第二十九話 魔法少女願います
私はつぐみ。星河つぐみ。
旅はしないけど、魔法少女よ。
魔女の資格なんて持ってないけどね。
まあ、仮にそんなものがあっても取れる自信なんて欠片もないし、べつに構わないけど。
わたしのこの魔法じゃ…ねぇ?
だから逆に――いや、逆というのは、この場合ちがうかな?
うーん…順当に?
そう、順当に自分の無力さを実感することは多いわ。
なにしろ、できることの方が少ないもの、私の魔法。
いくら意外と応用が利く、とはいっても限度があるのよ。
…今日は、そんなお話よ。
もちろん楽しい話にはならないから、覚悟しておいてね。
「物理、楽しいっす。選んでよかったっす。これもつぐみん先輩のおかげっす。」
そお?
てっきりナユは、物理全然わかんないっす~って、泣きついてくるキャラだと思ってたわ。
「私にどんなイメージ持ってるんすか!?…まあ、分からなくもないすけど。」
分からなくもないのね。
苦笑禁じ得ないわ。
でもま、他人が自分をどう捉えてるのかを理解できてるのは、いいことね。
私なんか、みんなにどう思われてるのか、皆目見当がつかないもん。
いっつも、実のない勝手な噂だけが独り歩きしてるのよね…はぁ。
まあ、それはさておき。
今日は水良江市のおっきなアーケード商店街。
私ん家の近くの『ザ・昔ながらな商店街』とは大違いの、すごく今風な商店街。
通りも大きいし、上には意匠の素敵なルーフがあるし、評判のチェーン店もたくさん入ってる、そんな商店街。
んー…でも、商店街って言うと、なんか響き的に古風に感じるわね。
じゃあ…。
ショッピングストリート!
そう、モダンなショッピングストリートにナユとお買い物ついでに、パトロール散歩に来てるわ。
――って、あれ?
横文字にしたのに、なんか余計に古臭い言い回しのような…。
気のせい?
「とにかく!ヤバいっすよ、運動量保存の法則!日常生活に使われすぎじゃないっすか!これ知ってから、草生え放題っす!」
そ、そう?
草生えるツボが私には分からないけど…。
まあ、理系を後悔されるよりはよかったわ。
別に私が自ずから勧めたことはないんだけどね、理系。
それでも、私に影響されたって言ってるんだから、それで喜んでもらえるなら嬉しいわ。
「で――っすね、つぐみん先輩。」
ん?どうしたの?
「あー…。歩きながらも何なんで、あ、ドトール入りましょうっす。服重いっすし。」
ええ、そうね。
私もちょうどそう思ってたわ。
確かにちょっと重いもの、この流行先取りの夏服たち。
店員に勧められるままにいろいろと買っちゃったけど、おおむね満足ね。
流行先取りなんだって、流行先取り!
…ん?
ちょっとまって、流行先取りって何?
先取っちゃってるじゃない。
じゃあ、まだ流行ってないんじゃん!
…。
なんか納得いかないけど、まあいいか、かわいい服だし。
ナユは『露出が足りないっす!肩出しましょっす、肩!』って言ってたけど。
…肩出すのって、裸にバスタオルと何が違うの?
ねぇ?
「ドトール着いたっすよ、あたし実は頼んでみたい物があったんすよ!」
そうなの?
ま、とりあえず列に並びましょう。
私は並びながら、何にするか考えるわ。
「しょぼーん…っす。」
ほ、ほら。
時代だから仕方ないじゃない、元気出して。
「ドトールのオレンジジュースは生絞りだから上手いぞ!って昨日パパが鼻高々に言ってたのに…。帰ったら、シめるっす。」
あははは…。
ドトールコーヒーに入ろうなんて、コーヒー苦手なナユが珍しいと思ったけど…。
なるほど、納得だわ。
まあでも結果は見てのとおり。
オレンジジュース頼んだら、紙パックから注がれて出されて意気消沈って感じね。
えーと、私も気になって携帯で軽く調べてみたんだけど。
そのサービスは、私たちが生まれたころにはもう終了してたみたい。
衛生的な問題らしいって書いてあるけど、詳しくは分からないわ。
とにかく時代の流れってことで、ナユには諦めてもらいましょう。
うん、コーヒーおいしい。
「ムカ着火ファイヤーっすよ、もうっ!十何年も前の情報をずっと更新しないとか、初老入ってきてるっす!絶対っす!」
ムカ着火ファイヤーって久々聞いた気がするわ。
もうそれ、お亡くなりになってる言葉よね?
