シン玖佰話 友達
「え!?うそ?なんで!?」
席に着いたや否や、まだ腰が落ち着いてないだろうにつぐみんは、まるでタネがどこにもない手品を見たかのように、目と口を大きく開きながら驚きの声をあげた。
『驚愕』という言葉は、まさに今のつぐみんの状態を指すんだろうけど――、そんな表情はいつもクールなつぐみんには似合わないと思う。
せっかくの綺麗な顔が台無しだもん、記念に一枚残しておきたいくらいだ。
「ちょっと、ニカ!ねえ、コレ、どうなってんの!?」
そんな似合いもしない動揺を全く隠そうとせずに、つぐみんがそうわたしの目の前に突き出してきたのは、3個入りのマカロン、お値段350円。
小さなプラスチックのトレイできっちり綺麗に三つ並べられたそれは、透明な包装フィルムに包まれて、そっとレジの横で売られていたものに違いない。
そのマカロンを、さっきつぐみんがわたしと二人でコーヒーを購入する時に、ついでとばかりにひとつ取ってお会計を済ませたのだ。
あ、ちなみにわたしは、ショーケースに入っていたスコーンを頼んでいる。
横に添えたホイップクリームにハチミツをかけ、それをスコーンにつけて食べるのがたまらなく美味しいのだ。
ほんとはクロテッドクリームがいいんだけど…ないものは仕方ない。
グロいほどエグいカロリーを、少しだけ抑えられたと思っておこう。
「ちょっと、ニカ!聞いてるの!?なんでマカロンが1個無くなってるのかって、聞いてんのよ!?」
聞いてる、聞いてる、聞いてるけど――!
ちょっと落ち着いてほしい、まさかつぐみんがここまで動揺するとは思わなかった。
と、とにかく、その問いには首を横に振っておかないと。
「し、知らないなのよ!きっと最初から無かったなのよ、そうじゃないと有り得ないなのよ。」
「――っ!た、たしかに、ありえないけど…。」
わたしの暴論を、悔しながらに肯定するつぐみん。
今嚙み潰している虫は、きっとそのブラックコーヒーよりも苦いに違いない。
あ、ちなみのちなみに、私はカフェモカを頼んでいる。
かかっているチョコレートソースの甘味とコーヒーの苦みが絶妙にマッチして、わたしのお口を幸せにしてくれるから、よく飲む――のではなく、ただ単に名前が可愛かったから、一度飲んでみたかっただけ。
つまりは、これを飲むのは初めてで、思ったよりも苦くてビックリしてたりする。
名前からして、もっとかわいらしい味を想像したのに、全然大人な味なんだもん。
これはもう詐欺で間違いない、詐欺商品だ。
「詐欺なのはニカでしょ!?私は席立つ前に、ちゃんとマカロンが三つあるの見てるんだもの。」
「た、ただの思い違い、記憶違いなのよ。もしくは、さっきまでつぐみんが行ってたっていうお花畑から、妖精さんが遊びに来たのかもしれないのよ。」
「それこそ、あり得ないじゃない!私が行ってた場所は、ただのトイレ――ってそんなこと、ニカも分かってるでしょ!?」
「し、知らないなのよー…。わたしは親友の言う事は疑わない質なのよ。」
うーん、完全犯罪なはずなのに、なぜかつぐみんはわたしを疑ってる…おかしい。
なるべく、つぐみんと目を合わさないようにしとこう。
それでえーっと、何をこんなにつぐみんが騒いでるのかというと、もちろん今までの話で分かる通り、マカロンが一つなくなってたから、なのだけど――。
一つだけ情報を付け足しておくと、一つ減った三つセットのマカロンは、なんと未開封なのである。
ナイロンの包装には傷一つついてないのだ。
そりゃ、つぐみんじゃなくたって驚愕する。
「私は親友の言う事でも、疑う質なのだけれど?」
「な――っ!?」
なんとも酷い。
わたしはこんなにもつぐみんが大好きだって言うのに!
つぐみんなんか、私以外に友達いないくせに!
