第三十一話 魔法少女見上げます
私はつぐみ。星河つぐみ。
田舎に修行に来てないけど、魔法少女よ。
というか、東北地方に行ったことすらないわ。
それなのに、勝手なイメージだけで田舎呼ばわりなんてしたら、住んでる人たちに怒られるかもしれないけど――まあ、それはいいとして。
そんなことより、よ。
私は空なんて飛べないし、飛べる気もしないわ。
修行することで、魔法の力が強くなったりすればいいんだけど――。
魔法を使えようになってから大体1年、毎日魔法を使っても、その兆しすら見えないのよ。
いいなぁ、空飛ぶとか。
できるなら、私だって飛んでみたいわ。
だけどまあ、そんな私でも――。
空を飛べないどころか、ちょっと物を止めるので精いっぱいな私でも――、空を見上げるくらいはできるのよ。
田舎…と言ってもいいか微妙なところだけど、今まさに山の上で空を見上げてるわ。
隣町にある以前行った森林公園とは別の、私たちの住む町がなんとか遠くに見下ろせる、そんな近くの山の山頂公園でね。
ここは街中とは違って、辺りはすごく真っ暗で――。
その分、街中とは違って、空に星が満点に広がってて――。
そんな星たちを、今、ニカと二人で見上げてるってわけよ。
「つぐみん!つぐみん!!何時から?何時からなのよ!!」
いや、何時からって…。
時間なんてそもそもないわよ、たぶん。
私が知ってるのは、こと座流星群が4月の終わりごろに極大を迎えるってくらい。
一応、一番たくさん流星が見られる日が今日、ってのは調べたけど…。
どうやら、来て早々見つかるようなものでもないらしいわね。
まあ、運もあるのだろうけど…。
でも、もう少しだけ調べてみましょうか、幸いここ、電波あるし。
えーっと――。
極大時間が11時で…1時間に10個ほどが通例…だって。
「きょくだいじかん??――ねぇ、つぐみん、えすぱにょ~るじゃなくて、ジャパニーズでお願いするなのよ。」
じゃあまず、エスパニョールをジャパニーズにしてよ!
――って、そうじゃなくて!
私もよくわからないけど、説明されなくてもなんとなくわかるでしょう、極大時間!
察してよ!
「はっ!…たしかに、初めて聞いた言葉なのに、『極大時間』の意味、何となく分かるなのよ。すごいなのよ!これって魔法なのよ!」
人間だからよ。
魔法なわけないじゃない。
「そんなの分からないなのよ、魔法かもしれないなのよ!じゃあ、聞くなのよ、つぐみん。『タイム・スラッシュ』って何のことか分かるなのよ!?」
ええ?何?いきなり何!?
タイム…スラッシュ?
いや、分からない――というより、聞いたことすらないけど。
「ほーら、わからないなのよ!やっぱり魔法なのよ!聞いたことないの言葉の意味が分かる魔――。」
ニカが勝手に考えた、私の魔法の名前。
「ふにゃっ!?」
…。
…ニカが勝手に考えた、私の魔法の名前。
「…。」
あら、すごい表情。
月明りで照らされてるせいか、ちょっと怖いわよニカ。
いや、この場合月明りというより、星明りの方がいいわね、星を見に来てるんだし。
まあでも――まさか当たるなんてね。
私もびっくりだわ。
「つぐみちゃん、あったかいお茶買ってきたわ。二人でどうぞ。」
あ、はい。
ありがとうございます、いただきます。
「いえいえ、私たちは車にいるわね。ここ寒いもの。ニカをよろしくね。」
はい、わかりました。
よろしくされます。
――ん?
よろしくされます?
うーん…もう少しいい言い方あった気がするわ、反省。
まあ、でもニカのお母さんも気にしてないようだし、いっか。
あ、車の中からうちのおかーさんが手振ってる。
はいはい、振り返せばいいんでしょ?
わざわざライトこっち向けないでよ、もう…。
最初はニカの家に送ってくれるだけって言ってたのに、結局ここまでついてくるんだから。
でもま、大人同士の付き合いってのもあるのかもしれないし?
