第二十一話 魔法少女デレます
私はつぐみ。星河つぐみ。
どこにもおじゃましない魔法少女よ。
というか、あのシリーズのどこに『おじゃま』要素があったのか教えて欲しいわ。
語呂の良さで押し切ってない?
――いや、そんな事はどうでも良いのよ、本題はこっち。
今日はいつものパトロール日、なんだけど…。
昨日、その日課に少しおじゃまさせてと、申し込みがあったのよ。
この春に転校してきた女の子から、ね。
普段の私だったら、玉虫色の返答で、やんわりとお断り的な雰囲気を醸し出し、緩やかにフェードアウトする作戦をとってたと思うんだけど――。
今回ばかりは流石にと、二つ返事でOKしたのよ。
つまり、それほど私も彼女のことが気になってたって事。
でもね、その時に場所を指定されちゃったのよ、『麻女中央公園にして欲しいなのよ』だって。
あそこって、私ん家から自転車で20分くらいかかるのよね。
おじゃまさせて貰う側なのに、中々に図々しい申し出だと思わない?
まあでも――、私はほぼ初会話の相手からの提案を袖に出来るほど、人生経験豊富じゃないし。
それに、たまには新しい場所で散歩を、ってちょうど思ってたところだしね。
いい機会だから、と承諾したわ。
というわけで、今日はちょっと遠出よ。
気合入れていきましょうか。
「――つぐみんは、いつもこんな事をしてるなのよ?」
つぐみん…。
今日、公園で待ち合わせしてから、こうしてベンチで休むまでの間、ずっとそう呼ばれ続けてるけど――。
まだ全然慣れないわね、その呼ばれ方。
紺野さん、どうにかならないの?
「ならないなのよ、つぐみんはつぐみんなのよ。私は早くつぐみんと仲良くなりたいなのよ。」
はぁ…。
なんでそんな急ぐのよ、ゆっくりお近づきになればいいじゃない。
それに、よ。
そもそも、初めて会話する相手を、いきなりあだ名で呼ぶ?
呼ばないわよね、普通。
そりゃもしかしたら、友達がたくさんいらっしゃる『陽』の者たちの中では、常識的な行動なのかもしれないけど…。
少なくとも、私というデバイスにはインプットされてない機能なのは――うん、間違いないわね。
まさか昨日、パイの実を一秒止めただけで、こんな事態になるとは、夢にも思わなかった。
ほんと独特な距離の詰め方よね、なんか少しバツが悪いわ。
――でも、よ。
『わたしも魔法を使えるなのよ』って、紺野さんが言ったのよ?
だったら、そんなの無理矢理でも二の次にするしかないじゃない。
『つぐみん』呼びも、…まあ仕方ないわ、甘んじて受け入れるわよ。
私以外の魔法少女の存在の方が、全然大事だものね。
――で、紺野さん、何の話だっけ?
こんな事…って、パトロールのこと?
「ニ、カ!そう呼んで欲しいなのよ。」
えーと…、まあ、おいおい、ね。
おいおい。
だから、そんな詰め寄ってこないで。
「むぅ…まあいいなのよ。そう、パトロールなのよ。なんでやってるなのよ。」
なんでって聞かれてもねぇ。
うーん…、魔法が使えるようになったから?…かな。
それ以外に、答えようがないわね。
「魔法が使えるようになったら、パトロールすることにした。…繋がらないなのよ、私も首を傾げちゃうなのよ。」
そんなこと言われても。
うーん…、そうねぇ。
せっかく不思議な力が使えるのだから、人のために使おう…かと?
そんな感じ?
「聖人君主なのよ。」
聖人君子、ね。
私は別に聖人君子のつもりはないけど。
「細かいなのよ、つぐみん…。」
あはは…。
笑ってごまかしておきましょう、上手く会話のキャッチボールができるほど、まだ紺野さんと仲良くなってないもの。
――それにしても紺野さん、すっごい喋るわね。
公園で合流してから、ずっとこんな感じよ?