私のこと、大大、大好きなくせにっ!!
「と、友達くらい、いるもんっ。」
「えーー?あやしーなのよ。この夏休み、ずーっとわたしを遊びに誘ってきたなのよ。同じ学校に遊んでくれる子いないからなのよ。」
「で、できたのよっ!最近!」
「えー?」
「ってか、私の言う事は疑わないんじゃなかったの!?」
「冗談と嘘の区別くらいつくなのよ。」
「冗談って…酷い言われよう…。というか、そもそもニカが悪いのよ!水良江高校落ちるから!」
「それは…、ごめんなのよ。」
うぅ…、それを言われると、言い返せない。
わたしの居場所はつぐみんの隣って、そういう約束だったけど――。
水良江高校へ行くには、やっぱり学力が少し足りなくて…はぁ。
…言葉を返す代わりに、スコーンを少しちぎって、つぐみんのソーサーにちょこんと乗っける。
その件については、ほんとに申し訳ない。
「むぐ、まあ、それはもういいわ、むぐ、仕方ないもの。こうやって、一緒に遊んでくれるしね。」
乗っけたスコーンをすぐさま取って腕をぐんと私の前に伸ばしたつぐみんは、ホイップクリームをこれでもかとスコーンに乗っけて口に含み、もぐもぐと恩赦を言い渡してくれた。
ああっ!さすがにホイップクリームつけすぎ――いや何でもないです、お納めください、胃の中に。
「――って、そうじゃなくって!マカロンよ、マカロン!こんなことできるのニカしかいないでしょ!?」
「へ?そ、その話はもう終わったなのよ!」
「終わってないわよ、話逸らされただけ!」
「つぐみんが勝手に逸れたなのよ!」
むぅ。
このまま、なし崩し的になあなあになって、丸く収まるかと思ったのに…、どうも問屋がそうは卸してくれないらしい。
――で、でも!
そう、でもまだ、わたしの密室トリックは崩されてないんだから、だいじょーぶ…な、はず。
「と、とにかく。いくら凄くて凄いわたしでも、包装を破らずにマカロンを取り出すなんて無理なのよ。」
そうなのよ、そうなのよ。
包装の端のギザギザからビリっと破らずに、もしくは、そのギザギザ部分の接着をベリっと剥がさずに、中からマカロンを取り出すなんて、誰にもできっこない。
ましてや、店に売られていたものなんだから、手品師だってお手上げなはずだ。
「…魔法。」
「う゛っ。」
つぐみんの綺麗なお口からボソッとこぼれたファンタジーが、見事に確信を突く。
「ニカ、壁が横にあったら、魔法がそもそも発動しないって話じゃなかった?」
「そ、そうなのよ。」
それは間違ってない。
わたしの魔法で、物が何かに食い込んだり、混ざり合ったりは絶対にしない。
「逆に言えば、そうでない場合は―――――魔法が使える。」
「え、えーっと…、…なのよ。」
や、やばば。
私の親友はどうやら、灰色の脳細胞を持ってるっぽい、さすが水良江高校に受かるだけある。
「つまり、動かし終わったマカロンが包装フィルムに重ならない位置なら、魔法が発動できるってわけね。」
「Q.E.D…なのよ。」
しょぼーん。
たぶんだけど、私は今おそらく、あの有名な顔文字とおんなじ顔してるに違いない。
はぁ…つまりはそう、つぐみんの言う通り。
わたしは物を動かす魔法を使って、マカロンを包装の中から外へと移動させたのである。
だからこそ、包装を破らずにマカロンを取り出せたのだ。
「はぁ…で?いつ知ったのそれ?」
「先週なのよ。」
「えー。もっとはやく教えてくれても良かったのに。」
「私もビックリしたなのよ。こんなことできないと思ってたし、そもそもそう言われたし…。だから、つぐみんもビックリさせてあげたかったなのよ。…タイミングを見計らってたなのよ。」
でも、まさかこんなに早くバレるなんて。
今日、待ち合わせしてから今まで、ずっと使えるタイミングを見計らってたのに。
苦労したのに。
なかなかに残念極まりない。
「ビックリなら十分したわよ。…ドッキリ成功よ、成功。」
「そお?なら、よかったなのよ。」
言われてみれば、確かに相当ビックリしてた。
なんか途中から、犯行がバレないようにと、そっちにばかり躍起になってたせいで忘れてたけど、あんなつぐみん見たのは確かに初めてだ。
そもそも、バレる前提の計画だったんだった。
そうだった、そうだった。
「で、ニカ。その動かしたマカロンは、ニカのお腹の中に消えたの?」
にっこり笑うつぐみんが、何言いたいか分かるわよね?と、そのまま凄んでくる。
だから私は、またスコーンをちぎって、つぐみんのソーサーにちょこんと乗っける。
今度は結構大きめに。
「うむ、よろしい。」
そう嬉しそうに頷いたつぐみんは、またホイップクリームをこれでもかとスコーンに乗っける。
ん?あ、あれ?
