幕間2
「それで――、願いは叶ったってこと…なのよね?」
手元から顔を上げたニカが、懐かしい語尾とともに首を傾げる。
逆光で少し翳った顔からは、表情はあまり読み取れないけれど、その声色には期待があふれていた。
「…そう、ね。そうなるわね。」
先月、ニカが家族とこっちに引っ越ししてきてから、私の家に来るのはもう二回目になるかしら。
本…と呼ぶのはやっぱり少し抵抗があるけれど――えーとまあ、とにかく、その本の続きを読みに行くから、って昨日連絡があったのよ。
前にニカが来た時の様子からすると、もう少し早く来ると思ってたけど…、時期が時期だし、いろいろと忙しかったのかも。
――まあとにかく。
そういうわけで、ニカをお迎えしようと、今日はおいしいお菓子と紅茶を、未だ出しっぱなしになっていたこたつの上に用意しておいたんだけど――。
春の日差しがちょうど心地いいからと、私のお気に入りのロッキングチェアをわざわざ隣の部屋からリビングの掃き出し窓へと引きずり、これまた私のお気に入りのブランケットを膝に乗せて、ニカはゆらりと揺られ始めたのだった。
そんなこんなで、今は読書の休憩とばかりに、ニカは私の返事の続きをスコーンをちぎりながら待っている――ってあれ?
いつのまにお茶とお菓子までサイドテーブルに?
ちゃかりしてるなぁ…。
「あ。そういえば、クロテッドクリームがあるんだったわ。」
思い出した、思い出した。
先日ノノちゃんから貰ったんだった。
なんでも、イギリスへ旅行に行ってきたとかなんとか。
だからそのお土産。
ちなみに、紅茶はマキちゃんから。
『つぐみ、そう言うの好きでしょ?』って、ありがたいわね。
「グロ・デッド・クリーム?なにそのホラーなクリーム。食べて大丈夫?」
「ク・ロ・テ・ッ・ド・クリーム。死体を使ったグロいクリームじゃないわ。まあ、日本で定期的に購入すると、死にそうなほどグロい金額にはなるけど。でも、スコーンにつけると美味しいわよ。」
あと、カロリーもグロい。
死にたくなるほどグロい。
…まあこれは黙っておきましょう。
「ふーん。食べてみる。」
「はいはい、ちょっと待っててね――よっこいしょ。」
ふぅ、そろそろこたつも片付けないとね、この暖かさは毎年名残惜しいけど。
ま、それはさておき。
クロテッドクリーム、クロテッドクリーム…、あ、ジャムもいるわね。
ブルーベリーしかないけど、まあ大丈夫でしょう。
あと小皿と、スプーン…よし。
「――はいどうぞ。」
「ありがと…。」
「それ、クロテッドクリーム。その願いが叶って出来たお友達から貰ったのよ。」
「へぇ…。」
聞いてるのか聞いてないのか…、生返事をするニカ。
さっきまでの興味は、もうクロテッドクリームの方に移ったようで、差し出された甘い誘惑に誘われるがままスコーンをまた一口分ちぎり、たっぷりとクリームをつけてから口へと運ぶ。
…初めて食べるだろうに、豪快にクリームのっけたわね。
さすがというか、なんというか。
「――っ!甘くて優しくておいしい!」
ぱっ、と見開いた目から顔中へと笑顔が広がる。
ニカが嬉しいと、私も嬉しいわ。
用意してよかった。
そんなニカの表情を見てると、当時の頃が鮮明によみがえってくるわね。
流れ星を見つけた時の、あの星たちよりも輝いてた笑顔が。
でも――今思えば、あの時ニカが思い描いてた通りになってたのね。
「ふふっ。まあでも、一番仲良くなったのはベガとだったわ。そもそも、アルタイルとデネブが仲良すぎたってのもあるけど。」
「ん?どういうこと?」
「んーん、こっちの話よ。とにかく、その友達とは今も仲良しって事。」
えー、って声がニカの顔から漏れてるけど…説明するのがめんどくさいから、気づいてない振りしましょう。
でも、高校の友達は一生の友達っていうのは本当なのね、今でもみんなとは交友あるもの。
特にノノとマキちゃんは毎週のように会ってる。
ありがたいことだわ。
あ、ナユは…うんまあ、ナユはナユよ。
今日は久々にマキちゃんと会ってるんじゃない?
ふふ。
「あ、ほら。そろそろ時間でしょ?3時に駅で待ち合わせって言ってなかった?」
「あ、ほんとだ。もうこんな時間。つぐみんに怒られちゃう。あ――。」
そこまで言ったニカが顔をぱんぱんと叩く。
「怒られちゃうなのよ!じゃあ、行ってくるなのよ!」
そう言いなおしたニカは、残りの紅茶を胃に流し込み、クロテッドクリームとスコーンを、皿からかけらひとつ余さず口に含んでから――。
「いってきまーっす。」
と、玄関を飛び出していったのだった。
「あらあら、慌ただしい。」
――時間は2時55分。
家から駅まではすぐだから、遅刻ってことはないでしょう、きっと。
ふふっ、それにしても――。
前回のニカとは大違いね。
ちゃんとお友達ができて良かったわ。
私は会ったことないけど、ニカと友達になってくれてありがとう。
そしてこれからもニカをよろしくね、つぐみんさん。
ニカが走り去った玄関に向けて、ぽつりとつぶやく私。
その響きに、少しの照れと懐かしさを覚えながら、リビングへと踵を返したのだった。
さて、と。
じゃあ、お片づけをしましょうか。
お疲れ様でした。
そして、お待たせしました。
まあそもそも、待っている方がいらっしゃるかどうかわかりませんが…。
それはさておき、そろそろ終盤に差し掛かってるので
いろいろ調整しながらの執筆になってます。
また、すこし遅くなることがあるかもしれませんが
ちゃんと最後まで書ききりますので、お付き合い頂けると嬉しいです。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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すると次回は少し早く上がるかもしれません。




