第四話 魔法少女遊びます!
私はつぐみ。星河つぐみ。
オシャレでも何でもない魔法少女よ。
もちろん、愛も甘酸っぱさも持ち合わせてないわ。
持ってるのはニカの方ね。
オシャレなのもニカ。
私は地味で目立たない服がいい。
悪目立ちはしたくないのよ。
ニカが悪目立ちしてるなんて、言いはしないけど――いや。
違う意味で目立ってる気がするわね。
まあ、それはさておき。
今日はパトロールという名目の、お散歩デート。
二カと仲良くなってから、大体週一ペースでしてるわね。
まあ「大体」だから、やらない周もあれば、週に2回する時もあるのよ。
曜日もバラバラだし。
特に何も決めてはないけど、何となくその場で決まる、そんな散歩よ。
――というわけで、日曜日の今日。
集合時間は、お昼の1時ね。
場所は麻芽駅前の、建設予定地と書かれたプレートの前。
近々工事が始まるって書いてあるけど、何作るのかしら、あそこ。
建物…にしては面積が狭すぎなのよね。
…まあそれはいいか、とにかく着ていく服を考えましょう。
平日だったら、制服のままで散歩することが多いんだけど――。
休日だと、オシャレしなきゃニカが怒るのよ。
めんどくさいったらありゃしないわ、どうしようかしら――って、あら?
あのおねーさんの服、いい感じじゃない?
少し止まってくれないかしら。
…って、いやいや、テレビの中の通行人に言っても仕方ないわよね。
魔法も使えないしね。
「過去」には使えないのよ、私の魔法。
これは、長らくの検証の結果ね。
テレビは、既に起こってしまった「過去」を流してるのよ。
私の魔法は「今」を止める魔法、たった一秒だけど。
過去を変える魔法じゃないの。
だからテレビは止められない。
たとえ生放送だとしても無理ね、あれも数秒遅れてるから。
ゲームだったら止められるのも、同じ理由。
ゲームはまさに「今」起こっていることだから。
だから止められる。
まあどちらにせよ、一秒通行人を止めたくらいじゃ、じっくり服なんて見られないか。
――さて。
服、こんなもんでいいかしら?
一応は、さっきの通行人を思い出しながら選んだけど…、大丈夫かな。
うーん、おかーさんの前を、わざとらしく通ってみましょう。
何かおかしかったら、口を挟んでくるわ、きっと――。
「あら?オシャレしてどこ行くの?って、あぁ。ニカちゃんね。」
大丈夫みたい、よかった。
ほらね、言った通り、口挟んできたでしょ?
って、そんなことより――ニカじゃないかもしれないじゃない。
彼氏かもしれないじゃない、失礼なおかーさんね。
「あら?彼氏欲しいの?」
ぐっ、このっ。
…分が悪いわ、逃げましょう。
それじゃあ、いってきます。
「合格っ!なのよ!」
顔を見るなりサムズアップで、判定されたわ。
ニカも大概失礼よね。
まあ、確かに今日もニカは可愛いかっこしてるけど、ゆるフワ系の。
それが私より少し低い身長と、少し幼い顔にぴったりマッチしてる…と、思う。
ファッションに自信ないから、言い切れはしないけど、私は好き。
もこっとしたおさげを、前に垂らしてるのも良きね。
えーっとつまりは、私には似合わなそうな服が、ニカはぴったりなのよ。
「そんなことないなのよ。きっとつぐみんも似合うなのよ。大人びた顔とのギャップが、大きいお友達の視線を釘付けなのよ。」
いや、それはあまりよろしくないでしょ。
かわいいのベクトルが、なんか違う気がするもの。
「でも、魔法少女らしいなのよ。」
そう言われれば…、そう…かも?
…いやいやいや、ないないないない、ありえないわ。
「まあとにかく、今日はちゃんとつぐみんもかわいいかわいいなのよ。合格なのよ。」
あ、ありがと…。
でも、もし不合格だったらどうなってたのかしら。
「散歩が無くなってたなのよ。つぐみん家でファッションショーなのよ。」
…。
助かったわ。
通行人のおねーさん、ありがとう。
「通行人?」
あー、えーっと…。
駅の前でずっと話すのもなんだし、歩きながら話すわ。
「――なるほどなのよ。」
家での自分の行動を説明するって、なんの拷問かしら。
嫌な汗かいちゃうわね。
公園まで、まだまだ距離あるのに。
それに引き換え、ニカは気楽そうね!