それぞれのお菓子を半分こずつにするのは、それはいつものことだから全然いいんだけど――。
「あー、ちょっと!私の分のホイップクリームなくなったなのよ!」
「びっくりして縮んだ、私の寿命の分よ。安いもんでしょ。」
…むぅ。
自分の唇が尖っていくのが分かる。
もおっ、頬だって膨らませてやるんだから。
「そんなことより――、さっきの話だけど。」
「さっき?」
ホイップクリームをそんなこと呼ばわりしてまで、話さないといけない話って何?
「ぷひー。」
むくれ続けていたら、頬を人差し指で潰された。
鬼畜つぐみんめ。
「ほら、頬膨らませてないで聞いてよ。」
「なに、なのよ?」
「友達…の話よ。」
「え?アレ冗談じゃなかったなのよ?」
「いや、まだ友達かどうか分からないんだけど――。ほら、うちの学校、水祭が近いじゃない?それで出し物何がいいかって、私ホームルームで当てられちゃって。」
「それで、合成写真館って答えたなのよ?」
「…う、うん。他に、思いつかなくて、とっさに。って、笑わないでよ!」
「うふふ、なのよ。」
それは流石に笑うしかない。
笑うなと言う方が無理な話だ、ふふふ。
「それで、そのまま流れでそれに決まっちゃって、ね。」
「で、ホームルーム終わった後、いい意見だったって話しかけられたなのよ?」
「う、…うん。」
「あはははははははは。」
「こんど、遊びに行こうって。4人で。」
「あはははは。じゃあ、その時に着る服見に行かないとなのよ、あはは。」
「ちょっと、笑いすぎでしょ、ニカ。」
「つぐみんだって、笑ってるなのよ。とりあえず、この後、服見に行くなのよ。」
ほんとはこの後、かわいい雑貨を見に行こうと提案するつもりだったんだけど――。
こんなこと聞かされたら、そっちを優先するしかない。
だって、あのつぐみんにわたし以外の友達が出来たんだもん。
そりゃ、ちょっとは寂しくもあるけど――。
でも、ずっと心配してたつぐみんの高校生活に、ようやくアオハルが来るかもしれないんだからね。
「はやくコーヒー飲んで見に行くなのよ。」
そう言いつつ、お腹に流し込んだカフェモカは、今の私の感情のように、甘さとほろ苦さが混ぜ合わさった味がした。
「ちょっと、そんな慌てなくてもいいじゃない、ニカ。」
慌てなくてもいいけど、嬉しさが溢れて自分を止められないんだから仕方ない。
ふふふふふ。
このニヤけちゃう顔も全く抑えられる気はしないけど、とりあえずお礼だけは言っておかないと。
つぐみんに友達を作ってくれて、ありがとう、おばあちゃん!
―続―
お疲れ様でした。
今回のお話は、40部分くらい書いた後に、急遽さし挟んだものになります。
本小説の大幅な修正を2か月ほどかけて行った後に、この話はさきに入れておきたいなと
そう思った次第です。
いろいろと謎な部分が多いかもしれませんが、そこを予想しながら読んでいただければと思います。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。




