004_使用人を教育してみた
「うむ、悪くないな。」
キョウジに父親カールがあてがったのは屋敷の敷地の端っこの方にある、元々は物置に使われていた小屋である。
中は長年使われていなかったせいで埃っぽく、家具はベッドと埃をかぶった布団だけ。
服は数着、比較的丈夫だが安物の古着。これが部屋にあるのも全てである。
「取り敢えず掃除だな。それから飯の準備もしなくては。」
カールから家にあるものは使用人の許可を得て使っていいと言われているし、食材も使用人が賄いで使っているものなら使っても構わないと言われている。
世話をする為の人は付けないが、生きる上で必要な物は最低限与える。これが現状カールが出来る最大限だったのだろう。
また借りを作ってしまったと思いながら、キョウジは早速掃除道具を探しに屋敷の倉庫に向かう。
それから歩く事暫し、キョウジはある事に気づいた。倉庫の場所が分からないのである。
キョウジは仕方なく、屋敷の方へと向かい場所を知っていそうな使用人を探すことにした。
キョウジが屋敷にたどり着くとそこには4人の使用人、おそらく下働きとメイドが仕事の傍ら談笑をしていた。
「おい、聞いたか。キョウジ坊ちゃんが魔力無しで追い出されたってよ。」
「えぇ、聞いたわよ。全くざまぁないわね。領主の子供に生まれたからって私達を顎で使っていたからその報いよ。」
「でもあの『元』坊ちゃんはまだおとなしい方だったけど、アルベル坊ちゃんはやんちゃが酷いから大変よ。
あのまま大きくなったら出来損ないの『元』坊ちゃんより始末に悪いんじゃないかしら。」
「まぁ、その辺は流石に旦那様が教育してくれるだろう。俺らにはどうする事もできない問題だ。」
どうやら自分と弟の悪口で盛り上がっていたようだ。ガキに偉そうにされていい気分がしないのは分からなくもない。
もっともキョウジは別に使用人を顎で使ったり、偉そうな態度を取った事は無いのだが、相手がどう感じるかは別問題である。
日頃の憂さ晴らしに適当な所に対して悪口を言ってるだけなのだろうが、キョウジにとってはどうでもいい話である。
キョウジは自分の目的を果たすために、使用人達に声を掛ける。
「すまない。少し聞きたい事があるのだが。」
「……ちっ!」
キョウジの声に使用人は露骨に嫌そうな顔をし、その内の一人が舌打ちをする。
どうやら教育がなっていないようだ。別に悪感情を持つのは自由だが、仕事中にそれを表に出すのはNGだ。
そんな事を思いながらもこいつらに教育なんて上等な物を施してやる義理はキョウジにはないので、さっさと要件だけを口にする。
「掃除道具を探している。場所を教えて欲しい。」
「…お坊ちゃん。俺らは今忙しいので他を当たってくれないか。」
キョウジの質問に対して返ってきたのは余りにも露骨な拒絶である。
これを聞いた瞬間、キョウジは思わずため息をつく。
「俺はお前らの主人に屋敷の備品の使用を許可されている。お前らは俺に備品の場所を教える義務がある。
主人に職務怠慢を報告されてもいいのか。」
「それは悪うございましたね。何せ俺らは忙しくてそう言った連絡を受けていないもので。」
勿論嘘である。カールはきちんとこの事を執事長であるバスチャンに伝え、使用人全員がそれを知っている。
彼らは魔力無しであるキョウジを見下し、邪険に扱っているだけである。もっともキョウジにとってはこの程度想定の範囲内である。
「そうか、では今知ったな。早速備品の場所まで案内してくれ。」
「おい、ガキんちょ!俺の言った言葉が聞こえなかったのか!俺らは忙しいんだよ!」
「なるほど。この屋敷の使用人の仕事は主人の子供の悪口を言う事なのか。これは親父殿に報告しておかないとな。」
「テメェ!!クソガキが!!図に乗るなよ!!」
図星を突かれて激昂した使用人の一人がキョウジの胸倉を掴みにかかる。
だがそれが悲劇の始まりであった。キョウジはその右手の親指を掴みねじり上げる。そして、
「イテテテテテテテェ!!!何しやがっ!このギャァアアアアアアアアアア!!!!」
そのまま使用人Aの親指の関節を外す。そのあまりの激痛に使用人Aはその場でのたうち回る。
「テメェ!!何しやがった!」
するとそれを見ていた使用人Bが雄たけびを上げながらキョウジに殴りかかる。
だがキョウジはそれに怯むことなくその体の小ささを生かして相手の股の下をくぐり、強かにその股間に上段蹴りを叩き込む。
「!!!!」
強烈な金的を受けた使用人Bは声にならない叫びと共に泡を吹きながらその場で意識を失う。
「きゃぁああああ!!なんなの!この化け物!!!」
それを見たメイドAは半狂乱になり箒を振り回しながらキョウジに襲い掛かる。
このメイドAの行動にキョウジは思わずため息をつく。
「はぁ、相手を見ずにただ闇雲に暴れるなど獣以下だな。」
キョウジはメイドAに足払いをかけ、その場に跪かせ背後に回りその腕を掴む。そして、
「ちょっと!何するのよ!!ぐっ!!!きゃぁあああああああああああ!!!!!!」
そのままメイドAの肩を外す。脱臼の激痛にメイドAは肩を抑えながら悲鳴を張り上げる。
その惨状を目の当たりにし、ガタガタと震えるメイドBに対して、キョウジは何食わぬ顔で声を掛ける。
「すまないがこの箒とそっちの雑巾を借りてもいいか。」
「…(こくこく)」
「ありがとう。これに懲りたら雇い主の悪口は勤務時間外にする事だな。それでは失礼する。」
この惨状を生み出したキョウジは掃除道具を受け取ると何事もなかったかのようにその場を後にする。
その光景にメイドBはその場を動けずにただ腰を抜かしへたり込んでいた。
そしてその後、それを発見した執事長のバスチャンはそのあまりの惨状とその経緯を聞き胃が痛くなる思いだったという。