ペタン、ペタンって足音が聞こえそうなくらい陽気に歩くニカが、ちょっと憎たらしいわ。
「でも、つぐみん。それは先入観だと思うなのよ。」
先入観?おねーさんの服が気に入った事が?
「違う、なのよ。服はもう合格なのよ。わたしが言ってるのは魔法の事なのよ。」
魔法の?
どういう事?
「確かにテレビの中の通行人は止められないなのよ。でもテレビ自体はきっと止められる、なのよ。」
ん?テレビ自体?
テレビ自体…テレビ自体…、テレビ…、あっ!?
「そうなのよ。私もテレビ自体になら魔法つかえるなのよ。」
映像を、止めればよかったのね。
過去のおねーさんは止まらないけど、その映像は今流れてるんだ…。
…気づかなかった。
「そういうことなのよ。」
さすが魔法少女歴が長いだけあるわね。
両手で大きく丸を作る動作も、なんだか魔法少女アニメに出てくるかわいいヒロインみたいだわ。
「つぐみんも、もう半年なのよー。」
…。
もうそんなになるのか――あ。
そういえば、話変わるけど、ニカ。
「んにゃ?」
もうすぐ公園だけど、ニカは宿題やったのかしら。
ここ半年の復習だぞーって出された、あの、めんどくさい数学の宿題。
昨日、なかなかに大変だったのよね。
いつもの土曜日パトロールを、お休みしちゃうくらいに。
まあ、明日ニカとするから別にいいか、って気持ちもあったけど。
「やってないなのよ。それがどうしたなのよ。」
…。
やってない、か、それは残念だわ。
ニカ、不合格っ!
「な?なんなのよ!?不合格だと、どうなるなのよ?」
散歩が無くなって、ニカん家で宿題やります。
「なんでなのよ!?い、いやなのよ、いやなのよ!」
そんな全力で首降ってもダメだから。
あなた、ただでさえ休み多くて目立ってるんだから、宿題くらいやっておきなさい。
先生、いつも困った顔してるんだから。
困った人を助けるのが私たちなんじゃなかったっけ?
「…。うー、つぐみんが手取り足取り教えてくれるなら、やる、なのよ…。」
はいはい、わかりました、わかりましたよ。
わかりました、なのよ。
『まぁ、つぐみちゃん、いらっしゃい。ってあら、お出かけはどうしたの?』
こんにちは。ニカが宿題やってないって言うので。
『あらあら。ごめんね、つぐみちゃん。よろしく頼んじゃっていい?』
はい、任されます。
『う゛~…。』
30分程前に、玄関でそんなやり取りしたおかげかな。
今日はおばさんの差し入れが豪華で、少し得した気分♪
ショートケーキ好きなのよ。
私だって、女の子なんだから。
「最近じゃ、男の人もケーキが大好きなのよー…。」
うるさい。
揚げ足取ってないで、宿題やりなさい。
唇に乗せてるペンを、しゃきしゃき動かしなさい。
「う゛ー。」
最近って…、人を年寄りみたいに言わないでよ。
まだ中学二年生よ。
「あ゛~っ!この『=』ってなんなのよ!『a』と『b』が同じなわけないなのよ!別の文字なのよーっ!」
ありえないなのよ!って私に言われても。
そういうもんだから仕方ないじゃない、諦めて欲しい。
ニカも大変だろうけど、教えるの側も大変だわ。
まあ、夕方までじかんあるし、ゆっくりやりましょうか。
――ふふふ。
いい感じでゴール手前までこれた。
バナナガードもちゃんと完備してるし、ふふふ。
「――っ、よしなのよ。出来たなのよっ!わたしも全国の猛者と、レースするなのよ!」
あら?
思ったより早いわね。
じゃあ見せてもらおうかしら――って、あ!
ちょっと!トゲゾーはズルいわよ!もう少しで1位だったのに!もうっ!
「わたしもやるなのよ!この、プロフェッショナルなコントローラで参加なのよ!じゃーん!」
え?
いつの間にそんなの手に入れたの?