まあ、個人的には話題を振るのが得意じゃないから、正直助かってるっちゃ助かってるけどね。
同年代の子と話すなんて、すごく久しぶりな気もするし。
だからすごく助かってはいるんだけど…、その代わりの質問攻めってのも、中々にきついわ。
いや、合流直後は、当初の目的のパトロールをしながらの世間話みたいなものだったのよ。
例えば昨日の見た動画が面白かったーとか、そんな感じの。
けど、今日も平和な我が町を見届けた後からは――。
歩き疲れて、休憩がてらこのベンチに二人腰かけてからは、まあご覧のとおりよ。
魔法の話は、私としても願ったりかなったりなんだけど、私は紺野さんの魔法の事が知りたいのよね。
まあでも、もう少しだけ紺野さんの質問に付き合ってあげようかな。
向こうも気になってるだろうしね、私のことが――、私の魔法のことが、ね。
別に、私が聖人君子だからと言うつもりは全くないけど。
それは紺野さんが勝手に言ってるだけだし。
それに、本気でそう言ってるんじゃないと思うし――おほん、そんなことより会話続けましょうか。
じゃあ逆に聞くけど、紺野さんはどういう風に魔法を使ってるの?
「わたしは自分の為なのよ。体の弱いわたしに、神様が贈り物をくれたとそう思ったなのよ。だから、好きなように使ってるなのよ。」
そう…体弱かったの、紺野さん。
なんか隣の席が寂しい時が多いと思ってたら――、なるほど、そういう事だったのね。
納得。
「でも、魔法が使えるの、わたしだけじゃなかったなのよ。」
私も自分だけだと思ってたわ。
「正直、自分だけの特別な力と思ってたから、ちょっと残念と思ったなのよ。」
それも…、私と同じね。
恥ずかしいことに。
いや、紺野さんと同じ発想が恥ずかしいって意味じゃなくてね。
そんな小さい考えを持つ自分が、って意味よ。
「でも実は、初めてつぐみんを見た時にピンとくるものがあったなのよ。だから、お友達になりたかったなのよ。機を伺ってたなのよ。」
ピンと来るもの?
初めてって、席が隣になった時から?
「そうなのよ。転校初日のことなのよ。」
…ふーん?
…。
……え?
これって、なんて返すのが正解?
『そう言ってくれて、嬉しいわ!』とか?
『実は私もそう思ってたの!』と…か?
いやいやいや、ないわよね、ないない。
だって、実際そう思ってないもの、何ならむしろ、ちょっと重く感じてるくらいよ。
というか、ピンとくるものって何!?
私は全然ピンと来てなかったんだけど!?
あー…でも――。
『神様が贈り物――』とか、どうとか言うのは、うん、分かるわ。
えーと、つまりね。
ピンと来たかどうかはさておき、私もこの魔法の力を神様からのお情けだと思ってたから、紺野さんとおんなじかもね。
「おんなじなのよ!!」
――おんなじ。
いや、正確には違うかな。
『贈り物』と受け取る紺野さんと、『お情け』と拾い上げる私。
根本的なところで、私と紺野さんは違う。
そもそも、他人の為に魔法を使おうと思った私と、自分の為に使おうと思った紺野さん。
そこからして全然違うわ。
『私の方が正しい』と大手を振って言いたいところだけど…。
そんなの、どちらが正しいかなんて、決められるものじゃないものね。
世の中って、そういうもので溢れてるでしょ?
ほら例えば、新しいパートナーを求めたお母さんと、お父さんの思い出を無くしたくなかった私。
結局どちらも正しくて――、そしてどちらも正しくなかったと思ってるもの。
今でもまだ、全然割り切れてないし。
まだお父さん…とは、ぎこちないし。
…といっても、去年よりは大分マシだけどね。
――ふふっ。
こんな経験してるからかしら、クラスメイト達が子供にしか見えないのよ。
みんなは笑顔で十何年も生きてこられたんだろうな、って。
大切なものを失くしたことなんてないんだろうな、って。
だから。
だから、そんな子達と友達になろうなんて心の余裕は、私にはない。
自分のことで手一杯よ。
そんなわけで、残念だけど紺野さんとも仲良くなれそうもないわ。
紺野さんは――、きっと私より恵まれているもの。
…あーあ。
あの芝生の女の子がうらやましいわ。
片手に風船、片手にパパ。
咲き散らかした笑顔が、夕日よりも眩しいじゃない。
ねぇ?
「――っ!その顔なのよ!」
へ?
「その悟りきった顔!そんな顔でずっと本を読んでるつぐみんだから、友達になりたかったなのよ!」
何言ってるのかしら、この子。
どうやったら、私の顔からその思考に至るの?
「わたしも、おんなじだったなのよ!だから、一緒に頑張るなのよ!」
ちょっと紺野さん?
さっきから何言って――。
「あ!つぐみん、あれ!」
え?