深くは突っ込まないでおきましょう。
「…な、ななな、何でわかったなのよ。まだ誰にも言ってないなのよ。なんでこんなの分かるなのよ。」
あ、おかえり、ニカ。
はい、お茶。
「あ、ありがとうなのよ。あったかいなのよ――じゃなくてっ!なのよっ!」
あ、こら!
ブランケットはだけるからっ!
暴れないで、おとなしくしてるっ!
「そんなことどうでもいいなのよ!なんでわかったなのよーーっ!!」
知らないわよ!
きっと魔法じゃない?
「何言ってるなのよ!そんな魔法、あるわけないなのよ!頭だいじょーぶなのよ?つぐみん!」
あーーー!
そんなの、わからないじゃない。
あるかもしれないでしょ?知らない言葉の意味が分かる魔法!
じゃあ、ニカ!『ニカの乱』って何か知ってる?
「う゛っ…。え…えっと――えーっと、わ、わたしの魔法につぐみんが勝手に名前を付けた…やつ、なのよ。」
ぶぶー。
正解は、ずっと昔、古代ローマでおきた反乱でした。
「そんなの分かるわけないなのよ!」
じゃあ、さっきの私のやつは魔法ね、ふふんっ――あっ、いたい。
ちょっと、ニカ、やめて、殴らないでよ。
…少しいじめすぎたかしら。
まさに今、時代を超えてニカの乱が日本で勃発してるわ。
『そもそも何でそんなこと知ってるなのよーーっ』って言われても…。
数日前に『ニカ』で、エゴサならぬ他人サしただけで…。
ついでに、さっきのあれも、自分と同じ名前の鳥の英名くらいさすがに知ってるってだけ…なんだけど。
まあ、内緒にしておきましょう。
その方がおもしろ――あっ!
流れ星…。
「へ?どこなのよ!」
いや、もう消えたけど。
一瞬だったもの。
「なーーーー!なんでつぐみん、魔法で止めといてくれないなのよ!!」
無理に決まってるじゃない、気づいた時にはもう流れ終わってるもの。
「役に立たない魔法なのよ!」
そんなのお互い分かり切ってることじゃない、もう。
そもそも、魔法が間に合ったとしても、多分使えないわ。
だって流れ星って確か、何年も前の光…だったわよね?
だから、私たちの魔法がテレビに映ってる人に使えないのと同じように、きっと流れ星にも使えないわ。
「ていうか、11時からじゃないなのよ?」
あ、そもそも極大時間をなんとなくで理解してくれてなかった。
あ、いやまあ…私もよく分かってないんだけど。
えーっと――。
多分だけど、一番多く流れ星が見られる時間が、今日の11時辺りってことでしょ?
流星群自体は数日前から来てて、流れ星はその間ならいつでも見られるってことじゃない?
数少ないけど。
「ふーん…なのよ。じゃあ、わたしも探すなのよ。」
ええ、そうしましょう。
折角来たんだもの。
「――ねぇ、つぐみん。」
なに?ニカ。
見つかったの?流れ星。
「まったく、なのよ。」
あら、ざんねん。
じゃあこっち見てないで、空見てなさいよ。
あ、ほら、今流れたわよ?
「なーーーっ!」
あれから本格的に流れ星探し始めて15分くらい?
その間、ずーっと空見っぱなし。
レジャーシート、持ってきてよかったわね。
もしベンチで見上げることになってたら、首が痛くて大変だったわ。
『一緒に寝転がって、流れ星探すなのよ!』って、ニカが言ってくれなかったらと思うと…。
うん、ゾッとする。
まあとにかく、そのおかげで二人仲良く並んで仰向けよ、仰向け。
仰向けで黙々と、今まで探してたのよ、流れ星。
その沈黙に、ニカが先に音を上げたってわけね。
勝者への商品は…そうね、素敵な流れ星ってところ?