「前の誕生日に買ってもらったなのよ。」
あー、なるほど。
私はたしか、写真立てをあげたっけ、ほら、そこの鏡台の上に乗ってるアレ。
…ん?
なんか私とのツーショット写真が入ってるわ。
嬉しい反面、恥ずかしいわね。
…えーっと、まあ、それはともかく。
じゃあ、そのプロフェッショナルなコントローラ使って、全国の猛者を薙ぎ倒してて。
私はその間、ニカの宿題見るから。
「な、何でなのよ?一緒にレースで競い合うなのよ!」
だって、ニカ、すぐズルするじゃない。
ほら、たしかこの前も。
だから信用できないのよ。
「う゛。――で、でも今日はズルなんかしてないなのよ。そこまで言うなら、見ればいいなのよ。」
ふーん。
なんかやけに素直で、逆に妖しいわね。
ま、見せてもらいましょうか。
「数多の血液に染まった、甲羅をくらえー!なのよーっ!」
…言い方。
いや、ニカはとりあえず放っておいて、宿題見ましょう。
どれどれ――。
あら?ちゃんとできてるじゃない。
…まあ、正答率は見るに堪えないけど。
頑張ってる姿勢を見せれればいいわ。
うんうん、最後の問題もちゃんとしてあるし、よくできまし――あれ?
なに、これ。
ニカ!ちょっと!
「なんなのよ!今、1位なのよ!画面見えないなのよ!!」
画面じゃなくて、こっち見なさい。
最初の方と最後の方だけしかやってないじゃない!
中がスカスカじゃないの!
どおりで早いと思った。
「ば、バレたなのよ!」
むしろ、何故バレないと思ったのよ!
「数学!数学だけは無理なのよー!」
無理なのと、ズルするのは別の話でしょ!
罰として、デコピンの刑よっ!。
「いやなのよ!つぐみんのデコピン痛いなのよ!」
逃げても無駄よニカ!
こんな狭い部屋で逃げ切れるわけないじゃないの。
ほら、勝手に追い込まれてる。
「や、やめるなのよ!」
ふふふ。
親指と中指で輪っかを作るなんて、生温いわ。
右手全体で顔面を抑えて、左手で右手の中指を力いっぱい弾く。
これがいいのよ。
これをすると、ニカはいい声で哭くのよ。
ふふふっ。
「が、ガードするなのよっ!」
甘いわっ!
ニカっ!止まれ――っ!
「ああぁぁあ゛あっ!痛タイっ!痛タイなのよ!バチンってものすごい音したなのよ!絶対おでこわれたなのよ!ズルいなのよ!魔法使ったなのよーーっ!」
だって、ガードしようとするから。
だったら、ニカの動きを止めるしかないじゃない?
「じゃない?じゃないなのよーっ!ズルいなのよー!」
ニカの宿題よりはズルくないわよ、失礼な。
これに懲りたら、ちゃんとしなさい。
「う゛ー…わかった、なのょ…。」
――と、まあ、ニカとは大体いつもこんな感じ。
ニカといると楽しくって、おかげで学校まで楽しくなって…。
魔法が使えるようになったおかげで、こんなに幸せになれたのかな。
…いや、ニカのおかげね。
恥ずかしいから、ニカには言わないけど。
ふふ、でもほんと楽しいし…幸せ。
あーあ、こんなに楽しい時間なら、このままずっと止まってくれればいいのに。
でも私に止められるのは、たった一秒。
たった一秒楽しい時間を止めたって、なんの意味もない。
そもそも、「楽しい時間を止める」って可能かどうかすら分からないけど。
…はぁ。
それにしても、楽しい時間ってのはホント一瞬ね。
一秒より、ずっと短いわ。
たった一秒しか止められないのに、止めたい時間がそれより短いとか。
これって皮肉だと思わない?
―続―
はい、お疲れ様でした。
今日は少しだけ未来のお話。
皆様が気になってた…かもしれない、ニカちゃんが登場です。
思っていた予定よりは早めの登場になりましたが、まあ些細なことです。
でも、そのおかげで今回は明るいお話です。
ツグミちゃんも楽しそうで何よりですね。
では今回も最後までありがとうございました。
次回は…また一秒で出来るネタが思いついた頃に上げます。
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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。