あーもう、騒がしい子ね。
全然ついていけないじゃない!
さっきの親子がどうしたっての?
――って、あっ!!
「早く止めてあげる、なのよ!」
う、うんっ!
風船、止まれ――っ!
――あ!
だめだ、遅かった!
パパが思い切り手を伸ばしたけど、でもギリギリ届いてないっ!
「諦めないなのよっ!」
――え?
紺野さんの言葉に応えたかのように、あきらめずにもう一度ジャンプしたパパの手が、風船を掴まえ…た?
えーと…、どういう、事?
ふつう二度目のジャンプは間に合わないわよね、風船の上昇速度に。
という事は――風船が1秒を超えて止まった…、ってこと?
いや、違う。
さっき感じた、あの変な感じ――なるほど、これか。
紺野さんも、あの感じというか、あの感覚で私が魔法使ったことに昨日気付いたのね。
空間のような物理法則のような、いうなれば、この世を絶対的に支配している法則が捻じ曲げられたような――。
そんな、なんとも言えない、うにょ~んって感覚。
うん、おそらく紺野さんが魔法を使ったんだと思う。
「どう?なのよ。二人で魔法を使ったから、風船にパパが間に合ったなのよ。」
そう、ね。
ありがとう、紺野さん。
「別にお礼を言われたいわけじゃないのよ。助けられるから助けるだけなのよ。自己満足なのよ。」
うん?
「えーと、だから。わたしは、わたしのしたいように魔法を使ってるなのよ。今回はあの子の泣き顔が見たくなかったから、魔法で助けたなのよ。」
ああ。
「そもそもなのよ。つぐみんにお礼を言われる筋合いはないなのよ。二人の力であの子を助けたんだから、ここは喜びを分かち合うなのよ。」
なるほど、そう言う事か。
――いや、紺野さんはそういう子なのか。
「あー、えーと…、違うなのよ。いや、違わないけど、違うなのよ。わたしはつぐんみんに、そう言う事を言いたいんじゃないなのよ。つまり、んーと…、つぐみんにはそんな世界を呪ってる様な顔しないで、もっと自分の為にも…というか、今を楽しむためにも魔法を使って欲しいなのよ。うまく言えないけど。そうじゃないと、もったいない…なのよ。」
うん。
――前言撤回ね。
とても仲良くなれそうな気がしてきたわ、だから――。
わかったわ、ニカ。
「つ…、つぐみん!今日から、私たち親友なのよっ!!」
え?親友?
えーと…、と、友達からで、お願いします。
「もうっ!つぐみん、ノリ悪いなのよ!!」
――それから、頬を膨らませたニカとしばらく戯れたのち、解散となったわ。
あんまり遅くなると、親が心配するんだって。
…と言っても、それほど遅い時間でもなかったんだけどね。
でも、よくは分からないけど――。
ニカが今日話してた感じからすると、ニカにも何か特殊な事情がある感じよね。
事情は人それぞれ、ってことかしら。
だから、それはとりあえず置いておきましょう。
考えても分からないしね。
そんなことよりも、ニカが良い子だって分かったことの方が大切よ。
相手の幸せが自分の幸せにつながる、そんな優しい子。
私がそんな子と親友――はさておき、友達になっていいのかしら。
お父さんを亡くしてから、良い子であるよう努めた偽物のこんな私が。
でも――。
『もっと自分の為にも、…というか、今を楽しむためにも魔法を使って欲しいなのよ』か…。
ニカが言ってくれたその言葉が、今も胸に響いていて――。
親友と言ってくれた時の、嬉しかったあの気持ちが心で反芻して――。
ニカをもっと知りたいと、もっと一緒にいたいと、どうやら私はそう思ってるらしいのよ。
――うん。
だから、もう少し前向きに生きてみましょう。
ありがとね、ニカ。
――って、あ。
ニカの魔法の内容聞くの、すっかり忘れてたわ。
―続―
お疲れ様でした。
21話目にして、ようやくニカと仲良くなりました。
長かったですね。
というのも、そもそもこの話の魔法の使い方はシリーズの執筆始めたころから
なんとなく考えてたことなんです。
ただ、なんというか…、うまくお話とつながらないなー、とかなんとか思ってたわけでして。
気が付いたら20話もの時間がたっていました。
ちゃんと書けてるかは甚だ怪しいですが、でも書けたには書けたので
少し安心している今日この頃です。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回もお待ちしています。
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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします
すると次回は少し早く上がるかもしれません。