「――むぅ、また見逃したなのよ。もう空から目を離さないなのよ。」
それがいいわ。
「でも、つぐみん。黙って探すのはさみしいなのよ。何かお話しするなのよ。」
ん?真っ暗で怖い?
最初は私たちだけだったこの公園も、いつのまにか数台車が増えてるし。
人がいる気配もそれなりにあるし。
仰向けにまでなってるのは、さすがに私たちだけだけどね。
まあだから、怖いってことは流石にないか。
「ん-…それでいいなのよ、怖いでいいなのよ。だからとりあえず、手、出すなのよ。」
もぉ、仕方ないなあ。
じゃあ、手貸してあげる代わりにニカが話題振ってね。
「わかったなのよ。うーん…じゃあ、デネブとアルタイルとベガってどれなのよ?」
へ?…いや、わからないけど。
えーっと、なんだっけ確か小学生で習った気が…、夏の大三角?だっけ?
よく覚えてたわね、そんなの。
「覚えてたっていうか、最近おばあちゃんに聞いたなのよ。まだ、見えないなのよ?」
うーん。
夏って言うくらいだから、まだなんじゃない?
「残念なのよ。」
言葉の割にはあまり残念そうじゃないけど、夏の大三角がどうかしたの?
「おばあちゃんに聞いてから、ずっともやもやしてるなのよ。アルタイルとベガが織姫と彦星なら、じゃあデネブは!?なんで仲間外れにするなのよ、つぐみん!!三人仲良く空に昇るのに、なんでなのよ!」
えー…。
私に言われても…。
「星河さんなんだから、なんとかするなのよ!!」
そんな無理やりルビ振られても、…無茶なお願いにもほどがあるわよ。
むしろそれ、私が織姫と彦星の邪魔してる説まであるじゃない。
腑に落ちないってこんな時に使う言葉?
いや、そもそも――よ、そもそも。
そもそも屁理屈なわけなんだから、腑に落ちるわけがないわ。
「だからなのよ。いつかつぐみんがデネブさんと仲良くしてあげるなのよ。」
だからなのよ、ってなに!?
――って、いやいやいや、ちょっと待って、…えーっと。
…。
うん、なんかごめん、ニカに話題振ってって言った私がバカだった。
「バカとは何なのよ!バカとは!」
バカなのは私よ!バカ!
「あー、バカって言ったなのよ!つぐみんのばかーーー!」
はいはい、ごめんごめん。
あー、それにしても、ほんとすごい星空。
30分以上眺めてるけど、全く飽きが来ないわ。
落ちてきそうってよく比喩されるけど、そんなんじゃ足りないわよ?実際。
星河さんもびっくりなくらい、天の川が見えるわよ。
…夜空って、こんなに色鮮やかだったのね。
本に載ってた通りの色彩が、上空で爆発したかのように、特大パノラマで降り注いでる。
正直、誇張表現かと思ってたわ本の写真、編集で盛ってるんじゃないかって。
なんでも疑ってかかる癖、少し反省。
「むぅ。じゃあ、つぐみんが話題振るなのよ。」
んー、そうなるか。
じゃあ、そうね…ニカは流れ星にお願いしないの?
「…びっくりなのよ。つぐみんはそんな迷信鼻で笑うタイプと思ってたなのよ。」
間違ってはないけど…、そう改めて言われると何か釈然としないわね。
少なくとも去年まではそうだったわよ。
今も、手放しでその迷信に乗っかれるほど純粋ではないけど。
…純粋な頃には戻れないけど。
でもニカのおかげで、最近はそうでもないのよ。
口に出すのは恥ずかしいから、代わりに手をギュッと握り返しておこう。
まあつまり――。
試してみるくらい――願ってみるくらい、してもいいと思えるようになったのよ、最近。
「ふーんなのよ。じゃあ、つぐみんが何願うのか教えてくれたら、わたしも教えるなのよ。」
うっ、そうくるのね。
…ちょっと待って、考える。
――と言っても、私の願いなんて一つしかないから、考えるまでもないんだけど。
そのまま伝えるのは…やっぱり恥ずかしいから嫌ね。
うーん、どうしましょうか――あ。
ニカと一緒に高校生になれますように、ね。
今年進級できないかと思ったもん、出席日数足りなくて。
「あー…実は先生に直談判に言ったなのよ。巧みな話術で交渉してきたなのよ。」
巧みな話術ってのは信じられないけど――。
え?じゃあ、ほんとに危なかったの?