「そんなことどうでもいいんすよ!」
おいしくないの?オレンジジュース。
「いや、おいしいっすけど。」
じゅるるるる、とオレンジ吸い上げつつ眉間を寄せるナユ。
ちょっとかわいい、じゃなくって――おほん。
美味しいなら、いいじゃない。
「ぴえん。」
で?なんの話?
「ほにゃ?」
いや、不思議そうな顔されても。
なんか私に話あるからドトール入ったんじゃないの?
「ああ、そうっす!そうっす!そうだったっす!つぐみん先輩の魔法の話っす!」
私の魔法?
「そうっす。一秒止める魔法っす。物理習ったから気づいたんすけど…。あれで止めた後って、再び動き出した物体に、加速がなくなくないっすか?」
…。
……。
………そうね。
よく気づいたわね、そんな細かいとこ。
「えへんっす。」
というか、気づかないで欲しかったわ。
だって、説明めんどくさいじゃない、ねえ?
…でもまあ、気づいちゃったのなら仕方ない。
説明するしか――、…ないわね。
えーと、じゃあ先ず、ナユが何を言ってるかなんだけど…うーん、むずかしいなぁ。
あー…たとえば、自転車の漕ぎ始めを想像してみて?
そう、サドルに腰かけて、ハンドル握りしめて…、そして利き足から、こう力を込めてみて?
――どお?
ほら、最初はゆっくりでしょ?
ゆっくりな走り出しから、だんだんと速くなったっでしょ?
それよ、それ。
つまり、ふつうの物体は止まった状態から力を加えられても、いきなりトップスピードにはならないのよ。
でも、私が魔法で止めたときは、そうじゃないってこと。
1秒止められた物体は、そのあと何事もなかったかのように止まる前と同じスピードで動き始めるのよ。
そのことを、ナユは加速がなくなくないっすか?って聞いてきたのね。
その表現が正しいかどうかは、ちょっと微妙なとこだけど――。
まあ、つまりはそういうこと。
あ。
でも、投げられた後のボールとかに魔法を使うと、ストンと下に落ちるのは変わらないわよ。
今回の話は、ドローンみたいな常に動き続けようとする力が加わってる物体の話ね。
で。
じゃあ、なんで加速部分が無いかって言ったら――。
「…つぐみんせんぱーい?」
え?ああ、ごめんごめん、考えこんじゃってたわ。
で、えーっと、その話の答えだけど――。
――。
…分からないわ。
「分からない?」
そう、分からないの。
なんで速度が落ちないのか分からない。
魔法だから――としか言えないわね。
「つぐみん先輩にしては、珍しいっすね。分からないとか。」
珍しくもなんともないわよ。
分からないことだらけよ、この力について。
「まあ、そうっすね。そもそもの話、魔法自体が物理法則を超えちゃってるっす。」
そういうことよ。
そもそも、つい最近だって初めて知ったことあるんだから。
「初めて知ったって、…魔法のことで、っすか?」
そうよ、もう4年も付き合ってるのに、よ。
それも先週の水曜の話。
…あんまり思い出したくない話だけど、そもそも聞いてて気持ちのいい話じゃないけど。
…魔法についての大事なことだし、少し聞いてくれる?
「もちろんっす。お願いするっす。」
うん、じゃあ、まず――。
私はつい最近まで、この一秒時を止める魔法で、人を殺せると思ってたのよ。
――これは、いつかナユに言わないといけないと思ってたこと。
でも結局、一年以上言えなかったこと。
そう――。
あの森林公園でニカと号泣したあの日。
ヘビの命を止めたあの瞬間の、あの恐怖の出来事を、まずはナユに伝えないと。
解決してから言うなんて、すごくズルい気はするんだけど――。
遅きに失し過ぎてる気しかしないけど――。
とにかく、その話を、まずはしましょう。
というのもね、ナユ。
これは3年ほど前の話なんだけど――。
「――ふーんっす。やっぱりつぐみん先輩の魔法ってすごいっすね。」
あ、あれ?反応薄くない?
結構話すのに勇気と覚悟がいったのに。
え?私、人殺せるかもしれなかったのよ?
