑屈…か。
――まあ、確かに。
「自分への謎の卑屈さのせいで、世間を同様に卑屈に見ちゃってるなのよ。」
…私の親友が、私より私に詳しい。
うん、きっとその認識で合ってると思う。
そんなこと考えたことなんて無かったけど、言われてみるとストンと腑に落ちるし。
「つぐみんがそんなだから、わたしは心配なのよ。ちゃんと友達作るなのよ。」
むぅ。
最近気づいたらこの話になってる気がする、『友達つくるなのよ』って。
私はニカさえいれば、他に何もいらないのに。
――って、あ、そういえば、友達と言えば。
ニカ、委員長の事、七瀬ちゃんって呼んでるの?
いつの間にそんなに仲良くなったの?
「仲良くっていうか、学校にいればふつーに話するなのよ。去年もいいんちょーだったから、けっこーお世話になったなのよ。今年もお世話になってるなのよ、『ちゃん』つけて呼ぶくらい、ふつーなのよ。」
なっ――。
え、じゃあもしかしてニカ、私以外に友達いるの!?
「学校でお話しするくらいの友達なら、ふつーにいるなのよ。」
で、でも!
私、ニカが学校で私以外と喋ってるとこ、あまり見ないわよ?
「そお?なのよ。うーん、普段はつぐみんがわたしを独占してるから、皆が遠慮してるだけなのよ、きっと。一人でいると、普通に話しかけてくれるなのよ。」
えー…。
そりゃ、たまには他の子とおしゃべりしてるとこ、目撃したりしてたけど…。
まさか、友達と言えるほどだったなんて。
ニカは私の仲間だと思ってたのに。
「仲間?つぐみんとは、しんゆーなのよ。外で遊ぶほど仲いいのは、つぐみんだけなのよ。」
ううう゛~…。
それは嬉しいけど、嬉しいんだけど――でもっ!
でもでもっ、前に友達いないって言ってなかった?
「うーん?わからないけど、たぶん言ってないなのよ。そんなことで嘘つく意味ないなのよ、きっとつぐみんの思い違いなのよ。ま、とにかくわたしの事はいいなのよ――よいしょっ。」
…むぅ。
言ってたと思うんだけどなぁ。
でも証拠ないし仕方ないか、諦めるしかないわ、録音しておけばよかった。
で、――それでよ、ニカ。
いそいそといつの間にか隣に来てるけど、もしかしてまた?
「うんなのよ。」
なんで最近そんなに、くっついてくるの?
私の事が大好きなの?
「好きなのよ。でも、つぐみんには負けるなのよ。わたしの事大好きすぎて、独占欲強すぎて、クラスのみんなに若干引かれてるつぐみんほどじゃないなのよ。」
ちょっと待って、初耳なんだけど!
聞き捨てならないこと言われたんだけど!
そんなことないし、事実無根よ!
――って、ん?じゃあなに?
クラスのみんなが私が居るとき、ニカに話しかけてこないのは――。
「つぐみんが怖いからなのよ。つぐみんが縄張りに入られた猫みたいに、シャーってなるからなのよ。」
そんな馬鹿なっ!
そんなことしないわよ!
しない…たぶんしない、わよ!
ねぇ、ニカ!しないわよね!?
「まあまあまあまあ、まあ本当の事はさておきなのよ。」
冗談じゃないの!?
「つぐみんは、こうされると迷惑なのよ?」
…。
…それは別に、迷惑…じゃないけど。
――むしろギューッとされるの嬉しいけど。
でも一応は抵抗の形を示しておかないと、私の沽券と言うか、威厳と言うか、なんというか…ねぇ?
さっきの、私の独占欲が強いとかいう話に真実味が出ても困るし。
そんなこと、さらさらないのに、…たぶん。
だから、抵抗――とまでは言わないけど、しぶしぶ、甘んじて…こう、ニカのぎゅーっを受け入れた体にしておかないと――じゃない?
というわけで、今日もいつもの聞いとかないとね。
…べ、別にギューッってするのは構わないけど、せめて理由くらい教えてくれたっていいのに。
「だから、内緒なのよ。まあ、魔法の実験中って事だけ、教えとくなのよ。成功したら答え言うなのよ。」
実験?
毎回、ギューッってする場所違うのも、その一環?
今日は首辺りだけど。
「そうなのよ、まだ成功してないなのよ。いろいろ試すなのよ。」
ふーん…。
よくわからないけど――まあいずれ教えてくれるなら急かさなくてもいっか。
今日も教えてくれないだろうと思ってたしね。
どーせきっと、どうでもいいようなこと考えてるんだろうけど、ニカが魔法を悪用するするわけないし、私に害があるようなこともするわけないし――。
うん、好きなようにさせておきましょう。
――で、それでなんだけど、ニカ。
「ふみゅ?」
来週は学校、来れるわよね?
「うん、頑張るなのよ。」
頑張って何とかなるもん?
「何とかするなのよ。そうしないと、つぐみん寂しくて死んじゃうなのよ。」
む、別に死にはしないわよ、寂しい…のは否定しないけど。
「あーつぐみんがデレたなのよ!これがほんとうのつんデレなのよ。」
むぅ。
「うふふー、なのよ。あ、今日はご飯一緒に食べてってなのよ、一応来週頑張るけど、無理だった時のために、ニカミンをしっかり補充しとくなのよ、つぐみん」
いや、ビタミンみたいに言われても…。
まあ、ちゃんと摂取しておくけども。
じゃあ、おかーさんに電話するから、ちょっと待ってて。
「分かったなのよ。」
――結局、お夕飯どころか、お泊りしてくことになったわ。
制服で来てたから、せめて一度帰りたかったんだけど――。
今日はニカが、いつも以上に私にべったりで離してくれなかったから、そのまま居座ることになったのよ。
いろいろと――服とか寝るとことかね、をニカから借りて、ニカに包まれた一晩を過ごすことになるわけ。
そんなわけだから、その日二度目の、おかーさんに電話をしたんだけど――。
『ニカちゃんと、しっかり思い出作ってくるのよー』だって。
ニカのおかーさんには『ごめんね、つぐみちゃん、ニカがわがまま言って。付き合ってくれてありがと。』って。
ニカのおとーさんにも似たようなこと言われたわ。
もちろん、こちらこそありがとうございます的な返事は返したんだけど…。
普通はOKするにしても、ちょっとくらい渋ったりするもんじゃないの?
なーんか、星を見に行ったあの日くらいから、親たちの連携が取れてる気がするのよね。
んー、うちの母が結構放任主義と言うのもあるから、一概にそうとは言えないけど――なんとなく?
ま、でも――どちらにせよニカと一緒にいられるんだから、私には願ったりかなったりなんだけどね。
ほら、今もニカが隣で寝てるし。
ふふふ。
じゃあ、私も眠りますか。
まさか、修学旅行の前にニカとお泊り会をすることになるとは思わなかったけどね。
ただのお泊り会ですらこんなに楽しいんだから、修学旅行だとどうなっちゃうのかしら。
ちょっと怖いくらいね。
ふふふふ、あと一か月。
修学旅行が今から待ち遠しいわ。
一緒に楽しもうね、ニカ。
おやすみ。
―続―
お疲れ様でした。
これは…、本当に終わりに近づいてるのだろうか。
終わりに近づいてきたからこそ、全話を加筆修正したのだけれども…あれ?
ま、まあ、きっと近いうちには終わりが見えてきます。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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すると次回は少し早く上がるかもしれません。