「…嘘なのよ。呼び出されはしたけど、そもそも公立中学に留年はないなのよ。」
あ、そうなんだ。
じゃあ、受験さえ頑張れば来年から一緒に高校生ね、ニカ。
うん、それなら私の願いは叶いそう。
勉強は…私が見てあげるか。
あまり自信ないけど、なるべくなら一緒な学校に行きたいし。
二人で頑張ればきっと――。
「高校生になったら、つぐみんと結婚するなのよ。」
――は?
左手、空に透かして、いきなり何宣言しちゃってんのこの子。
「高校生になったら、つぐみんと結婚するなのよ。」
いや、聞こえなかったの『は?』じゃないんだけど!?
何?なんで二回も言っちゃってくれてんの?
どんな顔して言ってんの?
――って、えぇ…なんですました顔で、夜空見続けてんのよ…。
少しは照れながら言いなさいよ、もうっ!
「嫌なのよ?」
嫌じゃない――けどっ!
そんなの言葉に出来るわけないじゃない!
あーもう、どうしよう、えーっと――。
い、嫌とか、嫌じゃないとかの問題じゃないでしょ!?
「ならいいなのよ。結婚するなのよ。そしたらわたしたちは友達じゃなくなるなのよ。」
はぁ?
一体何言ってるの、ニカ。
まったくもって意味わからないわよ。
「そしたらつぐみん、友達いなくなるなのよ。だから新しい友達つくらないとなのよ。」
――どうしよう。
ほんとにもう、まったくもって、ニカについていけない。
要領を得ないというより、支離滅裂にしか聞こえないわ。
ふざけてる…としか思えないんだけど、でも当のニカは天を仰いだまま、こちらを見もしなくて――。
星に照らされたそのニカの横顔は、真剣そのもので――。
私の左手は、さっきより強く握られてて――。
…。
…はぁ。
時々遊びで、ニカの思考を魔法で止めて怒られたりするけど、きっと、その時のニカはこんな感じなのね。
見事に今、私の思考は止まってるわ、一秒以上もね。
今度自分にも試してみようかな、魔法。
「つまりね、つぐみん。わたしの願いは、つぐみんに私以外のお友達ができますように、なのよ――って、あ!!」
え?
今度は何!?
「流れた!流れたなのよ、つぐみん!」
へ?
「きっとわたしの願い叶うなのよ!よかったなのよ、つぐみん!」
いや…願い事って3回言わないとだめじゃなかったっけ?
「そんなこと言ってるから、万年ぼっちなのよ。」
むぅ。
――今の時刻は11時を少し回ったところ。
どうやら流星群はいつのまにか極大を迎えてたみたい。
それから30分ほどで、ニカと合わせて2,3個の流れ星を見つけたわ。
そういえばニカ、すごく流れ星探すのに集中してたのよね。
何しろ、一回も私の方向かなかったもの。
あの、何をしてても、すぐに途中で別の事をし始めるニカが、よ。
私でさえ何度か横目でニカをちらちら見てたのに。
その時見たニカの目は、星に照らされてキラキラ輝いて見えたわ。
あ、ちなみに、どうやら今年の流星群は流れ星の観測が通年より少なかったんだって。
その事は、まあ、少しは残念だけど…。
でも、結果的には流れ星見れたし。
それに、ニカとの思い出ができたし、そんなの些細なことだと思うのよ。
ね?
そうでしょ?
お疲れ様でした。
長いお話が続きましたね。
なので、次回少し遅れます。(筆者の休日に充てられます。)
もしかしたら、いつも通りに上がるかもしれません。
ゆっくりお待ちください。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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