もっと怖がるかと思ってたのに。
だからこそ、ずっと言えなかったのに。
「でも、もう解決してるんっすよね?」
う゛―…。
た、たぶん、確証はないけど…。
試すわけにもいかないし。
「なら、問題ないじゃないっすか。それに、つぐみん先輩になら殺されたって本望っすよ。」
いやいやいや、そこは『たとえ出来たとしても、つぐみん先輩はそんなことしないっす』とか励ますとこじゃないの?
「あはははは。」
あははじゃないわよ、もう。
打ち明けられなかった私が馬鹿みたいじゃない。
あーもう、とにかく。
もう少し話に時間かかりそうだから、コーヒーお代わりしてくるわ。
「私ココアがいいっす!」
はいはい、ちょっと待ってなさい。
――はい、どうぞ。
「ごちっす。」
奢るなんて一言も…。
はぁ、まあいいわ、ありがたく頂いて。
「わーいっす!つぐみん先輩大好きっす!」
はいはい、私も大好きよ――よいしょ。
ふう。
結構並んでたから、座ると気持ちいいわ。
ちょっと、足揉んでおきましょう。
ぐにぐに。
「おばさんくさいっすよ。」
350円になります。
「つ、つぐみん先輩は今日も素敵っす!オカピみたいで可愛いっす。」
はいはい――いや、オカピって。
他に例える動物なかったの?
まあ、いいか、ナユだし。
日常茶飯事すぎて、突っ込んだら負けみたいなもんよ。
で――、よ。
話の続きね。こっからが本題なんだけど。
「ああ、そうっす。まだ前置きだったっす。先週なんかあったんすか?」
そう、あったのよ。
さっきも言ったけど、あまり気持ちのいい内容じゃないから、軽くだけ話すわね。
「了解っす。」
ココアを飲みながらどうぞ。
私もコーヒー頂きながら話すわ、気が重いけど。
「分かったっす。甘いっす。」
じゃあ、話すわね。
…先週、一人で散歩してるときに、たまたま目撃しちゃったのよ。
「あー、春っすもんね。出るっすよね、大きかったっすか?」
いや、大きいって何よ!
出てないわよ、そんなヘンタイ!
「えー…いや、虫の話だったんすけど。…あーでも、不完全変態だったんすね、よかったっす。じゃあ目撃って、何だったすか?」
…。
何も良くないんだけど…言葉で言う代わりに頬を膨らませておこう、むぅ。
でも、おかげで気の重さも紛れたわ。
コーヒーの苦みで、その重さを流し込む手間が省けた。
…まあナユのことだから、それを分かっててお道化てくれたんだろうけど。
あいかわらず憎いことしてくれるわね、今日もそれに甘えておきましょう。
――さて。
じゃあ、浮いてた腰を再び落ち着かせて、と。
では、続きね、えーと――。
目撃したのは………いじめ現場よ。
小学生男子の、ね。
三人で一人を囲んでたわ。
「…。」
珍しい、ナユが口をへの字に曲げてる。
まあ、私も今同じ顔だろうけどね。
あ、ああ。
つづきね、つづき。
で――、よ。
そんな時に、私がすぐ間に入って止められたらよかったんだけど…。
そう簡単には踏み込めなくて――というか勇気がなくてね、情けないことに。
それで私が尻込みしてる間にいじめが…こう、どんどんエスカレートしていっちゃって。
最終的にいじめてた側の一人が、ちょっと大きめの石を拾って…ね。
流石にそれは見過ごせなかったから、その投げられた石を魔法で止めようとしたんだけど――。
「止まらなかったんすか?」
…そう。
止まらなかったのよ。
幸い、いじめられてた子は軽傷で済んだけどね。
「ん?それはどうしてわかる…って、ああ、つぐみん先輩っすもんね。」
私がどうとかってのは、よくわからないけど…。
まあお察しのとおりよ。
流石にこれ以上見てられなかったから、止めに入ったってだけ。
かなり…遅かったけど。
「でも、結局助けに入ったんすから、いいじゃないっすか。」
ナユなら、見た瞬間に助けに入ったんじゃない?
