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でぃあ魔法少女【完結】  作者: 煮木 倫太郎
20/63

シン零話 出逢い


「うー、緊張する…。」

 『2-2』という札が刺さった扉の前で、私は一人両手をこすり合わせている。

 ここまで一緒に来た嬉野先生は――「呼んだら出てきてね」と私を置き去りに、一人先に教室へと入ってしまっていた。

 少しでも心を落ち着かせようと、空気を肺いっぱいに吸い込んでみるけど――。

 残念ながら何の効果も得られそうにない。

 むしろ、さっきよりも心臓の鼓動が大きくなってる、まである。

「はぁ…。」

 私は早々に平静を取り戻すことを諦め、今さっき吸い込んだばかりの空気を肺から吐き出すと、その吐息には、情けないほどに重苦しい不安が乗っかっていた。

 その、無意識に漏れ出てしまった声に、自分自身で驚き、その事実がまた鼓動をトクトクと早めてしまう。

 あぁ、悪循環だ。

 まさか転校がこれ程緊張するものだなんて、ほんと予想以上だ。

 それに加えて、あと数十秒で呼ばれるだろう事を考えると、否が応でも手足まで震えてしまう。

「扉…、開けたくないなぁ。」

 開けた瞬間、やっぱりみんな見てくるよね。

 転校生だもんね、気にならないわけがないよね。

 そんな視線にハチの巣にされながら、壇上まで歩く自信なんてないよ…。

「あーダメだ。考えすぎ、良くない。」

 両の掌で頬を軽く張り、気合を入れるそぶりをする私。

 うん、少しだけ緊張がほぐれた気がする。

 ――気がする、事にする。

 そもそも、簡単な事のはずなんだ。

 歩いて、名前を書いて、振り向いて、名前を言って、お辞儀と共に、よろしくお願いします。

 ただそれだけ。

 そう、ただそれだけなんだけど――。

 …はぁ。

 全国の学校で転校してきた子達は、この緊張をどう乗り越えたのだろうか。

 先人たちに敬意を表したい。

 というか、こういう時のハウツー本をどうして先人たちは残してくれないんだろう。

 種の保存すればいいってもんじゃないでしょう!

 こういう状況の対処方法も後世に残しての、進化なんじゃないの!?もうっ!

 ぐるぐるぐるぐる――。

「じゃあ、入ってきてくれる?」

 と、思考が巡りに巡った頃、とうとう嬉野先生から声がかかってしまった。

 私は、巡りに巡り続けて迷子になった思考を振り払うように、ぶんぶんと頭を振ってから、一つ小さく息を吐き出し、目の前の扉に手をかけたのだった。

 

 ――そもそも、話は三か月ほど前に遡る。

 したくもない転校をしなければいけなくなったのは、年が明けて、寒さがピークを迎えた時期だった。

 そんなある日の、いつもより少し遅い時間帯にママと2人夕食を食べ終えた頃、パパの声が玄関から聞こえた。

 今思えば、その日の「ただいま」は、いつもより少しトーンが低かったように思える。

 とにかく、そのトーンと同じく浮かない顔でリビングに入ってきたパパは、ネクタイを外すことなく、まっすぐキッチンテーブルの自分の指定席に着いた。

 その普段とは違う行動に、私はママと二人顔を見合わせ、お互い目をパチクりさせる。

 どうやら、ママも心当たりがないようだ。

 パパから漏れ出る不穏なる空気に、私たちの(すく)めた肩が委縮へと変わっていく中で、沈黙だけが堂々と幅を利かせていく。

 その嫌な雰囲気をどうにか変えようと、私は会話を試みたけど、こんな時に限って何も話題が思いつかない。

 あぁもう!じれったいっ!

 そう自分の無力さに心の中で悪態をついた頃、代わりにママがそのふんぞり返った沈黙を破り、パパに何かあったのかと尋ねた。

 すると、パパはひと言――。

 『転勤することになった。』

 と、そう私たちに告げたのだった。

 ――ま、取るに足らない、世界にありふれた出来事。

 ここまでもったいぶって話すことでもない、そんな話。

 もちろんその時私は駄々をこねたけど、こねるだけこねたけど、こねくりまわしたけど――、どうしようもない事なのは理解していた。

 私が折れるしか選択肢がない。

 友達と別れるのはとても寂しいけれど――、どうしようもない。

 ただ一つ、転校先の麻芽(あさめ)町には大好きなおばあちゃんが住んでるって事が、唯一の救いで――。

 野間中学でみんなに見送られた私は、そんなこんなでこの春から、この麻芽中学に通うことになったのだった。


 ――まったく、恨むからね、パパ。

 そんな走馬灯のような回想を一瞬でしたわけではないけれど、扉を開く直前に溢したのは言葉は、こんな緊張を背負う原因となった、パパへの恨み言だった。

 別にパパが悪いわけじゃないことは分かってるけど…、分かってるけど理屈じゃないのだ。

 はぁ…と溜息一つ吐いた後、私は手がかかっていた教室の扉をゆっくりと引き、先に目線だけで教室を覗く。

 やっぱり。

 やっぱりみんな大注目だ、見なきゃよかった。

 みんなが見てる、先生が見てる。

 みんなが待ってる、先生も待ってる。

 でも、竦みあがった私の足は、歩けと命令してもなかなか言う事を聞いてくれない。

 どうしよう、おばあちゃん!

 そう私が、咄嗟(とっさ)におばあちゃんに心の中で助けを求めると――。

 『ニカなら大丈夫よ。自信もって。』

 と、優しいおばあちゃんの声が、頭のなかに響いた。

 そういえば、昨日おばあちゃんが励ましてくれたんだった、そう言ってくれたんだった。

 ――昨日、そう昨日。

 春の陽気が、厭味ったらしく私へと降り注ぐ午後。

 あまりにも今日のこの転校初日が憂鬱だった私は、泣きつくようにおばあちゃん家に上がり込んだ。

 せっかく出してもらったスコーンがやけに喉にこびりつき、大好きなはずのそれが、昨日は全く美味しくなかったのを覚えてる。

 そんな苦虫を嚙み潰したような――実際は甘いお菓子を噛みしめてたけど、そんな私を、おばあちゃんは優しく撫でつつ『大丈夫だから』と、そう諭してくれたのだった。

 ――うん、だから大丈夫。

 おばあちゃんが言うなら間違いない、大丈夫。

 ほら、おばあちゃんが抱きしめてくれた時、少し勇気湧いたもん。

 だから、大丈夫。

 うん、…うん。

 ありがとう、おばあちゃん、頑張るよ。

 そう小さく呟いた頃には、私の足は始めの一歩を踏み出して、しっかりと教室の敷居を跨いでいた。

 あ―…そういえば昨日おばあちゃん家で読んだお話、面白かったな。

 持って帰って読みたいって言ったら、なぜかおばあちゃんにダメだって言われたけど、なんでだろ。

 まあでも、おばあちゃん家で読めるんだから、問題ないか。

 ――って、だめだめ、安心しすぎて関係ないことまで思い出しちゃった。

 今はちゃんと、自己紹介に集中しないと。

 とにかくまずは、段差で躓かない様、気を付けるのよ。

 お話の続きは、学校終わったら、またおばあちゃん家に続きを読みに行くんだ。

 そうだ、そうしよう――。


 ――壇上にあがり、黒板に名前を書き、振り向く。

 みんなが私に注目して、その視線にもちろん少したじろぐ。

 でも、勇気出さないと。

 えーっと、昨日読んだお話の、あの元気な子の口調はたしか――。

「私は胡桃野ニカ、よろしく!…()()()っ!」

 だったはず…。

 …。

 ……。

 …って、あれ?外しちゃった…かな?

 だ、だれも何も、反応…してくれない。

 それどころか呼吸さえ誰もしてないのではと、自分の自己紹介に後悔し始めた頃――。

 動くのを忘れていた時が、永劫にも感じた長い一瞬の間をおいて、ようやく再び動き出し、やんわりと拍手が上がった。

 というか、先生の拍手にみんなが続いたって形。

 正直、恥ずかしい。

 いや、わざわざ言わなくても分かるか、恥ずかしさ極まってたもんね、さっきのあれ。

 はぁ…こんな時に役立つ魔法があればいいのに。

 心の中でそう悪態をついた私は、先生に指示された席へと、とぼとぼ歩く。

 そして鞄を下ろして、椅子に腰を下ろして――。

 ふぅ、ようやく少し落ち着けた。

 クラスの幾人かは、まだちらちらとこちらを伺ってくるけど、気にしない、気にしない。

 とにかく、ひと仕事というか大仕事を終えたんだから、休憩しなきゃ、よ。

 ――って、あれ?

 こんな奇妙なクラスの雰囲気の中、一人両手の中のソフトカバーに目を落としている女の子が、隣の席にいた。

 へー珍しい子、…というか、変わった子?

 転校生に興味ないのかな。

 …本、好きなのかな。

 でもそれより――とてもきれいな子。

 ロングヘアを耳にかけて、本を読む姿が凄く様になっている。

 話しかけてみてもいいかな?

 本好きどうし仲良くなれるかな?

 でも、いきなり話しかけると変に思われちゃうかな?

 うーん…。

 まだちょっと話しかける勇気が出ないけど――。

 いつか仲良くなれたら、いいな。


                             ―続―

 

 

 

お疲れ様でした。

「シン」ってなんだよっ!

と、常々思い続けて映画を見てきましたが

まさか自分で使う事になるとは思いませんでした。

意外と汎用性が高いのかもしれません、「シン」。

オホン、まあ、それはともかく。

これからも情報を小出しにしつつ、魔法少女たちに日常を飛び飛びにお送りしていきます。

お付き合いくださると嬉しいです。

では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。

次回もお待ちしています。


是非とも評価、いいね、コメントをお寄せください。ブックマークもお願いします。

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めんどくさいかもしれませんが、助けると思って、ひとつお願いします

すると次回は少し早く上がるかもしれません。

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