そしたら、石を投げられることもなかったわ。
「私っすか!?うーん…どうっすかねー、助けには入れたらカッコいいっすけど。うーん…実際その場にいないとわかんないっすね…。」
そんなこと言ってるけど、たぶんナユならそうしてると私は確信できる。
ナユは、そういう子なのよ。
いざ自分が被害にあいそうになると、尻込みするような私とは大違いね。
パトロールとか言いながら、偉そうに人を助けようとしてる自分が恥ずかしいわ。
――だからと言って、パトロールをやめるかって言われたら、そんなことはないんだけど。
まあ、とにかくよ。
その魔法で止められなかった石は、どうして止められなかったかってのを、ここ一週間ずっと考えてたのよ。
「なるっす。で、どうしてだったんすか?」
んー…たぶんだけど、つまり――。
動けって思ってる人が複数人いると、その思いに逆らって止めることは出来ないんじゃないかってこと。
だから、人の命も、その人を大事に思ってる人がいる限り、おそらく止められない――。
――と、思いたい。
「…なるほどっす。」
分かってるのか、分かってないのか、さっきとは違う意味で、神妙な顔ね。
私の説明を、頭で整理してるのかしら。
でもそれは、家に帰ってからゆっくりやってもらいましょう。
今日は、買い物以外にもう一つ予定してることがあるからね。
それは、何かって言うと――。
というわけで、ナユにはこの後実験に付き合ってもらいます。
「ほにゃ?」
さっきノノちゃんに、『ナユとドトールなう』って送ったら、『ユニバーーーーーーース激激!!!』って返ってきたわ。
「え!?めちゃキレてるじゃないすか!!キレ度MAXじゃないっすか!わたし、のん先輩に何かしたっすか!?」
あはは…。
まあ、とにかくノノちゃん来るから、実験しましょう。
名付けて『ボール投げた時に、二人が動けって思いつづけてたら、私は魔法で止められない説』よ。
「わ、わかったっす。とりあえず、私はのん先輩の機嫌取る方法を考えるっす。」
あははは。
――はい、ただいま。
今日もお疲れ様、私。
疲れたけど、二人の親友に囲まれて楽しかったわ。
その二人の仲は…、まあ今日の二人はまだうまくやってたわね。
…たぶん。
えーっと、それはとりあえず置いておいて、実験の結果だけど――。
予想通りよ。
とは言っても、サンプルがまだ2回だから何とも言えないけどね。
えーっとつまり、投げたボールを私は止められなかったってわけ。
うん、うまくいってホントに良かったわ。
これでうっかり私が人をヤってしまう可能性が減ったわけだし。
…もちろん、絶対ではないけど。
それでも今回の結果は、私が安心するに十分の結果だと思う。
これがあのいじめを目撃した結果だってのが、なんとも後味が悪いんだけど。
もうそれは割り切るしかないわね。
あ。
ちなみに、例のいじめられてた子を助けた後の話なんだけど。
…。
小学校に連絡したわ。
すぐに止められなかったっていう自己嫌悪が…酷くて、何かその子のために行動を起こさないと、その自己嫌悪に私が押しつぶされそうだったから。
幸い、私の出身校だったから、信頼できそうな先生に頼んだんだけど――。
つまりは、私が高学年のころ、親身に私を気遣ってくれた先生に。
――まあ、私がその先生に心を開くことは、終ぞなかったんだけど、ね。
今思うと、すごく申し訳ないわ。
で、その先生に、こんな時だけ――都合のいい時だけ頼ってるのよ。
傍若無人も甚だしい。
それに――、よ。
それにくわえて、その連絡が正しかったのかが不安でしょうがないのよ。
いじめが更にひどくなる結果になってたらどうしよう、って。
かといって、もう一度小学校に連絡なんて、私には出来ないし…。
はぁ…。
さっきの私の魔法の問題と違って、こっちの問題は割り切れないわ。
ほんと、生きるのってままならない。
はぁ…。
今日も寝られそうにない。
なら、せめてお願いをしておきましょう。
ほんとこれくらいしか、できることがないから。
だから――。
神様、せめてあの子を守るくらいの仕事はして下さい。
お疲れ様でした。
服の流行は、田舎から始まるとどこかで聞いたことがあります。
つまりは、企業は新しい服を田舎でまず売り出して様子を見るとかなんとか…。
それが正しいかどうか正直私は知りませんが、つぐみちゃん達が住んでる地域は
そこまで都会ではないという、そこはかとないメッセージです。
分かりにくいことこの上ないですが。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
是非とも評価、いいね、コメントをお寄せください。ブックマークもお願いします。
このページを下にスクロールして頂くと出来ると思います。
めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。




